in the flight





「ねぇテンゾウ」

「なんですか」



先輩が暗部を抜けてから、こんなにゆっくりとした時間を
二人一緒に過ごせることがあるなんて思いもよらなかった。

暗部のころからずっと付き合ってはいたけど
お互い忙しかったし、何より暗部であった僕は
表立って、里の有名人である先輩と、
外を歩く事も食事に出ることさえもできなくて
付き合っているのか何なのか、わからなくなる時もあった。

でも。
ナルトの九尾のチャクラを抑える力が僕にはあって。
昔の事は思い出したくないけど忌々しいとも思っていた力が、
今は僕の大切な人達の役に立っていると思ったらどんなことだって出きる気がする。

「ちょっとテンゾウ、聞いてるの?」

考え事をしていた僕の浮ついた返事が気に入らなかったのか。
見ると、すこしだけ唇を尖らせてまるで子供のような顔をしていた。

「あはは…聞いてますよ。なんですか」

まったく、表情がころころ変わる。
そんな所がとても好きだから、かわいいと思いつい笑ってしまうんだ。

「最近俺に対してひどくない?
絶対なんか…馬鹿にしてるでしょ」

笑ったことに対して、更に不機嫌になった様子でぷいとそっぽを向いてしまった。
そんな事するからますます、かわいいとか思うんですよ。
当の本人は気づいてないだろうけど…。

「馬鹿になんてしてないですよ」 笑いをこらえながらその横顔を覗き込むと本当に気分を悪くしているようだった。

「もういい。あっち行け」

すると先輩はそう言って、僕から離れて行こうとするから
僕はその腰に腕を伸ばして、自分の胸に引き寄せた。

「そんなふうに感じるなら、すみませんでした。
 僕としては、そんなつもりは全くなかったので」

暖かい体を抱きしめて言うと、まだ抵抗しようと胸の中で暴れる。

「じゃあどんなつもり?前はもっと優しかった!
俺が話しかけてんのに、上の空ってどういう事」

「いや…ただ、最近先輩と一緒にいることが多くて気づいたんですけど。
僕といるときの先輩ってものすごくかわいいなって」

すると、もぞもぞと顔を上げて僕をキッと睨んだ。
「かわいいって何だよ。テンゾウの癖に生意気だ」

だから、そういう行動がかわいいって言ってるんですけど。

「生意気ですか?でも本当にかわいいと思うんですからっ」
「お前にかわいいとか…言われたくない!」
「先輩がそんなにムキになるなんて、珍しいですね」

からかうように言うと、今度は顔を赤くして顔をブンブン横に振った。

「あぁもう、ほんっとうに生意気!」

僕といると、まるで子供なんだから。
でも、それだけ甘えてくれてるって事ですよね。

「でもうれしいです。僕のことで、そんなにムキになってくれて」

そう言って、すぐそばにある先輩の額にそっとキスをすると、
先輩は急に大人しくなって俯いた。

「…だって俺、お前の先輩なのに。なんか立場ないじゃない?
 俺だってテンゾウに何かしてあげたいって思ってるのに
 かわいいだなんて言われたら、何もできないでしょ」


「先輩だとか、そんな事まだ気にしてるんですか?
 先輩だからって何もしなくていいんですよ・・・」

「でも俺、お前に何もしてあげてないでしょ?
テンゾウにいっぱい…、いっぱい愛してもらってるのに。俺だって…」

  耳まで真っ赤にして恥ずかしそうに話す先輩がとてもとても愛おしい。
そんな風に思ってくれているってだけで僕は十分に嬉しい。
それにこの人はわかっていない。何もしてないなんて、そんな事はないんだから。

「先輩は、そのままでいてください」

僕はこうして傍にいれるだけでいい。

「でも・・・」
「じゃあ、キスしてください」

まだ俯いたままの先輩に、お願いをした。
そうでも言わないと顔を上げてくれそうに無かったから。

先輩はゆっくりと顔を上げて僕を見上げると、
腕を胸の中から這い上がらせて、首に絡めた。
僕がその様子をそれをじっと見守っていると、また口を尖らせた。

「目!閉じてよ」

頬を赤らめて言う先輩から目が離せなかったんだけど
そうしたらキスしてくれなさそうだなと思って、ゆっくりと瞼を閉じた。

先輩の薄い唇が、僕の唇に重なり離れて行く。

「先輩は僕の恋人なんです。年上なのにとか気にしなくても…」
「お前が敬語やめないからでしょっ!それに先輩とか言うから…!」
「敬語使うのはやめれません。あと、先輩は先輩。これだけは譲れませんから」

僕が強い口調で言うと、先輩は口ごもる。

「諦めて下さい。…ね?」

「……わかったよ」

僕と先輩には、こんな他愛のない時間が今までなかったから。
先輩が本当は、こんなにかわいい人だなんて知らなかった。
甘えたなんて、知らなかった。
僕はどんどんこの人の事を好きになって。
何よりも大切に思う。

「テンゾウ!また考え事してるでしょ!?」

「先輩の事しか考えてないですよ。いつだって」