in the flight






バースデー(R18)








夕暮れに二人並んで歩いていた。
人目を気にしてあまり外に出かけたりはしないのだが
たまに、たとえば夕飯の買い出しくらいには一緒に出かけることがあった。

道に映し出される二人分の影は、少し離れ、よそよそしく
もどかしいと感じているのは俺だけなんだろうか。

ほんの少し手を伸ばせば、すぐに繋げる事ができるのに。


「涼しくなってきたね」

「そうですね・・・もうすぐ先輩の誕生日ですね」

「あー・・・、そうだっけ」


テンゾウが目を細めて言った。
俺はとぼけたフリして頭を掻いてみる。

誕生日だから一緒に過ごしたい・・・とか思ってしまうのは、
歳を取ったせいなのか。
昔はそんな事、思った事なんかなかったのにね。
でもいまさらそんな事、かっこわるすぎて言えやしないよ。

誕生日が近付けば「予定入れちゃわないで下さいよ」なんて言われて、
当たり前のように毎年祝ってもらって、誕生日なんてどうでも良かったけど
テンゾウが一緒にいたいって言ってくれるのが嬉しかったから、
仕方無いね。なんて言って、一緒に過ごしてた。


「任務ですか?」 「いや、何もないよ」

昔は「絶対に休み取ってて下さいよ」なんて言ってた男が、
いまじゃこうだ。昔はさぁ、俺のことが大好きで、ところ構わず
いちゃいちゃしようとしてきたのに、すっかり落ち着いて、
もちろん今でもかわいいところはあるけど、ずっと男らしくなった。
子供みたいなワガママも言わなくなった。
テンゾウも、大人になったんだよなぁ・・・。

「じゃあ、お祝いしましょう。先輩の家で、いいですか?」
「あぁ。・・・お前の誕生日も一緒にしような」

俺がそう言うと、テンゾウは大きな目をぱちくりさせた。

「覚えててくれたんですか」
「当たり前。忘れる訳ないでしょ」

そう言って笑いかけると、嬉しそうに笑った。

こういう時、本当に嬉しそうに笑う所は子供みたいで
全然昔と変わってないね。


「先輩も、もう三十路ですか」
「まだ29だよ。もうすぐって言ってちょうだい」





       *     *





物が少ない俺の部屋にはテーブルなんて気の利いたものが昔は無かった。
テンゾウが家に来るようになってから、食事を二人でする時に
テーブルが無いのが不便だと、木遁術でテーブルを作り出した。
最初はどことなく違和感があったのだけど、長年使い込んでいるせいか
今ではすっかり部屋に馴染んでいた。

そのテーブルに、丸い小さなケーキがひとつと酒の瓶と空のグラスが二つ並ぶ。
ケーキの上にはハッピーバースデイと書かれたチョコレートが飾ってあった。
俺は甘いものが苦手な訳だけど、テンゾウが必ず用意する。
バースデイケーキがあるだけなのに、不思議と幸せな気持ちになるんだ。

なによりも穏やかでいられる、テンゾウといるこの時間が
俺は本当に、大切だった。

今日はいつもより上等な酒を俺が用意した。
そんなに強い訳でもないテンゾウは、簡単に酔ってしまう。
俺は酔ったテンゾウを見るのが好きだから
特別な日にテンゾウがケーキを用意するように、俺は強めの酒を。

その酒の二杯目を飲み終えた頃には、テンゾウの目はもう溶けて伏し目がちになっていた。


「もう寝てしまいそうです、僕。先輩と違って強くないですから」
「まだ早いでしょ。さっき飲み始めたばっかりじゃない」

任務で疲れているからだろうか、いつもより酒が回るのが早い気がする。
ケーキもまだ全然減ってないし、何より先に寝られたら、かなり寂しい。

俺は手に持っていたフォークで甘ったるいケーキのクリームをすくい取り、
ぱくりと口に運んだ。その時に、これ見よがしに口の端にクリームをわざと付けてみた。

こんな風に誘ってみたりするのも、テンゾウが酔ってる時ぐらいだ。

「先輩。口に生クリーム付いてる」

と、テンゾウは俺の口元に手を伸ばしてきた。
すごく自然に、何のためらいも無く。

あぁもう、違うでしょ。せっかく誘ってるのに・・・。

目の前に伸びてきた手を掴んで、わざとムッとした顔をしてみる。

「こういう時は・・・そうじゃないでしょ」

するとテンゾウは、まじまじと俺を見つめてから
ふっと目を細めて微笑んだ。アルコールで潤んだ瞳が艶っぽく光る。
あ。やっと気付いてくれたみたい。

「わざとだったんですか、それ」
「さぁ・・・どうかな」

俺がそう答えると、掴んでいた手を強く握り返されてテンゾウの顔が近付いてきた。

「じゃあ、遠慮なく」

テンゾウはそう言って、俺の唇を舌先でなぞるように舐めた。
微かに感じる刺激が全身に伝わり、思わず溜め息が漏れる。

それから、どちらからともなく唇を合わせ、舌を絡ませ合った。
もう何年もテンゾウとはいるから、キスしたりセックスしたりするのは
すごく自然で当たり前の行為になっている。

だからたまには、特別な日ぐらいは、酔った勢いで強く求められたいと
思ったりするのは俺だけなのか分からないけど、
昔を思い出すような、テンゾウの欲情した目がとても好きだと思った。

テンゾウの手が荒っぽい手つきで俺の服を捲し上げる。
唇が離され、テンゾウの唇が俺の乳首を、ギリギリの痛くない強さで甘噛みした。

「っ・・・」

歯で咥えられながら舌で舐められると、なるべく我慢しようと思っていた声が
やはり我慢できずに溢れ出してしまう。

その間に、いつのまにか服は全部脱がされて、テンゾウの手は俺の股間へと伸ばされていた。
テンゾウの手に包まれると、腰に熱が集まり体中から力が抜けてしまう。

「先輩の誕生日だからいつもより優しくしようと思ってたんですが、
我慢できません。・・・いいですか」

テンゾウは言いながら、何かごそごそと床に投げ出されていたポーチに手を突っ込み
木製の容器を取り出している。傷薬だ。

いいですかじゃなくて、挿れますよ。の間違いでしょ。準備万端じゃないの。
昔のテンゾウはいつも我慢できなくて、とにかく無理させられたけど
でもま、一応こうやって訊くんだよね。それは昔も今も変わらないんだけど。
それを必死で余裕のない顔で言うもんだから、かわいくて仕方無かった。

「いーよ。・・・お前の誕生日の祝いも一緒にやるって言ったでしょ、俺」

テンゾウだって気付いてると思うけど、故意にこうなるように仕向けてるんだから。

「じゃあ二回目は、優しくしますんで」

と、テンゾウは嬉しそうな顔をしてから俺を抱きしめて、唇を合わせる。

テンゾウの指がぬるりと、俺の中に入ってきた。
いつもよりも荒々しく、
でもやっぱり痛くないように入り口を広げていく指の動きに力が抜けて、
思わず声が溢れる。

「あぁっ・・・」

何度か指を出し入れされた後、両足を持ち上げられた。
そして、熱いテンゾウのものがそこに押し当てられる。

「テンゾウ、早く・・・」

我慢できずに言えば、体を重ねるようにしながら中まで突き立てられた。
塗りたくられて溶けた傷薬の音が、卑猥な音をたてる。

「はっ、あっ・・・」
「・・・好きです。今も変わらず、ずっと」

うつろな目でテンゾウはそう言って。
何度も何度も、激しく腰を打ち付けてくる。

「んっ・・・ああっ・・・!いっ・・・いク・・・!」
「じゃあ僕も・・・。先輩と、一緒にイキたい」

テンゾウに導かれて、ほぼ同時に昇り詰めた。
ぼんやりする頭と、荒い息を整えながら
重く俺に伸しかかったままのテンゾウのやわらかい猫毛を、くしゃりと撫でた。

「さっき、言えなかったけど。俺も、ずっと好き」

こんな時じゃないと、今更恥ずかしくて言えないから。

どれだけ一緒にいても、テンゾウが好きだって思える。
何度も体を重ねているけど、テンゾウ以外考えられない。

ねえ、聞いてる?

反応が無い。・・・落ちたか。

「テ〜ンゾ?本気で寝ちゃったの?」

尋ねてみても、返事は帰ってこない。
しばらくすると、気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。

ベッドにでも運んでやるか。と、テンゾウを押し退けて
取りあえず床に転がしてみると、むにゃむにゃ口を動かしながら
幸せそうな顔をしていたのが、おかしくって、かわいくって。

「でも。いつもの事だけど、先に寝られるのはやっぱり寂しいよな」

と、床に全裸で転がったまま熟睡しているテンゾウのこめかみを、軽く指で弾いた。
それでもテンゾウは気持ち良さそうに、すやすや眠ったまま。

「おやすみ」

小さくそう言ってテンゾウにキスをすると、んん・・・・と、反応を見せた。
キスだと反応するなんて、相変わらず失礼なやつ。
俺は立ち上がり、部屋の灯りを消す。
ベッドから毛布を持ってきて、テンゾウを抱きしめて一緒にその毛布に包まる。
毛布に包まると、俺も眠たくなってきて。
テンゾウが起きてたら言えないから、今のうちに言っておこう。


「・・・来年の誕生日も一緒に、ね」



おしまい






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