in the flight





Every day








カカシ

 夜明け前になってもテンゾウが戻らない。俺はテンゾウに会いたくてわざわざここに来たのに、どうしていつもあんな事をしてしまうのだろう。
 こんなに好きになるつもりなんて無かった。深入りしたくなかった。もう大切なひとは失いたくないから、テンゾウが大切な人だって事に気付きたくなかったんだ。
 でも距離を取ろうと思って冷たい態度を取れば取るほど、後で後悔してしまう。今だってそうだ。結局眠れる筈もないし、テンゾウのいないベッドで一人でいたって寂しいだけ。・・・捜しにでも行ってみよう。

 テンゾウの居そうな所を手当たり次第に捜し回る。任務帰りであまり寝てないから、どこか宿に入っているかも知れないけれど、テンゾウの家にじっと一人でいるよりはずっといい。
 里の外れの森に入ると、テンゾウがここにいるような気がした。
 まだ暗い森の中。気配を消してテンゾウを捜すと、それからすぐに川沿いの木の枝に腰掛けているテンゾウを見つけた。後ろ姿で表情は伺えないけれど、眠っているような様子はない。その後ろ姿を見ているだけなのに胸が痛くなった。なんて声をかけたらいいんだ。
きっと、怒ってるだろうしな・・・。

 俺はテンゾウめがけてクナイを投げつける。ほんの冗談のつもりで。
 テンゾウはそれに反応して、クナイを弾いた。金属音が響き渡り、その瞬間に俺の目の前に移動してきた。その表情は本気で怒っているようで、冗談だなんて言えそうになかった。
「そんなに僕の事が嫌いですか」
「・・・好きだって言ってるでしょ」
 嫌いなやつの事、わざわざ捜したりしないでしょ。でも今更素直になんかなれなくて、からかうようにしか言えなかった。
「じゃあなんで触れさせてもくれないんですか?わざわざ任務から帰ってきてすぐの僕に会いにきて、あんまりです。僕とするのがそんなに嫌ですか?」
「・・・」
 自分でも分からない。でも、テンゾウに触れられたら、それだけで体が熱くなるし苦しくなるし、泣きたくなる。多分、それが怖いから拒絶してしまっていたんだ。でも本当は、テンゾウに触れてほしいって思ってる。
「何も言わないんですね。それなら・・・体に聞いてみましょうか」
 テンゾウはそう言いながら木遁術で俺の手足を縛り上げた。ギリギリと手首にチャクラでコーティングされた角張った木材が食い込む。逃げられないようにって訳ね・・・。
「・・・随分な扱いだな」
「先輩が言ってくれないからですよ。本当に嫌だと思うのなら逃げてください」
 嫌なんかじゃないんだ、本当は。触れられたいって、どうして言えないのだろう。
 はじめましょうかとテンゾウが言って両手を合わせると、足下からメキメキと音を立てながら木が一本伸びてきて、ぐんぐんと大きくなり見上げる程の高さになった。
 そして、いきなり俺の手首を拘束している木材に強く前方に引き寄せられて、目の前の木の幹に抱きつくような形にされて、両手首を硬く縛り上げられた。
「今まで優しく抱いてきましたけど、僕がそんなに優しくないって事を教えてあげます」
 背後から抑揚の無いテンゾウの声が聞こえてくる。後ろを振り返ろうとすると、今度は両足を後方へと引っ張られて上半身がずるずると下に落ち、硬い木の皮で頬を擦りむいた。いくらなんでも、ここまでしなくてもいいと後ろを振り返った。
「やりすぎでしょ・・・!」
「優しくしないって、今言ったばかりじゃないですか。・・・嫌だったらそう言って下さい」
 テンゾウにズボンごと下着を降ろされて下半身だけが外気に晒されている。テンゾウは無表情のまま指を唇に当て、舌でぺろりと舐め唾液を指に絡ませた。
「僕は・・・先輩が好きだから、こんな風にはしたくなかった。でももう先輩に弄ばれる事に耐えられそうに無いです」
 テンゾウの冷えた指が俺の中に突き立てられ、痛みが走る。いつもならゆっくりと時間をかけて解きほぐしてくれるのに・・・。
「・・・っ」
 それでも久しぶりの感覚に、すぐに体中が熱くなってしまう。テンゾウの指が少し動かされるだけで腰に熱が集まって、力が抜けていく。
 指がもう一本差し込まれ乱暴に入り口を押し広げるようにぐにぐにと動かされ、酷くされているのに気持ちいいと感じてしまう。
「あっ・・・あぁ・・・」
「・・・先輩、気持ちいいんですか?もしかして、こんな風にされるほうが好きですか?」
「・・・ちが・・・う」
 違う、そうじゃない。そんなのテンゾウだからに決まってるじゃない・・・。ずっとテンゾウに抱いてもらいたかった。
 それからすぐにテンゾウの指が抜き取られ、すぐに熱く硬く膨張しきったテンゾウのものが一気に押し込まれた。
「ああ・・・っ・・・んっ・・・」
「じゃあ、どうしてですか・・・。先輩・・・」
 気持ち良すぎて視界が霞んでいる。何度も腰を打ち付けられて頭が真っ白になり、何も考えられない。
「テ・・・ンゾ。触って・・・前も・・・っ」
「・・・優しくしないって何度も言ってるでしょう。先輩のお願いなんか、聞いてあげませんよ」
「や、だ・・・触って・・・テンゾウ・・・っ」
 もっと触れてほしいと思った。抱きしめて、キスして、沢山好きだと言ってもらいたかった。嫌だ・・・こんなの。こんな風にテンゾウと繋がりたくない。そう思いながらもテンゾウに何度も突かれ、拒絶しようにも体が言う事を聞いてくれない。そのもどかしさから、涙が零れ落ちる。

しばらくしてテンゾウのモノがずるりと引き抜かれ、尻に生暖かい液体がかけられた。・・・嘘?俺、まだなのに。もう・・・おしまいなの?やめないで。そう思いながら振り返ると、テンゾウはズボンを履き終えたところだった。
「・・・テンゾウ」
「何ですか」
 俺がイクまでしてくれないの?って言おうと思ったけれど、冷たいテンゾウの表情を見てしまったら言えなかった。まだ俺の体は熱を持ったままで、でも手足はずっと拘束されたまま。自分で処理する事もできず、ずるずるとその場に蹲った。
「・・・それ外さないんですか」
「もういい。お前、どっか行って」
「そういう訳にはいかないでしょう。先輩のこんな姿、誰かに見られたらどうするんですか」
「お前が処罰されるから困るってだけでしょ」
「そんな事言ってるんじゃないですよ・・・!僕はもし襲われたらどうするのかって言ってるんです」
「・・・はは。お前が襲っておいて、よく言うね。そんな物好き、お前以外にいないよ」
 もしこれがテンゾウ以外の男だったら、俺がこんな風にじっと我慢してる訳ないでしょうよ。・・・って言っても、信じてくれないのだろうけど。
「まったく・・・本当に僕は物好きですよ。こんな可愛くない人を、好きだなんて」
「・・・可愛くなくて悪かったね」
 あぁでも・・・こんな状況でも、テンゾウが俺の事が好きだって知れて嬉しいと思ってしまった。
 目を閉じれば手足を拘束していた木材が、するりと解けた。
「え・・・」
「痣、できちゃいましたね・・・」
 顔を上げれば、テンゾウが俺の手首をそっと持ち上げた。テンゾウと目が合った。さっきまで冷たい目をしていた筈なのに、今はいつもの優しいテンゾウの黒い瞳がじっと俺を見ている。テンゾウのあたたかい手の平が俺の顔を包み込んだ。
「顔にも傷が」
「・・・何なのよ、いきなり態度変えちゃって」
 混乱してしまう。さっきまでのテンゾウは、どこに行ったんだ?終わった途端、こんなんに優しくなるなんてズルい。
「・・・僕は先輩が好きなんです。だから、こんな事本当はしたくなかった。先輩が僕の事をどう思ってるのか知りたかった。先輩は答えてくれなかったけど、逃げなかったって事は、僕の都合のいいように解釈しても、いいって事ですよね・・・?」
 あぁ・・・テンゾウだって傷付いてるんだ。俺だけじゃない。こんな事をしたテンゾウも平気じゃないのだ。
「後で話すから。・・・連れて帰ってほしい」
「分かりました」
 テンゾウは答えてポーチから手ぬぐいを取り出し、さっき汚した俺の体を拭く。もう収まりましたか?なんて言いながら俺の乱れた服を直した。・・・そんなの見たら分かるでしょ。
「先輩の家でいいですか?」
 そう言って俺を両腕で抱き上げる。ていうか、これを誰かに見られるのもかなり問題だと思うんだけど・・・。テンゾウの体温を、ようやく体中で感じてまた泣きそうになった。テンゾウの首に腕を絡め、ぎゅっと顔を埋めて頷いた。

 家に着いた頃にはもう陽が昇り始めて、眩しい光が差している。部屋の中に入ると暗く静まり返っていて、その暗い部屋のソファに降ろしてもらった。
「風呂を入れてきます。あと、温かい飲み物も」
「あ〜・・・お願い」
 そう言ってテンゾウは忙しなく浴室に向かった。お湯が勢いよく流れる音がして、その後台所でカタカタと、また物音がする。
 俺はその間に医療パックを出してきて、擦りむいている腕に消毒液をかける。テンゾウの言う通り痣ができて、木のトゲがあちこちに刺さっていた。まったく・・・もっと滑らかな木にしてくれたら良かったのにと思いながら、ピンセットでトゲを抜いていると、お茶を二つ持ってテンゾウが戻ってきた。
「もういい、めんどくさい」
ピンセットをテーブルの上に放り投げてお茶をもらい、とりあえず飲むことにした。テンゾウはお茶を飲むわけでもなく、俺の前に座り込む。
「・・・お前も飲めば?」
「いえ。・・・先に治療をしておきたいので」
 そう言って机の上に置いたピンセットを取り上げ、両膝を床についたまま立ち上がり俺と視線を合わせた。
「頬、こっちに向けてください」
 テンゾウの手が折れの肩に置かれ、顔が近付く。・・・手当なんかより、キスがしたい。さっきキスさえもしてくれなかった事が、どうしようもなく悲しかった。
 擦りむいた左の頬をテンゾウに向けて目を閉じて。手当が終わるまで、じっとしていた。その間中、ずっとテンゾウの事を考えていた。

 俺は今まで自分が良ければそれでいいと思っていた。最低だったと思う。それなのに、よく俺の事を嫌いにならなかったなと思ったら胸が痛くなった。テンゾウにした事を思い出せば、やりきれない思いになる。それでも俺が好きだって言ってくれるテンゾウが、愛おしくてたまらない。
「・・・終わりました」
 テンゾウの声に目を開くとすぐ目の前に、黒い瞳。何も言えなくてただ見つめ返すと、すっとまぶたが閉じられてテンゾウが立ち上がった。
 あっ・・・と見上げる俺に、風呂を見てきますと言って立ち去ってしまう。

 俺はその後をすぐに追いかけた。白い湯気がたちこめる浴室で蛇口を閉めているテンゾウの背中を後ろから抱きしめる。
「・・・先輩?」
 俺の行動に戸惑った様子で、テンゾウは固まっている。
「また・・・からかってるんですか」
「違う、そうじゃない。俺・・・お前が好きなの」
「それ・・・何度も聞きました」
「うん。そうだね・・・でも、本当にテンゾウが好きだから」
 俺の手にテンゾウの手が重なって、強く掴まれ引き離される。・・・信じてもらえない?からかってなんか、いないのに。
 テンゾウは俺に向き直ってから、小さく溜め息を吐いた。
「本当ですか?」
「信じてもらえなくて当然だけど」
 でも信じてもらえないのは、すごく悲しい。浴槽の縁に腰を降ろしてテンゾウを見上げた。どうやって気持ちを伝えたらいいのか分からない。好きだって言ったって、今までの事があるから。
 腕を伸ばしてテンゾウの手を掴んだ。
「・・・抱きしめて」
 テンゾウはまだ戸惑っている様子だった。掴んだ腕をぐっと引き寄せると、上から覆い被さるように抱きしめてくれたのは良いのだけど、勢い余って後ろの浴槽の中に派手な水音を立てて二人して落ちてしまう。
「わっ・・・!」
 俺の上に被さったテンゾウが慌てて出ようとするから、引き止めるように、もう一度テンゾウを抱きしめた。
「好き。・・・何度言ったら、信じてくれる?」
「・・・先輩」
 テンゾウの体を引き離して向き直る。その頬に手を添えゆっくりと顔を近付けて、その目、頬、唇にキスをした。軽く触れるだけのキスなのに、胸がズキズキ痛い。
「キスして」
「僕からですか?」
「うん・・・テンゾウに、キスしてほしい」
 頬に添えたままの手にテンゾウの手がそっと重ねられた。目を閉じれば、さっき俺がしたのと同じように顔中にキスをしてくれた。もうそれだけで、泣きたくなる位に胸が苦しい。
「先輩・・・?」
「苦しくなるんだよ」
「え?」
「お前に触れられたら、キスされたら・・・胸が痛くなる。泣きたくなる」
「先輩・・・それって」
「だから・・・嫌だった。大切な人なんて作るつもりなんて、無かったのに」
「・・・僕は先輩より先に死んだりしません」
「・・・」
「だから、歳を取って、おじいちゃんになるまで一緒にいましょう」
「しわしわになってもか・・・?それは、勘弁」
「そんな夢の無い事言わないで下さいよ」
「俺だって・・・お前より先に死なないからな」
 約束って言って、もう一度唇を合わせる。今度はずっとずっと長いキスを、何度も深く角度を変えて舌を絡ませあう。気付けば涙が零れていた。テンゾウが、好きだ。
「好きです。・・・抱いてもいいですか?」
 そう言って、テンゾウは俺の服に手をかけた。小さく頷くと、テンゾウの温かい手が俺の肌に触れる。それだけでもう体中が熱くなって、苦しくなって、しがみつくようにテンゾウに抱きついたら、もぞもぞと狭い浴槽の中で服を脱がされた。
「・・・狭くない?」
「いえ。このほうが、先輩を近くに感じられるので」
 俺はそう言ったテンゾウの服を脱がす。直に触れ合う肌が気持ち良すぎて頭がぼんやりしてしまう。テンゾウの唇が俺の耳に触れ甘噛みする。
「ん・・・っ」
 優しく気遣うように丁寧に、テンゾウは俺に触れてくれる。体中が酸欠状態になっているかのようで苦しい。・・・そうだ。テンゾウに抱かれると、いつもこうなってしまうんだ。
「好き・・・先輩」
 テンゾウは何度もそう囁き、唇を重ねた。テンゾウの手が大きくなった俺のモノに触れ、優しく包み込む。ゆっくりと動かされると体中の熱が腰に集まって力が抜ける。
 テンゾウにしがみつけば体を持ち上げられて、浴槽の縁に座らされた。ぼんやりしながら目を開けば、テンゾウが俺の太ももをそっと撫でて、俺のモノに唇を落とした。音を立てながら何度も先端を唇で吸われ、たまらずテンゾウの頭を掴んでしまう。
「っ・・・」
 テンゾウの口内へ導かれる。そして何度も頭を動かされると、気持ち良すぎて目の前が真っ白になった。
「あっ、あっ・・・」
 あっという間に達してしまって、大きく肩で息をしていたら強く抱きしめられた。
「少し休みましょう」
 そう言って外からバスタオルを取ってきて、まだぼんやりしている俺の体を拭いて抱き上げられる。
「・・・一緒に寝ましょう」
 ベッドに二人で入れば俺はすぐに眠ってしまった。テンゾウの方が疲れていたはずなのに、眠る直前まで俺の頭を優しく撫でてくれていた。

 甘くて温かい重みを体の上に感じて目を覚ませば、テンゾウが俺を抱きしめながら眠っていた。テンゾウの手がしっかりと俺の手を握ってくれている。その手を、気持ちを込めながら強く握り返す。
 大切な人の手はもう何があっても離さない。これからも、テンゾウとずっと一緒に。






home