in the flight





First impression







そんなこんなで、先輩の第一印象は近寄りがたい人だった訳なんだけど
それは僅か一日もかからないうちに覆されてしまって。


僕の顔を見ては笑い転げる失礼な先輩を残して、また歩き始めると
いやあ、ごめんごめん、だなんて駆け寄ってきて僕の隣に肩を並べた。

「・・・失礼ですよ」

顔をヒクつかせながら先輩を見ると、さらりと流れる銀髪に
ほんの少しだけ赤黒い返り血がついて固まっていた。
思わず手を伸ばして触れそうになったのを我慢する。

「先輩、髪に血が」

手を伸ばすかわりに、そう伝えた。

「えっ?嘘、目立つ?」

先輩はそう言って、自分の髪に手をやってわしわしと髪を掻き回した。

「そんなに目立たないですけど、
この格好であまり里をうろうろしたくは無いですね・・・」

人通りの無い小道、もうすっかり陽が落ちて月が昇り始めている。
防寒用にもなるマントは暖かいけれど、
それでも隙間から冷たい風が入り込んできて体を冷やす。

「うん、でももうちょっとで着くからさ」

そう言いながら髪をずっと気にしている先輩は
なんだかかわいく見えたりもした。

「ちょっとしか付いてないですから、わかんないですよ?」
「・・・そお?」



     *

薄暗い建物と建物の間の、細長い路地を入って左に曲がった所に
ひっそりとその店はあった。
なんでも暗部御用達のお店らしく、任務帰りに一杯やる時は、決まってここなんだそうだ。
中に入ると、暗部の格好をした人間が何人かいて先輩と僕を見るなり、皆驚いたような不思議な顔をした。
先輩はそんな周囲の目も気にしないで、開いていた一番奥の席にさっさと座って。僕も、その向かいに腰を降ろした。
カカシさんだなんだって声が、あちらこちらから聞こえてくる。


そして熱燗と、ほかほかのおでん。

「今日はおつかれさま」
「おつかれさまです」

にしても、先輩が一気に親父臭く見えるのは気のせいか。
熱燗とおでんだなんて、まぁ僕も好きですけど。

「あ、テンゾウ。血、拭いてよ」

思い出したようにそう言って、頭を僕の方に差し出した。
その行動が無防備に見えて、ちょっと可笑しくなった。

「そのまま、じっとしてて下さいね」

血で固まってしまっている毛束をそっと掴んで、
手元にあったおしぼりで拭いてあげる。

とはいっても、本当に少ししか付着していなかったからそれはすぐに取れた。
先輩の髪は、思ったより柔らかい。

血はもう取れたけれど、拭き取るふりをしてその髪を撫でていると、
「取れた?」
と、不意に先輩が顔を上げるから、顔の距離があまりに近くなり
慌てて手を離して後ろに身を引いた。

「とっ、取れました」

なんなんだろう。先輩といると、僕はどうも調子がおかしい。

「ありがとうね」

にっこりと笑う先輩を見たら、心臓の音が早くなって何も言えなくなる。

「?・・・テンゾウって、本当に変だよね」

やっぱり、変だよなぁ。そう思いながらも、その原因は
先輩にある事は間違いないと僕は思った。

「先輩のせいです」
「なんで俺のせいなのよ」

むすっと唇をとがらす先輩は子供のようで。

「先輩といると、いつもの僕じゃなくなるんです。
それに、胸はなんか痛くなるし、なんなんですか」

いろんな表情を僕に見せてくれる先輩に驚いてばかりで、
その度に、よくわからないけど
胸が痛くなったり、心臓の音が早くなったり。

自分じゃもう分からなくて、その原因になっている先輩に
言ってしまう事しかできなかった。

すると先輩は、目を丸くさせて僕をまじまじと見つめた。

「テンゾウ、それってもしかして・・・」

僕は先輩の言葉の続きを待った。
きっと、僕のこのよくわからない感情の原因が
先輩には分かっているんだろう。


その後、先輩はクスっと笑ってから目を閉じた。
「ううん、なんでもない」

「えぇっ・・!教えてくださいよ、先輩」

僕がそう言うと、右目だけを開いて目尻を下げて微笑んだ。

「そうねぇ・・・。ま、俺と一緒にいたら
そのうち分かるようになるんじゃない?」

「なんなんですか・・・もう」





    * * *

この時先輩は、僕の気持ちに気付いていたんだけど
僕がこの恋に気付くまでには、まだもう少しだけ時間がかかりそう。