in the flight




花束









休日に外で待ち合わせをする時は
ふたりとも歩いてその場所へと向かうんだ。


ゆっくり歩きながら、先輩の事を考える。
すべてを肯定しているかのような
生まれたての瑞々しい草木、あたたかい太陽、柔らかい風。
そして、歩く人々の表情もどこか優しげに見えてくると
足取りも軽くなる。


待ち合わせの場所へと続く
陽の当たらないひんやりとした路地裏の階段を駆け上がると、
ちょうど反対側から先輩がやってきた所だった。


胸に大きな花束を抱えた先輩は、少し困ったように笑う。


「頼んでもないのに、こんなに大きな花束になっちゃって」


でも、先輩の白い肌や銀色の髪に
色とりどりの花束はよく似合っていた。
それが妙に、僕を興奮させる。


「この陽気に、花屋さんも気持ちが大きくなってるんですよ。
 花、先輩に似合う色ばかりですね」


先輩の前へと歩み寄ると、強い花の匂いがした。
かわいらしい見た目とは裏腹な、濃厚な花の匂い。


それを持ったまま、先輩に微笑まれると
なんだか背筋までゾクリとする。


目の前にいる先輩は、かわいくて美しい人だけど
僕に抱かれた時に見せる妖艶な一面は、僕を驚かせる。
まるでこの花のように。


考えてみれば、花は咲くその時まで
それがどんな姿なのかは分からないからこそ、
多くの人は花に惹き付けられたりするんだろう。
そしてその様は、人があまり他人には見せない部分と
どこか似ている所があるから、
愛の表現にはよく花が使われたりするんだと思う。


そんな花を沢山束ねた花束を持つ先輩を見たから
僕は変な気分になってしまったんだろう。
無理矢理抱きしめていきなりキスしたい。
というか、今すぐしたい。
この吐き気がするほど強い花の匂いに包まれて。


「でも、これ俺のじゃないからね〜」


先輩に言われて、ハっと気付いた
僕は小さく溜め息を吐く。そうだった。


今からあの場所へ行くというのに。


「そうでしたね」


もう一度溜め息を吐いて、下半身の事ばかり考えてた
どうしようもない頭を冷やした。


「・・・なんの溜め息?」
「なんでもありません。さ、行きましょうか」


花束は、慰霊碑に眠る先輩の大事な人へ。


その後は、家に帰って先輩を抱こう。
僕がいなければ、咲き乱れる事のできない先輩を。
いつまでも、僕の中で枯れる事のない花。





これ書いている冷静な自分が、「もう黙れ」と何度も言っておりました。
ていうか、テンカカ萌えというより、草花萌え。ですね。仮タイトルは「草花の魅力」でお願いします。・・・逃