in the flight




日溜まり











春の風に吹かれて散りゆく桜の花びらをぼんやりと目で追っていたら
僕達の関係もいつか桜のように儚く消えてしまう時が来るんだろうかとか
柄にも無い事を思ったりした。

付き合い始めて随分と長い時間が過ぎたけど、時間が経つにつれて
僕はカカシ先輩の事が判らなくなっていた。知れば知る程、わからない。
先輩と視線を合わすと、先輩の目は僕を見ているようで見ていない。
どこか遠く、ずっと向こうを見ているような気がして
捉えようとすると、すっと瞼を閉じてそれを拒絶される。

大体どうして僕なんかと付き合ってるのか。
男の僕と付き合う事だって疑問に思うけど
僕といて先輩は、何か得るものがあるんだろうか。
せいぜい僕に出来る事といえば、先輩の体を満たしてあげる事ぐらい。

それで僕はいいと思ってる。
僕は先輩に傍にいてくれる事以外は何も求めない。
だからこそ、これだけ長く付き合ってられるんだろう。

目の前で広げた手のひらに花びらが一枚舞い降りた。



「なに、ぼーっとしてんの」

ふと聞こえてきたその声に顔を上げると、人に何してるのかを聞いてる割には
無関心そうな表情を浮かべたカカシ先輩が立っていた。

「先輩・・・。こんな所に一人で来るなんてめずらしいですね」

「なんとなく、テンゾウいるかなって。ここによくいるでしょ。お前」

そう言った先輩は僕の前まで来て立ち止まり、そこに腰を降ろした。
近くて遠いこの距離は今の僕と先輩のようだと思った。

「・・・なにか、用でも?」

「いーや。なんにも」

先輩はそう言って少し笑った。ふっと、緊張が抜ける。
なんでだろう、この人が笑うだけで回りの空気が緩むのは。
そう感じるのは先輩が好きな僕だけなのだろうか。

「難しい顔して何考えてたの」

そして先輩はまた眠そうないつもの顔に戻った。

「大した事じゃありませんよ」

僕は笑って答えた。そう、大した事じゃないって自分に言い聞かせるように。
この人がなんで僕と付き合ってるかなんて、そんな事はどうでもいい。

「そ・・・?俺、お前が何考えてんのかさっぱり分からないよ」

そう言って先輩は空を仰ぎ、眩しそうに目を細めた。
僕は光に照らされた先輩をじっと見つめる。
先輩の言葉の真意を探ってみたいけど
ぼんやりと空を仰ぎ見る先輩が眩しかったから何も聞かないことにした。

ざわっと音を立てて、僕と先輩の間に強い風が吹く。
花びらが舞って先輩の髪の上に留まる。
銀色の髪に薄桃色の花びらはよく似合う。


体を起こし身を乗り出すようにして先輩に近付く。
片手を地面につけ体を支えながらもう片方の手を伸ばし
髪に付いた花びらを取ろうとすると、その手首を先輩に掴まれた。

え・・・と思う間もなく、すでに先輩は口布を降ろしていて
次の瞬間には唇が重ねられていた。

僕の手首を掴んでいないほうの手が首に回り、そのまま後頭部に手が潜り込む。
こんな所でキスなんかしたがらない人なのに。
理由はなんにせよ先輩がしたいというなら、僕は望み通りに。

目を閉じて、絡んでくる舌に答えてあげるとそれだけで熱い溜め息を漏らした。
舌を根元まで挿し込んだら鼻を鳴らし、僕の手首を強く掴んでいた手を離して首にかけた。

空いた腕で先輩の背中を支えながら後ろに倒すと、太ももに大きくなっている先輩の熱いものが密着する。
キスをしながら手を下に伸ばしそれに触れると、苦しそうに息を吐いた。

 

用がないなんて、嘘だ。こうして欲しかったんだろう、多分。
僕が先輩にしてあげられる事はこれしかないから、求めてくれたら嬉しい。
ただこんな昼間の里に近い場所でセックスするほど僕は若くはない。

唇を離して上から見下ろしたら、先輩はゆっくりと瞼を開いて目を細めた。

「場所を変えましょう」

すると僕の首に回っていた先輩の腕に引き寄せられて、逆に組み敷かれてしまい
今度は僕が先輩を見上げている。・・・光が眩しい。
じっと黙って見上げていると先輩は口を開いて何かを言いかけ、口をつぐんだ。
そして溜め息。僕を見下ろしていた熱い瞳はゆっくりと閉じられた。

「・・・先輩?」

「ごめん。こんな所で悪かった」

まるで自分を咎めるように言ってから体を起こした。
僕も一緒に起き上がり、よくわからないまま先輩の体を抱きしめる。

「どうしたんです?」

「・・・桜が散っていくから寂しくなっちゃったのかな」

ぽつりと呟くように言った先輩を更に強く抱きしめて思った。
この人は、僕が思ってるほど何も考えていないのかもしれない。
そう考えると途端に先輩の事が欲しくてたまらなくなった。

「家に帰りましょう、先輩」

「なんか、一緒に住んでるみたいな言い方」

そうは言ったものの体はまだ先輩を抱きしめていたくて
抱きしめている腕が外せない。

「一緒に暮らして下さい。僕と、ずっと一緒にいてください」

「・・・ふふ。いいけど、どうしちゃったの?そんな事言う奴じゃないのに」


どうしたのかと聞かれても自分でも分からない、でも伝えたくて仕方がなかった。
言ったあとで僕は、今までどれだけ自分の想いや感情を先輩に伝えられたのかと考え、
そしてそれをほとんど伝える事が無かった事に気付く。

「・・・そうですね。今日はどうかしてるんです」

「ほんっと。俺もお前も、どうかしてる」


そう言った先輩の声色はどこか少し嬉しそうだった。
ゆっくりと背中に回された腕はあたたかく優しい。

散りゆく桜の花びらと新緑の木々の合間にできたひだまりのなかで
僕達は何かが変わったかもしれないし、何も変わっていないのかもしれない。




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もう五月中旬なのに桜散ってるとかすいません。桜の頃、季節物を書こうと思って書いてて放置されてた物を発見。
見つけて速攻、お題に回してしまうという強引っぷり。
いつもと違う感じにしようと思って書いてた記憶があるのですが、読んでて何かやっぱり違和感があります。
息継ぎ少なめでだだだって感じですよね。
こんな所まで読んで頂いてありがとうございました!