in the flight



「あの…少しだけお時間いいですか?」


先輩と任務帰り、食事を取ろうかと里を歩いていたときの事。
女の子が駆け寄ってきて、僕達の前に来て言った。
…またか。と僕は思った。


僕の恋人であり、先輩であるカカシさんはとにかくもててしまう。
でもこの容姿なら、仕方がない。そのうえ、容姿だけではなくて人一倍思いやりがあって、仲間思いで優しい。
そしてとにかく強い。僕もそんな先輩が大好きで仕方がない。
だから、一緒に歩いててもこんな事は日常茶飯事。まさか僕達が付き合ってるなんて、誰も思わないし。


「…」

あれ。先輩、無視ですか?今日は冷たいんですね。
そう思って、その女の子を見ると先輩ではなく僕をじっと見上げていた。


へっ?

「テンゾウ。お前だって」先輩が呆れた声で、僕に言った。
「ぼっ、僕?」

まさか自分だとは思わなくて、おろおろと慌ててしまう。
自慢じゃないけど、僕は先輩と違って全くもてない。だから、先輩と付き合っている事自体嘘みたいなんだから。

「あ、あの…ずっと好きでした!」
そう言って、赤くなりながも必死に僕に伝える女の子が可愛く思えた。
だけど…ごめんね。僕には先輩がいるんだ。「ありがとう。…でも、僕付き合ってる人がいるんだ」


当本人の先輩をちらっと見ると、照れたようにそっぽを向いて頭を掻く。
「…そう…ですか」女の子は俯いて、そのまま走り去って行った。僕はそれを、ポカンと見守る。
「あ〜あ、泣かせちゃって」
先輩の呑気な声が聞こえる。
「なっ!それこそ先輩のほうが沢山泣かせてるじゃないですか」男も女も。
「はいはい。でも、お前が心配する気持ちもちょっとは解ったよ」
やっぱりもてる人と付き合うのは、色んな心配がついて回る。
「先輩には僕の心配なんて、これぐらいじゃあ解りませんよ!」
「俺の事は心配しなくていいからって、いつも言ってるでしょ?」
先輩が僕の顔を覗き込んで、にっこりと笑った。
「…はい」

惚れた弱みで、そう言われてしまえばうなずくしかないし。
「早く食事、行こう」
そう言って、また歩き出す。
「ねぇ、テンゾウって俺が初めてじゃないでしょ?」唐突に先輩が言い出す。
「ちょっ…こんな人が沢山いる所でやめましょうよ…」
「誰も聞いちゃいないよ」いやいやいや…。
「ね〜、教えてよ」
「教えません」
「教えて」
「…嫌です」
「…ふ〜ん、あっそ。じゃ、もう今日はやらせてあげないよ?」先輩が、僕の耳元で囁く。
「〜!」

そ、そんなぁ…。
ずっと任務で、一週間ぶりに今日は先輩を抱ける!って意気込んでたのに!こんな事で…。はぁ…。

「…初めてじゃないですよ」
別に、これについて話すのは何も問題はないのだけど。
「で、誰?」
「…いやぁ、それは…ちょっと…」
「俺知ってる人だから、言えないんでしょ。いいの?いいのかな〜テンゾウ君」先輩は意地悪そうな顔をして笑う。
「じゃあ当ててみて下さいよ」僕は、はぁ〜っと、大きくため息をついた。
「ん〜、じゃ、一発で当てれたらこの後の食事お前の奢りね」
「はぁ〜っ?なんでそんな事で僕がっ」
「いいじゃないの」

ったく、この人は。僕より高給取りのくせして、いつも奢らせようとするんだから。
「わかりましたよ。言ってみてください」
どうせ解るはずもない。

「・・・」先輩がこそっと耳打ちする。瞬間僕は顔が真っ赤になった。
「なっ!先輩!!知ってたでしょ〜!」
怒る僕を見て、くすくすと笑う先輩。
「本人に聞いたんじゃないよ」そりゃそうだ。あいつは自分から言うような奴じゃない。だとしたら…
「ゲンマさんですか」
「そうそう。よくわかったね。前、ゲンマと飲んでた時にちょっとね」

はぁ…。そうだった。
あいつは今、ゲンマさんと付き合っててそのゲンマさんはカカシ先輩とは飲みに行くような知り合いなんだった。
「でもあいつが初めてなのかまでは、知らなかったから聞いてみたの」こんな事聞いてどうするんだよ、この人。
「いやほら…やっぱり気になるから。だってテンゾウ、俺イカせるの上手いし。そうか…あいつに仕込まれたのね」
「…先輩。あんまりそんな事言ってたら食事行くのやめて犯しますよ」
僕の耳元で楽しそうに言う先輩見てたら、虐めたくなる。

「あのさぁ、一応俺が突っ込まれてるけどその表現間違ってるから。俺が突っ込まさせてやってんの」
先輩はたまにこんな事を言う。確かにその通りだと思うかもしれないけど。
一応僕、こんなんでも攻めなんです!攻めなりのプライドってもんがあるんですから!
「でも!先輩、僕に突っ込まれてよがってるじゃないですか!もっとしてくれって、おねだりするでしょう?」
僕は思わず、場所を忘れて大声で叫んでしまう。
「ちょっ!馬鹿!声がでか…」
時すでに遅し。
何度も言うが、ここは里の大通り。
沢山の人に白い目で見られて、クスクスと笑い声まで聞こえる始末。
「せっ…先輩が悪いんですからね!」
「あ〜…もう、とにかく移動…」


ドロン…