in the flight




はちみつぱい



「テンゾウ、何食ってんの?」

窓から物騒に上がり込んできた先輩が
僕が食べているものを見て、それはそれは嫌そうな顔をした。

「・・・はちみつパイです。任務、無くなったんですか?」

たまに先輩はこんな風に、勝手に部屋に入ってきたりする。
少しは慣れたとはいえ、心臓に悪いからやめてほしい。
僕は溜め息まじりにそう答えた。

「あらら。せっかく時間できたから会いに来たのに、それはないでしょーよ」

「…ちゃんと玄関から入ってきて下さいよ」

そしたら僕だって、喜んで迎えてあげるのに。
なんだってこんな窓から入りたがるんだろう。
僕は大きく溜め息を付きながらも、先輩に温かい飲み物を出そうと台所に向かった。
でも会える時間が増えるのは、嬉しい。
本当なら一緒に住みたいぐらいなんだけど、ね。

「俺、お茶ね」
「はい、わかってますよ」

先輩は、珈琲や紅茶ではなく普通のお茶が好きだ。


熱いほうじ茶を滝れて部屋に戻ると先輩は
額当てを外してベストも脱いで、口布もずるりと降ろしていた。

その隣に、僕は座ってお茶を手渡した。

「どうぞ」
「ありがと」

僕は食べかけていた、はちみつパイが乗った皿を手に取る。
「先輩も食べませんか?まだ、あるんですよ」

すると、嫌そうな顔をして首を横に振った。

「俺、甘いの嫌い」
「そうでしたっけ」
「・・・知ってるでしょ」

そんな事は、もちろん知ってる。
ちょっと先輩をからかってみたくなっただけで。
予想通りに機嫌を損ねてくれた先輩を見て、クスリと笑った。


「?」
先輩は僕が笑った意味が分からなかったようで、怪訝な顔をする。

で、僕は皿をテーブルに戻して、そのまま隣にいる先輩にキスをした。
先輩は面食らったような顔をして、目を見開く。

驚いた顔が、見たかったんです。先輩の。

唇を離す時に、もう一度軽く唇を合わせてキスをすると
一瞬照れたような困ったような、とてもかわいい表情で僕を見た。


「先輩、甘いの好きでしたよね」

「・・・馬鹿。甘すぎる」

食べてたパイの、甘いはちみつの味でもしたんだろう。
その割には、ムスッとしながらそう言った先輩はどこか嬉しそう。


で、本当は、少し驚かすだけのつもりだったのに
あまりにも反応がかわいかったから、欲張りな僕は
もっと先輩の事が欲しくなってしまった。

「もっと甘いもの、あげますよ」

抱きしめて、その髪に顔を埋めながら囁いたら

「よくそんな恥ずかしいこと言えるな・・・お前」

だなんて憎まれ口を叩かれた。

「甘いモノには中毒性があるっていうでしょう?
すぐにそんな事、言ってられなくなりますよ」


僕はそう言って。抱きしめた背中の服の裾を捲し上げ、先輩の白い背中をあらわにした。
思った以上に熱かったその背中を、指先でまずは味わう。

・・・本当の所を言うと、もうすでにこの僕が立派な中毒者で。

はちみつパイなんかよりずっと甘い甘い、この体のね。



end