in the flight


「先輩!明日なんですけど…何時頃行ったらいいですか?」

「…。ん〜、明日?…でもお前と約束してたっけ」

「だって明日、先輩誕生日でしょう」
「そうだけど、明日の夜は約束してなかったから俺もう予定入れちゃったよ」

「……はぁ?!」



誕生日の前日。僕と先輩は同じ任務に来ていてその帰り道。明日の事を聞いたのだけど…。

「ちょっと…どういう事ですか」
「どういうこともなにも、テンゾウ何も言わないから。アスマ達と飲みに行くことになったんだけど」
カカシ先輩は、悪びれるそびれもなくめちゃくちゃ軽く言った。
「言ったじゃないですか!次の日、休み取ったって…」
「だからって、明日の夜に会うなんて一言も言ってないでしょ」

「うぅ…」

確かに。約束はしていない。
…駄目だ。この人に口で勝てるなんて思えない。

「…そうですか。わかりましたよ」あまりにもムキになると馬鹿みたいだし…。
だけどまさか、こんな事になるなんて思わなかった。
バースデイケーキだって、ちゃんと予約してるのに。プレゼントだって…。
「ま、そんなに言うなら断ってもいいけど」

先輩がからかうような口調で言った。
「もういいです。…僕のことなんかその程度なんですね」

僕はすっかり気分を悪くして先輩を睨んだ。
「…すいません。先、帰ります」

拍子抜けしたような顔の先輩を置いて、僕は先輩の前から姿を消した。

はぁ。…ひとりで浮かれてるみたいで本当に馬鹿みたいだな。


家に帰る気分ではなくなり、里のはずれの森の木の枝に腰を降ろし、ぼんやりと先輩の事を想う。
先輩ってなんで僕なんかと付き合ってるんだろう。

いや、付き合ってるっていうのか?

僕はいつもあの人の気まぐれに振り回されてる。
約束をしていても、すっぽかされる事もしょっちゅうだ。

「…はぁ。…もう帰ろうかな」

すっかり月が遠くなって。
もう日付けは変わったかな。ほんと先輩の事しか頭にないのか、僕は。
こんなんだから、先輩にあんな扱いされるんだよな、多分。

「絶対、明日は口きかない」

そう決意してみても、はっきり言って自信が無い。

「誰と口聞かないって?」突然目の前に、先輩が降り立った。
「うわぁっ!」

気配をまるで感じなかった僕は、必要以上に驚く。
「ねぇ、誰と口きかないって?」

先輩が僕に顔を近付けて鋭い目を向ける。

「・・・。だって…先輩、ひどすぎますよ。誕生日ぐらい一緒にいたい」

その目を逸らして、僕は呟いた。

まさか聞かれてたなんて。

「はぁ〜っ…。ほんっっとに馬鹿だね、お前」

先輩が呆れたような声で大きなため息をついた。

「…」

馬鹿ですよ。どうせ先輩の事しか頭にないですよ。

「テンゾウ。今日は何日?」
そう言って僕の顎先に指を絡め顔を先輩の方に向かされた。
「…。14日です」
僕は思いきり、口を尖らせて言った。
すると先輩はいきなり笑いだす。

「ちょっと、何がおかしいんですか」
「天然も、ここまでくると才能だな。…っ。もう日付け、変わってるよ」
へ?
「…プッ」
「え…」

あ…。…誕生日…?

僕が呆気に取られていると先輩に頭をくしゃくしゃになでられた。

「これだからテンゾウは」
「なんで先に言ってくれないんですか。僕…先輩に嫌われたのかと…」

僕がそう言うと、先輩は少しむっとした顔をする。

「恋人同士なら普通はね?日付け変わって、一番にお祝いするもんでしょ。
だから、俺は今日お祝いしてくれるもんだと思ってたの!
…ま、お前のそういう天然な所好きなんだけど…。ごめん。ちょっといじわるな事、言っちゃったね」
そう言って、頭をぽりっと掻く。

「…そうだったんですか。すみませんでした」

先輩、僕と一緒にいたくないんじゃなかったんだ。
というより、一番にお祝いしてほしいって…よく考えたら、めちゃくちゃ嬉しい。

「ほんと。家の前でずっと待ってたんだよ?可愛そうな俺…」

ええ!あれから、ずっと?
「え〜?!すっ、すみません!」
「でもすぐ見つけられてよかった。ね。早く、お祝いして?」

先輩が、青ざめる僕に優しく微笑む。
「はい。先輩。おたんじょうび、おめでとうございます」

僕はそう言って先輩の体を抱き寄せて唇を合わせ、キスをした。

「かえろっか」

唇を離して、抱き合うと耳元で先輩が僕に言う。
「はいっ。すみません、ケーキとか今日、用意できなくて…」
そう言うと、先輩がクスっと笑った。

「いーよ。代わりに今日はテンゾウの甘いやつ、いっぱいちょうだいね」
「!・・・。はい。先輩。・・・大好きです」

「ん。俺も」