in the flight


秋も深まり始めた頃。
任務中に敵の水遁の術を受けて回避はしたものの、その水しぶきを頭から浴びてしまい、不覚にも風邪を引いてしまった。

普段から規則正しい生活を心掛けている僕は滅多に風邪を引かないのだけど
もうかなり涼しくなってきている所で服が濡れたまま任務を終えて里に帰った頃には熱のせいで、幾分か頭がぼんやりとしていた。

「じゃあ今日はもう解散」

里の入り口の所で、ナルト達と別れてまっすぐ自宅に帰る。
暗い誰もいない部屋。先輩がいたらなぁと、溜め息をつく。

今日は任務だと聞いているから会う事は無い。冷たい風にさらされて乾いた忍服から寝間着に着替え、ベッドに倒れ込む。
風邪薬、あったけな。明日病院に行こう…。

僕はぼんやりと思いながら眠りについた。

朝、目を覚ますと体の節々がひどく痛む事に気が付いた。

これはちょっとまずいかも。
よろよろと体を起こすも、起き上がるだけで一苦労だ。
なんとか台所へ行き、水を飲むと自分の体が高熱である事に気付く。

「風邪薬…」

薬箱を開けてみると、薬は無かった。普段風邪引かないからな。
自力で病院に行くしかない。そうは思いつつも、その力も出なくてまたベッドに戻る事にした。

熱が出るって感覚がどんなものだったのか覚えていなかった僕は急に心細くなる。

先輩に会いたい。

僕はまた、知らない間に眠っていた。

熱のせいか知らないけど嫌な夢を見る

その夢から抜け出したくて、パッと目を開くと額にひんやりと冷たさを感じる。

ぼんやりと揺らぐ視界に、会いたくて仕方のなかった先輩をとらえた。

「せんぱい…?」
「大丈夫?…うなされてたから心配した」

心配そうな顔で、僕を覗き込んでいた。
「先輩…」

僕は反射的に腕を伸ばして、先輩を抱き寄せる。

「えっ…テンゾウ…?」
「会いたかったです…すごく心細くて…」

ぎゅうっと、先輩の体を抱きしめる。

「ん…どこにも行かないから。もう大丈夫」

優しく僕の頭を撫でてくれる手にほっとして目を閉じた。
「テンゾウ。薬もらってきてあげたからとりあえず飲んで?」

僕が眠っている間に用意してくれたんだ。結構前に来てくれてたのかな。全然気が付かなかった。

「…はい」

もう少し、先輩を抱き締めていたかったけど大人しく従う事にした。
先輩はもうあらかじめ、煎じてある薬湯を持ってきて僕の枕元に腰を降ろした。

「自分で飲める?」

飲めないって言ったら、先輩が飲ませてくれるのかな。

甘えたい。

「先輩に飲ませてほしいです」

そう言うと、少し恥ずかしいのか軽くせき払いをしてから手に持っていた薬湯を、口に含んだ。

「…え?」

なんで先輩が飲むの…って、嘘。この人、口移しで飲ませようとしてる?

薬湯が苦いのか少し顔をしかめ、僕に顔を近付ける先輩。

なんか先輩、勘違いしてるけど…ちょっと嬉しい。
恥ずかしそうに、頬を少し赤らめたりしてて。

僕は目を閉じて、先輩の口移しを受ける。
僕の唇を割ってほろ苦い薬湯が流れ込んでくるんだけど先輩の口移しのせいか、それはとても甘く感じた。
離れて行こうとする唇を、僕は先輩の頭を抱き寄せてもう一度引き戻して、深くくちづけをした。

先輩の唇の感触、好きだ。
「っん…」

先輩は僕の行動を予測していなかったのか、息を乱す。
僕が唇を離すと、乱れた息を正す。

「熱があってもエロいのは変わんないね。本当油断できない」

先輩が呆れたように言う。

「僕、口移しで飲ませて欲しいなんて言ってませんよ。びっくりしましたよ」
エロいのはお互い様だ。
「ちっ…違うの?嘘」

先輩は顔をこれでもかというくらいに紅潮させて恥ずかしそうな表情をしている。
「でも…嬉しいです。先輩、来てくれて本当に」

しみじみ思う。
ベッドの傍らを見ると、氷水の入った洗面器や替えのタオル、体温計に水の入ったグラス。

「テンゾウが熱出してる所初めて見るよ。だから心配した」
先輩はそう言って、可愛らしく笑った。
「甘えてもいいですか?」

先輩に甘える事なんていつも出来ないんだけどこんな時は、甘えたいって思う。

「いーよ」

僕に優しい顔をする先輩。
「あの、一緒に寝ててくれませんか?」
襲うとかそういうつもりじゃなくて、本当に心細かったから抱き締めて欲しかった。

「はいはい」

そう答えると、もぞっとベッドに潜り込んで僕に腕枕をした。鼻先が触れそうな距離に先輩の顔があって。

「先輩、腕…痛くなりますよ?」
「馬鹿。誰だと思ってんの?そんなヤワじゃないよ。それに…いつもお前してくれてるでしょ」

そう言って、空いている手で僕の頭をそっと撫でた。

「俺、テンゾウに腕枕してもらうの好きなのよね。だから、今日だけだからね」

ぼそっと恥ずかしそうに言って、僕の頭を引き寄せて抱き締めた。

「…はい」

僕は先輩の腕に抱かれて、幸せな気持ちに包まれる。

さっきまでの心細かった気持ちもどこかに消えてぎゅっと先輩の背中に抱きついた。

「先輩が熱出したら、その時は僕が看病しますから」
「…ん」
先輩が短く答えて、僕の髪に指を潜らせる。

「お願いね。だから早く元気になって」

ひとりでいると、ずっとあのまま心細いままだったけど今はこうやって心配して傍にいてくれる先輩がいて。

熱のせいで体は痛いけど、僕は幸せな気持ちで再び眠りについた。