in the flight





ファーストキス


 (一話完結ですが、お題の「告白」と、お話はリンクしています)







ずっとずっと前。僕と先輩がまだ暗部にいた頃の話。

普通の先輩後輩の関係にしては仲が良すぎるほど仲が良かった僕達は
任務が終ったあと、どちらかの家で夕飯を一緒に食べたりするような仲で
その日も今日みたいな寒い日で、僕の家に先輩が来る事になってたんだ。


   *  *


暗部待機所を出て、微妙な距離を取りながら並んで歩いた。
最近特に、僕に対する先輩の態度が変わったような気がする。
僕の任務が遅くなってしまった時も、ずっと待機所で待っててくれたり
忙しくてなかなか会えない時だって、時間を縫って会いにきてくれたりする。

先輩はモテるから、色んな噂が流れているけど
ちゃんと恋愛した事があるのか、疑問に思う所。
先輩とそんな話は一度もした事が無いけど、
恋愛に関しては僕と同じで疎いような気がしている。



「先輩、寒いですね」
「うん。公園もこう寒いと誰もいないね」


僕の家の近くには、小さい公園があるんだけど
最近めっきり寒くなったせいか、夕方を過ぎると静まり返っていていた。


その公園を通って僕の家に向かうんだけど、
ふと先輩が砂場に面したベンチに座って
足をだらしなく伸ばした。


「せっかく貸し切りなんだから、ちょっとゆっくりして行こうよ」


そう言って、僕を見上げた。

ちょうどもう落ちかけている夕陽に髪が照らされて、
色素の薄い銀色の髪が透けて見える。


「そうですね。いつも通り過ぎるだけですし、
 たまにはこうやってゆっくりするのもいいものです」


そう言って、僕は先輩の隣に座った。
僕と先輩の間にはほんの僅かに距離があって、
まさに僕と先輩の関係がそこに表れているようだった。

僕は変に先輩を意識しまって、黙ってしまう。
先輩もそうなのか、何も言わないまま数分が過ぎた。



冷たい風が吹いて、落ち葉がくるくると回る。
こんな寒いのに、隣に先輩がいるから寒さもあまり感じない。

先輩は今、何を考えているんだろう?
表情を見たいと思ったけど、それも不自然かと思って
ただ黙って段々と暗くなっていく空を見上げていた。


「テンゾウ、寒くない?」


ふと先輩が僕にそう言った。
僕は何か期待していたのかも。と思い、そんな自分に呆れて苦笑いをした。


「寒いですね。そろそろ行きますか?あったかいものでも食べましょう」

そう言うと、すっと先輩が僕の肩に寄り添うように移動をした。
ぴたりと先輩の体が、僕の左腕に密着して暖かい。
先輩の行動に心臓が跳ね上がる。


「寒い」


先輩が呟くようにそう言って、僕の肩に頭を預けた。
僕は何と言ったらいいか分からなかったけど
恐る恐るその肩を抱いてみたら、僕よりは少し華奢な体なんだと気付く。


「こうしてたら、ちょっとはあったかいね」


そう言った先輩は、僕の腰に手を回した。

大好きな先輩の肩を抱いてるだなんて信じられないけど
理性はもうすでに飛んでしまった僕は、その肩を引き寄せて
ぎゅっと先輩を抱きしめた。

好きすぎて、頭がおかしくなりそう。


「まだ寒いですか?」


先輩の耳元で僕がそう言うと、もぞもぞと顔を移動させて
頬を僕の頬に押しあてた。ひんやりと冷たさが伝わる。


「うん・・・あっためて」


先輩の言葉に、一層心臓が飛び上がりそうになった。
少し顔を動かせば、唇が触れ合う距離。
胸がじりじりと、甘く痛む。キスがしたい。

先輩も・・・キスしたいって思ってるのかな。
じゃなきゃ、こんな事しないよな。


いろんな考えを駆け巡らせながら、ついに僕は我慢ができずに
そっと先輩の唇に、自分の唇を重ねた。


「っ・・・」


驚いたように震える唇。合わさった瞬間、甘く痺れるような感覚が
唇から全身に広がって、とろけそうになった。


先輩が僕の背中をぎゅっと掴んで、唇を少し開いた。
その唇の感触を、形を、確かめるように何度も啄むようにキスをした。
好きすぎて堪らない。僕はもっと先輩が欲しい。
僕は先輩として、この人の事が好きなんじゃない。
こうやって、キスしたかったんだ、ずっと。


少し開いた唇に舌を差し込むと、大きく唇を開いて
僕を受け入れてくれた。
キスの仕方も分からない僕でも、先輩もこうやってキスをするのが
初めてなんだって気付いた。

「ふぅっ・・・っ、んっ・・・」


戸惑うような舌の動き。流れ込む僕の唾液を上手く飲み込めず、
口元から垂れていくのが分かった。
それでも僕も先輩も、夢中で舌を絡ませあった。


不慣れなキスをして、苦しそうに息継ぎをする先輩が
愛おしくて、深く舌を潜り込ませると、歯がごつりと当たって我にかえる。


ゆっくりと唇を離すと、唾液が糸を引いて
先輩が顔を真っ赤にして照れたような表情で笑った。
僕も照れ笑いをして、先輩の口元を濡らしている唾液を
唇で拭うと、先輩はきゅっと目を瞑ってくすぐったそうにする。


「・・・先輩が、好きです」


そんなかわいい先輩を見つめて言った。
先輩の目は潤っていて、沢山キスした唇が赤く腫れぼったい。


「俺も」


先輩は嬉しそうに笑って、僕にぎゅっと抱きついた。
心が、体中が、あたたかくなる。
抱きしめた先輩を壊してしまいたくなるほどに、好きだと思った。
もっと、先輩が欲しい。


「先輩、家帰りましょう」
「・・・うん」


帰ったら、沢山抱きしめあって
唇が腫れ上がるほど、キスしよう。

僕達はもう一度、チュッと音を立ててキスをして
すっかり暗くなった公園を、入ってきた時よりもずっと寄り添い
手を繋ぎあって後にした。




追記。二人とも初チューって事ですが、かなり無理があるのは承知ずみなのです。。