in the flight




内緒話

    (一話完結)





任務中は、敵にこちらの作戦を聞かれてしまってはいけないから
作戦や報告なんかを耳打ちで確認しあう事が通常だ。

ただ、それをいい事にテンゾウの奴が
任務とは関係ない事ばかり、俺の耳元で言ってくる。
それも、わざと甘い声だったり、誘うように息を吹きかけてきたり。

こっちは任務中で神経を切り詰めてるっていうのに、
本当どうにかしてくんないかなと、俺はいつも思っていて。

「先輩」

ほら来た。
うんざりした顔でテンゾウを振り返ると、ちょいちょいと手をこまねいている。
かといって他の隊員の手前、無視をする訳にもいかずに、溜め息を吐きながら
テンゾウに耳を貸してやると、

「今日は先輩の家泊まりに行ってもいいですか?」

だなんて、やっぱり任務とは関係ない事だった。

「お前ね・・・今は任務中でしょ。そんな話は任務が終ってからにしてちょうだい」

溜め息まじりでそう返すと、もう一度俺の耳元にテンゾウの顔が近付く。

「そんな寂しい事言わないで下さいよ。それより先輩、やっぱり声枯れてますね。
 昨日の先輩はいつも以上に可愛かったですよ?」
「ばっ、馬鹿!誰のせいだと思ってんの」

囁くように言われて、昨日の事を思い出して全身が真っ赤になった。
こういう時、いつも暗部の面に感謝する。
とはいえ、俺が赤面してるであろう事は、テンゾウには気付かれてるんだろうけど。

テンゾウと俺は、同じ班になる事が多いから
必然と休みの日も重なる事が多い。
それで、昨日もテンゾウの家に行ったはいいが
昼間っぱらから今日の明け方まで散々突っ込まれ続けて
頭のネジが吹っ飛んだ俺は、わざとらしいAVみたく、喘ぎまくっていた。

今日ちょっと声が枯れてるのもそのせいで。
腹の具合だって悪いから薬で抑え込んでるという有り様。

「先輩、声大きいですよ」

テンゾウはそう言って、楽しそうに笑ってる。嫌な男だなと思っても
そんなテンゾウに惚れてるんだから仕方ないというか、なんというか。

「家・・・来てもいいけど、今日は勘弁してちょうだいね。
 お前みたいに性欲強くないの、俺」
「先輩。泊まりに来てもいいって僕に言うって事自体、
 誘ってる事と代わらないですよ。先輩の言う通り、性欲の強い僕が
 本当に我慢できると思ってるんですか?」

そして、口の上手い俺もテンゾウには負ける事が多い。
こういう場合、大体は俺の負けだ。

「あ〜!もううるさい!好きにしたらいいでしょ。わかったから、
 もうお前、あっちに行ってちょうだい」
「本当ですか?嬉しいなぁ、今日も先輩の事抱けるなんて。
 それより先輩、今のちょっと声大きかったですよ」

テンゾウに言われて我に返り、回りの隊員を見ると
皆一斉に違う方向を向いて、わざとらしく会話を始めたりしている。

ていうか、最初から絶対聞いてたでしょ。この感じ。

「テンゾウ」
「はい?」
「お前、わざとだろ。わざと、聞こえるように・・・」

俺とテンゾウが付き合ってる事は、誰も知らない筈だし
黙っておこうって事にしたはず。それなのに、どうしてバラすような事を。

小声で言いながら詰め寄ると、テンゾウが後ずさりをしながらも
小さく、また手をこまねいた。

「・・・何よ!」

と、仕方なく耳を付きだしてやる。

「仕方なかったんです。あいつらが、先輩の隙を見つけて襲おうか、なんて
 コソコソ話してるのを小耳に挟みまして。それで、僕と付き合ってるって
 事を知ったら、さすがに手は出さないだろうと・・・」

そんな事ぐらい、俺だってとっくに気付いてたよ。
それに大体、俺が隙とか見せるのってテンゾウの前ぐらいだぞ。
っていうのは、言わないでおこう。
そんな理由で、こんな回りくどい事考えたテンゾウが
おかしくて可愛いと思ったからね。

「俺の事、守ろうって?ふふ、頼もしいな」

「・・・。先輩」

「ん〜?」

「その枯れた声で、耳元で囁かれると・・・僕・・・勃ってきました」

「おまっ・・・馬鹿じゃないの?!」


心底、こいつの馬鹿さ加減に呆れて離れると、どうしましょう。と、馬鹿みたいな声で続けた。

「知らん!勝手にしてくれ」
「そんなぁ!」

前を押さえて情けない声を出す猫面のテンゾウを置き去りにして、
他の隊員達に「もう行くぞ」と声を掛け、先を急いだ。

            *

そして。やけにスッキリした様子のテンゾウが、隊に合流したのは数十分後の事だった。



           *  終わり  * 




topへ