in the flight




名前








「なぁカカシ。テンゾウって今でもお前の事先輩って呼んでるんだな」
「・・・そうなのよ、いくら言ってもやめてくんないんだよね」


  

          *  *

 

テンゾウと付き合って、もう随分と経つから
そんな事はもう、結構どうでもよかったりしてたんだけど
改めて誰かに指摘されると、やっぱり名前で呼んでほしいなって
思ったりしてもしまう。

俺の部屋でくつろいでいる、テンゾウの横顔を見つめていると
アスマに言われた事を思い出したから、駄目なのは承知で言ってみよう。

「テンゾウ、お願いがあるんだけど」
「何ですか?」

くるっと顔をこちらに向けて、くるくるした大きな目で
俺をじっと見つめた。ああもう、可愛いなぁ。
と、テンゾウといると俺はいつもこんな調子だ。

「今更なんだけど、先輩っていうの・・・そろそろやめない?」

俺がそう言うと、テンゾウは俺から目を逸らして少し顔を赤くさせた。

「む、無理です・・・」
「な〜んで?」

その仕草がかわいいから、体をテンゾウの前に持っていき
顔を覗き込むと、ほんの少しだけ体を後ろに下げた。

「だって・・・名前なんて」
「俺の身にもなってみてよ。大好きな恋人に、名前で呼んでもらえないって
 すっごい寂しいんだけどな〜・・・」

わざと大げさに言ってみると困ったような顔をした。

「勘弁してくださいよ・・・」

泣きそうな顔をして俺を見るから、別に無理強いするつもりもないし
これ以上お願いするのはやめようと思った。

「ま・・・いいけどね。テンゾウが呼びたいように呼んでくれたら」

そう言って、体を元に戻すとテンゾウが
また顔をくるっとこちらに向けて、俺を見る。
なんだろう?可愛いなぁ。

「じゃ、じゃあ・・・、いや、なんでもない・・・です」

言いながら顔を真っ赤にして、顔を逸らした。
何年付き合っても変わらない照れ屋な所は、
いつも新鮮な気持ちでいさせてくれる。

その体を抱き寄せると、うぅ・・・と恥ずかしそうに
俺の肩に顔を埋める仕草だとか、もう本当に堪らなく好き。

「何?言ってごらん」

耳元でそう囁いてあげると、肩に頬をぐいっと押し付けたままテンゾウが答えた。

「・・・その、先輩を・・・抱いてる時は、名前で・・・呼ぶようにします」

「本当?じゃあ、練習しよっか」

「えぇ?!」

だってそんな事言われたら、呼ばれたくなるでしょ。
前を大きくしたって、仕方ないじゃない。

「いいでしょ?抱いてよ」

そう言ってテンゾウを一度離して見つめると、真っ黒な瞳が溶けるような甘い色になった。
目を閉じると、そっと唇が重ねられて
テンゾウの舌が唾液と共に唇を割り入って、俺の口内を犯す。
甘くて痺れて、頭まで麻痺しそうだ。

   * * *

「・・・先輩、大丈夫ですか?」
「クタクタ・・・」

そう言いながらも、顔のにやつきは止まらない。
頭の中で俺の名前を呼ぶテンゾウの声を
繰り返し思い出しては、ニヤニヤして。

「・・・嫌じゃなかったですか?」
「この顔見たら分かるでしょ?本当、もう嬉しかった」

そう言って、テンゾウの胸にキスをしたら
そのまま抱きしめられて、胸の中に閉じ込められた。

「・・・先輩が、喜んでくれたのなら良かったです」

「うん。・・・テンゾウ、大好き」

「・・・僕も先輩が、大好きです」

でも俺ね、テンゾウが俺の事を先輩って呼ぶの・・・
本当は気に入ってる。ずっとそうやって呼ばれてるからかな。
先輩って呼ばれるとね、ホッとするんだ。

「これからも俺を抱く時だけ、名前呼んで」

それ以外は、『先輩』でいいから。



◎ すみません、あやうくエチシーン入れてしまう所でした・・・(汗)この課題、ラブラブ、シリアス、ギャグ、裏の4パターンあるんですけど、やっぱり裏シリーズじゃないのに裏要素を書くのはマズいかなと思いまして、消してしまいました。なのでとっても短くてすみません。文中の***の部分が、ごにょごにょシーンという事で・・・ご想像にお任せいたします。(笑)読んで頂きましてありがとうございました!