in the flight




大切なモノ






夜中に一人、カカシ班の任務報告書を書いていると玄関の呼び鈴が鳴って書く手を止めた。
こんな夜遅くに誰だろうと思いながら立ち上がり、玄関へ。
懐かしいような気配に、もしかしたらと思いながら扉を開くと、そこにテンゾウが立っていた。

「・・・テンゾウ?」

心臓が一気に飛び跳ねた。まさか、こんな風にまた会う事は無いと思っていたから。
久し振りに近くで見るテンゾウは、二年前に比べるとぐっと男らしくなっていて、
まるで知らない人のように見えた。

「すみません、こんな遅くに」
「どうしたの」

申し訳なさそうな顔をしながらも俺を見つめる目は切ない。





暗部を離れる事になった時、俺はその事をテンゾウには言わなかった。
恋人とまでは呼べない関係だったけど、お互い好きだったし何よりお互いの事が必要だった。

でも俺は暗部を離れて上忍師になる事が、テンゾウと離れるいい機会だと思ったんだ。
テンゾウには普通に幸せになってもらいたかった。
俺といたって幸せになんかなれる訳がないし、
テンゾウの時間を俺なんかが貰うのも、勿体ない事だと思った。
なによりテンゾウのためを思って。
離れてしまえば、幸せだった時間も過去になる。
だから俺との事なんて、すぐに忘れられるって、そう思ってた。



でも。あれから暗部を離れて随分と経つのに、目の前にいるテンゾウは俺に会いに来た。
その理由は聞かなくても分かる。
だって俺もずっと、テンゾウが好きだったから。

「・・・先輩に、会いたくなって」

あぁ・・・何て言おうかと、頭を掻いて視線を落とす。
あの時、テンゾウの為だと思って身を引いたけど、あんまり意味なかったみたいね。
ちらりとテンゾウの表情を伺うと、痺れを切らしたように俺の手を掴み
引き寄せられ、強く抱きしめられた。

「俺、まだ何も言ってないでしょ」

そうは言いながらも、懐かしいテンゾウの匂いや体温を
体中で感じ、目を閉じると昔を思い出して胸の鼓動が早くなった。

「僕の事、嫌いになったんじゃ・・・ないんですね」
「・・・ドア締めて。開けっ放し」
「わかりました」

テンゾウはそう言ってドアを閉め、俺を抱きしめたまま玄関の壁に押し付けて顔を覗き込んだ。
もう唇が触れてしまいそうな程の距離。
伏し目がちな漆黒の瞳と、誘うように少し開かれた唇を見ただけで、体から力が抜ける。

「あの時、先輩がどういうつもりだったのか、やっと想像が付きました。
 でも、何も言わずにいなくなるのは酷いです」
「・・・ごめん、悪かった。・・・会いにきてくれて、ありがと」

テンゾウは俺の髪に指を潜らせて、ゆっくりと髪を撫でた。
それが気持ちよくて目を閉じると、懐かしい感触と共にテンゾウの唇が重ねられる。
俺は唇を開いてテンゾウの舌を受け入れ、絡ませた。
色んな感情で胸が詰まって息が苦しい。俺にはやっぱり、テンゾウが必要なんだ。
そばにいてほしいと、テンゾウの腕を強く掴んだら唇が離れていく。

テンゾウの顔を見上げたら、泣きそうな顔をしていて、
俺と目が合うとふわり微笑んだ。

「僕はやっぱり先輩が好きです。忘れるなんて、できませんよ」
「怒ってないの?」
「今は、もう」
「そっか・・・」


離れてたからこそ、その存在の大切さがわかった。
会わなかった時間は、テンゾウの事をなるべく考えないようにしていたけど、
こうやって、テンゾウが目の前にいたら、どうでもよくなっちゃうっていうか。
やっぱり好きだという気持ちだけで。
あの時は本気で悩んでいた事が、今思うと馬鹿としか思えない。

テンゾウは優しく抱きしめてくれる。

「でも、離れてたからこそ分かりました。
 僕にとって何よりも大切なものは先輩なんです」


俺もそうだって言おうと思ったけど、気恥ずかしくて言えなくて。
だから、その代わりにテンゾウの頬を両手で包んで、唇を合わせた。

 

おしまい