in the flight





手をつなごう

          (一話完結)




敵の里に潜入、暗殺・・・という暗部ではごく一般的な任務だった。
僕と先輩は、ツーマンセルで組むには本当に相性が良かった。
当然といえば当然。僕と先輩は恋人同士であるから
呼吸もぴったりだし、何よりお互いを傷つけたくないという思いが
完璧に任務を遂行させていた。


当初知らされていた計画では、目的とする人物には 護衛が付いていないという事だったのに
いざ里に侵入してみると、何人もの忍が結界を貼ってその人物を警護していた。


「先輩、どうします?引き返したほうがいいのでは」

さすがにあれだけ警戒されていたら、二人だけではキツそうだ。
それに事を公にせずに任務遂行というのが大前提。
一度里に戻ってから計画を練り直したほうがいいと、僕は判断したけれど
僕の意見よりも先輩の意見のほうがいつだって的確だったから、
先輩に判断を委ねた。


「いや…このまま続行だ。おそらく、こっちの動きに気付いての護衛だろうし
増援を呼んだとしても、余計に目立つ」

「・・・わかりました。では、いつも通り僕がまず木分身で潜入します。
そして配置されている護衛を拘束、もしくは暗殺。分身から合図があったら
僕と先輩が突入、任務遂行・・・で、いいですか?」

「それでいいよ。さすがだな。・・・だから俺、テンゾウと組むの好きなのよ」

「僕もです、先輩。・・・では」



殺気を沈めて、音も無く潜入する。
警護に付いている忍に背後からじわりじわり、木遁で完璧に拘束する。
殺してしまうのが手っ取り早いのかもしれないが、
無駄な殺生は好まない。・・・先輩の教えだ。とはいえ、こうやって
拘束するのも悪くないし、ゾクゾクするのも確かではあるけど。


ターゲットにぴたりと付いている者以外はすべて拘束ができた所で
本体に知らせる。僕の判断では、付いている忍もそんなに手練の忍では無さそうだ。
まさかカカシ先輩ほどの忍が来るだなんて、予想していなかったんだろう。

僕と先輩が突入して、任務を遂行させるまでには
対して時間がかからなかった。
返り血を頭から被ってしまった先輩が、苦笑いをして 早く帰ろうと言った。


      *

その帰り道。疲れた、歩いて帰る。と子供じみた事を言う先輩に付き合って、
森の中を二人歩いた。目立たないよう、抜け道を通りながら。

「先輩、血まみれですよ?」

先輩がこんなに派手に、返り血を浴びることはそうそうなくて。
それなのに、歩いて帰りたいだなんて言うから、どうしたんだろうと僕は思っていた。

「じゃあテンゾウ、温泉出してよ」
「・・・温泉は無理ですよ。泉なら出せますけど」
僕がそう言うと、溜め息をつかれた。
「こんなに寒いのに、水なんて浴びたくない」
「それなら早く帰りましょうよ」
なんならおぶってあげてもいいんですけどね、僕は。


「早く帰りたいんだけどね。なんか今日は・・・もうちょっとだけ、テンゾウと二人だけでいた いから」

ぽつりとそう言って、先輩は寂しそうな顔をした。
 
「・・・そうですね。それに、こうやって二人だけで歩くのもいいですね」

いつもと少し様子がおかしい先輩を変に思いながらも、 僕はそう答えた。
そのあと思いもよらない言葉を、聞く事になるなんて知る余地もなく。

「俺ね、もうすぐ暗部抜けて上忍師になるから・・・」

「え・・・」

あまりにも突然に言われて僕は歩く足を止めてしまった。
先輩が、暗部を抜ける・・・?

いつかそんな日が来るとは思っていた。
先輩ほどの忍を、火影様がいつまでも暗部に置いておく訳がないから。
だから。いつ告げられてもいいように
笑って、送り出してあげれるように、心の準備はしてたつもりなのに・・・。
ぐっと拳を握りしめたまま俯いて、立ち尽くした。

先輩に返す言葉も見つからない。

「・・・急に言ってごめんね。でも、もしかしたら
 テンゾウと組むの、今日が最後になるかもしれないと思って・・・
 だから、今日引き返したく無かったの。勝手だけど、
 テンゾウが俺じゃない誰かと組む事になるのとか考えたら・・・」

先輩は振り返って、今にも泣きそうな顔をしている。
なのに、無理に笑顔を作ろうとして。
そんな悲しそうな顔して笑わないで・・・先輩。

僕はそんな先輩を見ていられなくて、思い切り抱きしめた。
そうでもしないと、消えてしまいそうな・・・そんな気がして。

「先輩が決めたんでしょう?そんな顔、しないで下さい・・・。
 僕なら、大丈夫ですから」

「・・・うん」

「一緒にいる時間も・・・減りますけど、
 でも僕は、先輩じゃなきゃ、駄目なんです」

「・・・俺も、テンゾウ以外考えられない」

「先輩は・・・いい上忍師になりますよ」
「・・うん。・・・テンゾウが、言ってくれるんなら絶対そうなるよ・・・」

血で固まった髪の毛にくちづける。
きっと、先輩は僕との任務が最後だと思って。

そんな事を考えてくれていたから、らしくない返り血なんかを浴びたんだろう。
そう思うと、愛おしく思えて仕方がなかった。

「テンゾウ、それ俺の血じゃないんだから・・・」
「わかってますよ」

「テンゾウ、キスしてよ」
「我慢して下さい」
「・・・なんでよ」
「今ここでキスなんかしたら、僕、色々と我慢できなくなりますから」

それでなくたって、今すぐにでも先輩を抱きたい。

そう思ってるんだから・・・。

「・・・いいよ、別に」

「それは駄目です」

「・・・馬鹿。テンゾウの馬鹿!俺の気も知らないで・・・」

「・・・先輩。馬鹿って何ですか。抱いてほしいんでしたら
 とっとと里に帰ってから、ふかふかのベッドでやりましょう」

「やりましょうとか言うなよ・・!それに、抱いてほしいとか、
 まるで俺だけが盛ってるみたいじゃない」

先輩が子供みたいにぎゃあぎゃあ言って僕から離れた。
その姿を見て僕はほっとする。いつもの先輩だ。

「じゃあ、帰りましょうか」

そう僕が促すと、ますます膨れた顔をした。

「とっとと、帰らないんだからね・・・!歩いて帰るって決めてるんだから」

ふん。といった感じで、里に向けて歩き始めた。
その後を、僕はヤレヤレと思いながら追いかけて、
そっと先輩の右手を取ってその手をつないだ。

「ゆっくり帰りましょう」

僕がそう言うと、何も言わずにぎゅっと僕の左手を握り返した。


里まではもう少し。
だから、ゆっくりゆっくり、手をつないで、今日はかえろう。