in the flight

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あめ玉








「テンゾウってさぁ、何考えてるのか分かんないよね」

カカシ先輩が唐突にそう話しかけてきたのは、任務を終えて里に向かって帰っている時だった。
僕とカカシ先輩はツーマンセルの難しい任務の時に、一緒になる事が多かった。

そして、今回は僕がヘマをしたせいで、先輩が無理をしてチャクラ切れ。
おかげで任務は成功に終わったけど、自分がとても不甲斐なく感じ、先輩にかける言葉も見当たらないまま、
チャクラ切れの先輩を背中にしょって暗い森の中を歩いている。


もうこれで何度目だろうかと、僕は思う。
先輩には無茶させたくないって、きっと、誰よりも願っているのはこの僕なのに。

なんだかんだ、今日の任務では僕も先輩も無傷だった。
無茶しようとした僕より早く先輩はターゲットにとどめを刺し、
あんまり無茶しないでくれる?って、暗部の面を外していつもみたいに
面倒くさそうな声で言って、その後ほんの少し顔を歪めて崩れ落ちた。
いつもの調子で言ったのは多分、僕が心配しないようにだと思う。
先輩はいつだって、自分を盾にする事を躊躇わないし、
そうする事が当たり前かのように笑っていた。

それは僕に対してだけでなく、誰に対してもそうだった。

だから僕は先輩に助けてもらう事が無いようにしようと
心に決めているのに、いつだって空回りしてばかり。

僕には先輩が眩しくて仕方無かった。
強くて優しくて、美しい人だ。
男でも惚れる奴がいてもおかしくはないと思っていたけど、
まさか自分がそうなるなんて、考えても見なかったな。
僕は先輩の事が好きだった。

「・・・先輩こそ」
「俺?」
「ええ。掴み所が無い」


先輩はよく笑う。それはもう邪気の無い、優しさに溢れた笑顔で、
向けられた方としては一瞬で気が緩んでしまうような、そんな笑顔。
だからそれ以上、踏み込めなくなってしまう。

なんであんな風に笑えるんだろう。
僕にはあんな風に笑えない。



「そうかなぁ・・・それより休憩しない?もう遅いし」
「分かりました。もう少し歩いて、いい場所を捜しましょう」


先輩を背にしょったまま歩くのも、それなりに疲れる。
でもチャクラ切れを起こしたのは僕のせいでもある訳だし、
好きだと思う人と密着できて嬉しいと、任務中には不謹慎な思いもあったりした。

「あ。あそこは?」

僕に背負われてだらんと伸び切っていた腕が動き、左斜め前方を指差した。

木が沢山立ち並ぶ中、どうぞここに家を建てて下さいと言わんばかりの
ちょうどいい空間がぽっかりと空いていた。
結界を張って建てると、きっといい感じ。

「じゃあ先輩。一度降ろしますよ」

僕はそう言って、ゆっくりゆっくり膝を曲げ、先輩を降ろして座らせた。
一息付く間もなく、すぐに印を結び四柱家の術を発動させる。
メキメキと音を立て、みるみる間に家が完成した。

この術を扱えるようになるまで大変だったけど、我ながら便利な術だと思う。
チャクラ切れを起こした先輩を、安全な場所で休ませてあげることができるんだから。


「中に入りましょう。歩けますか?」

長い足を放り投げて座る先輩に手を差し出すと、先輩はゆっくりと顔を僕の方に向けた。
その表情はいつもと変わらないけど、やっぱり顔色はとても悪い。

「もう動けない、無理」
「わかりました」


先輩を両腕で抱え上げる。
本当の所、背負う事ですら心臓が飛び出そうなのに、
抱き上げるのだけは本当にキツい。
これは任務だからと心音を先輩に気付かれないように沈め、
ムラムラする雄を抑える事だけに僕は意識を集中させながら、
きっと顔を見たらおしまいだと、前だけを見て家の中に入った。


部屋の真ん中に先輩を降ろすと、先輩はおぼつかない手で額当てとベストを脱ぎ、
それから安心したかのように大きく溜め息を吐いた。
もう寝てしまいそうな先輩の為に巻物から寝具を取り出して床に敷いてあげたら
猫みたいに布団の中に潜り込んだから、ちょっとは動けるんだなと、
さっき先輩が言った「もう動けない、無理」っていうのは何だったんだろうと溜め息を吐いた。

でもそれは僕の事を信頼してくれているって事なんだよね、恐らく。
聞けば、他の暗部仲間にはあまりこういう事を言ったりしないらしいから、
僕に対してはこうやって頼ってくれる事が、僕はとても嬉しかった。
だから僕は、先輩が好きだという感情は押し殺す事に決めたんだ。


僕も分身を見張りに立てて、少し休もうとヘッドギアを外し
ベストを脱いでいると、不意に先輩が話しかけて来た。


「この術ってさぁ、本当便利だよね」
「そうですね。特に長期任務の時なんか、野宿しないで済みますし」
「そうだな。それに、彼女とヤリたい時にいつでもヤれていいよね」
「・・・はぁ。でも僕には、そんな相手いません」
「ふぅん、彼女いるのかと思ってた。なんとなくだけど」
「はぁ。・・・確かに恋人がいたとしたら、便利かもしれませんね」


先輩も女の話とかするんだなと驚いた。
いやいや。そんな事思うなんておかしいだろ。
先輩だって男なんだから。男が好きな僕とは違うんだから。


僕は身支度を済ませ、先輩とは離れた所に布団を敷いて潜り込んだ。
横になると、疲れがどっと押し寄せて来る。
だけど僕は、一晩休めば回復するけれど、
先輩は里に帰ったら即入院なんだろうかと思ったら、
今日の自分の取った行動に対して後悔するばかりだった。
いつも先輩に無理ばかりさせて、僕はツーマンセルの相手としては最悪だ。







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