in the flight

in the flight





あめ玉 2








謝ろうと思っても、そんな話の流れでもないしどうしたものか。
女の話なんて本当はどうでもいいのに・・・。
そういえば先輩も恋人はいないって言ってた。
聞いてないのに、自分からそういえば話してくれたっけ。

この人が選ぶ相手って、どんな人なんだろう。
全く想像が付かないのは、きっと僕が先輩の事をよく知らないからだ。
くだけた会話をした所で先輩の本心は掴み所が無かった。


「なぁんだ。さっき抱き上げられた時さぁ、女をベッドに運ぶ時も
こんな顔してんのかなって見てたのよ」
「こんな顔?」
「さっきも言ったけど、何考えてるのかわかんないような顔!
あ〜でも、それは俺が男だからか。男相手にそんな気沸く訳ないってね」
「そりゃそうですよ。先輩相手にそんな事考えてたら、気持ち悪いじゃないですか。僕」
「・・・そうだけど、そんな真面目に全否定しなくてもいいでしょ」

全否定してしまうのは先輩に気付かれたくないっていうのが大前提で、
本当は心臓が飛び出そうなのを抑えるのに必死なのだから。

「そういや、たまにさ。くの一ともツーマンセルで任務出るでしょ。そういう時、どうしてる訳?」
「どうしてるって・・・同じですよ。大体僕は、任務中にくの一に変な気起こしたりしませんから」
「え!同じって、一緒に寝たりするんだ?こうやって」
「一緒には寝てないじゃないですか」

先輩が疲れてる割によく喋るのは、
僕の事を気遣ってくれてるのかも知らない。

「一つ屋根の下で寝るんだから、そんな気になっても普通でしょ。男なら」
「どうせ僕は男じゃありません。・・・それより先輩。もう休まれたほうがいいです」
「ん〜。なんか眠くならなくてね。いいよ、先に寝ても」
「気が立って眠れませんか」
「・・・そんなんじゃないけど」
「いつものやつ、しましょうか?」
「いい。疲れてるでしょ」
「いえ、僕はそんなに疲れてないですから」


そう言って僕は横になったまま両手を合わせ、印を結び木分身を発動させた。
僕が疲れてると言っても、先輩のチャクラ切れに比べたらかわいいものだ。
僕も何度かチャクラ切れで倒れた事があるけれど、それは修行中であったり
全て里内で、あれが戦場だったら。と考えたら、とても恐ろしい。

分身の僕が先輩に歩み寄り、眠っている先輩の脇に膝を付くと
先輩は怪訝な顔で僕を見上げた。

「・・・なんで女なの」
「え、あ・・・いえ。先輩が女の話をしていたので、その・・・溜ってるのかと」

それに、以前カカシ先輩じゃない他の先輩に、
長期任務の時に女に変化してどうのっていう話を聞いた事があったから。
と続けたら、心底呆れたように長い溜め息を吐かれた。

「チャクラ切れ起こしてるって言ってんのに、んな訳ないでしょ。
だいたい女になって、俺に何する気なのよ・・・」
「何って、いつものやつに決まってるじゃないですか。
うつ伏せになって下さい・・・手伝いましょうか?」

「大丈夫。ちょっとはまだ動かせる」

まぁ、先輩がこんな事で喜ぶ人だとは思ってなかったけど、僕は少しほっとした。
先輩が女に興味を示さなくて・・・。って、あれ。中身が僕だと分かってるから
当たり前なのか。そうだよな・・・。これが、本当の女なのだったら、どうなのだろう。

先輩はゆっくり体を捻らせて、うつ伏せになった。
薄い毛布を取ると、すっと伸びた背中と長い足が目に飛び込んでくる。
足に目をやればポーチも脚絆も付けたままだった。体を動かせるとは言ってもほんの少し、か。

「脚絆、外します」
「ん・・・お願い」

外しやすいように右太腿を少し持ち上げ、固く巻かれた布を解いていく。

「前から聞きたかったんだけど、いつもしてるの?こんな事」
「さすがに・・・ここまでするのは、先輩だけですね。仲間にするのは
任務に必要だと思える事ぐらいです。先輩は特別なんです」

解いた布を床に置き、僕は先輩の足下に回る。
先輩の事が好きだから、こんな事までしてしまう。
自分が先輩の為にできる事があるのなら、全部してあげたいんだ。

「じゃあ、そんな姿なのも俺の為に、特別に?」
「・・・まぁ、そうです。余計なお世話でしたが」
「ふふ。ま、気持ちは嬉しいけど、もうしなくていいからね〜。
全然、俺のタイプじゃないしね」
「そうでしたか」

全然タイプじゃないと言われて良かったと思いながらも、
自分が否定されたような気もしてしまい、やっぱり分身をもう一体・・・と
思ったりしたけど、本体がキツそうだから止めておく事にした。

僕はチャクラ切れの体に負担をかけないよう左足首に両手を添えて
力を入れすぎないように、下から上へとマッサージを始める。

「ゆっくり呼吸してて下さいね」

僕の言葉に先輩は小さく頷いた。

「・・・俺の好きなタイプ、聞きたい?教えてあげよっか、特別に」

僕は動かしていた手を、思わず止めてしまった。 先輩のタイプなんて聞きたくない。

「先輩、お喋りはもうお仕舞いにしましょう。疲れ、取れませんよ。
それはまた今度聞かせて下さい」
「はいはい。今度、また特別に教えてやるよ。特別に」

と、厭味ぽく言ったけど、先輩の声は柔らかく優しかった。
それよりも僕は、先輩の体温が低い事がとても気になっていた。
大丈夫なんだろうか。明日、僕がまた背負って帰ったとして早くても夜だ。
しばらく入院する事になるのは確実だろう。

「それは光栄です。・・・力、強すぎませんか?」
「ううん。ていうより、女の手だと物足りない。今日はもういいけどね・・・ん、でも気持ちいい」
「途中で寝ちゃっても構いませんよ。ゆっくり休んで下さい」

もう寝てしまいそうな声の先輩に小声でそう言ったら、小さく頷いて枕に頬を埋めた。
いつの間にか降ろされていた口布の下が露になっていて、形のいい唇が満足そうに微笑んでいる。







Home Next