in the flight





あめ玉 10








一晩限りで過ごすには勿体なさ過ぎるテンゾウの作り出した家を出て
木ノ葉の里に向けて歩き出した。
俺は相変わらず動けなくて、テンゾウの背中に背負われたまま。

「寒くないですか」

俺を気遣う言葉は優しいけれど、さっきの事が忘れられなくて。
なんとか動かせる両腕に力を込めて、テンゾウにしがみつく。

「寒くない」
「そうですか。でも、ちょっと急ぎますね。早く里に帰りましょう」


そう言って、テンゾウは俺を背負ったまま走りだした。
里に帰ったら、テンゾウに好きだって言いたいと思っていたけど
このままうやむやになって、距離を置かれたら嫌だな・・・。
俺もしばらく病院だろうし。


「テンゾウ。見舞いに来てくれるよね」
「・・・はい。もちろん」
「絶対だからね。約束な」
「わかりました」

う〜ん、本当に来てくれるといいんだけど。

「あと、さっきの」
「・・・はい」


さっきのテンゾウのキス。俺が怒ってるとか思ってたら嫌だし、
それだけはちゃんと言っておこう。
俺だって、こっそり唇じゃないけど眠ってるテンゾウに
キスしちゃったんだから。

「忘れられそうにないんだけど、どうしたらいい?」

テンゾウからの返事はない。
でもあれは、俺のこと好きだからしたんだよね?
あれ?どうなんだろう・・・。

「俺は、まぁなんていうか嬉しかったんだけど。
でも、テンゾウが忘れろって言うのなら、努力してみる」

忘れるつもりなんてもちろん無いんだけど、
やっぱりテンゾウから、あれは何だったのか気になるし聞きたい。

「あの・・・先輩」
「ん〜?」
「嬉しかったっていうのはどういう意味で・・・ですか?」


足を止めることなく走り続けながら話してるせいで
お互い顔が見えないから、何を考えているのか分からない。
でもこの方が、多分いいのかも知れない。

「うーん。じゃあ・・・テンゾウが、何で俺にキスしたのか
理由を話してくれたら教えてあげる」

我ながらずるいとは思うけど、
一方的にキスしておいて何も言わないテンゾウもずるいんだから。

「・・・今、言わなきゃ駄目ですか?」
「里に帰ってからでもいいよ。・・・見舞い、来てくれるんでしょ?」
「ええ。・・・退院祝いもする約束でしたよね」

そうだった。退院したら、二人で旨いもの食べに行く約束。

「里までもうすぐだね」
「はい。・・・僕、また火影様に怒られちゃいますね」
「今回は俺も悪かったよ。テンゾウに任せておけば、
こんな事にならなかったかも知れないし・・・もうちょっと、お前の事も信頼しないとね」
「いえ、先輩にはいつも助けてもらってばかりで・・・。
先輩を危険な目に合わせないように、もっと強くなりますから」

テンゾウの嬉しい一言に、胸がぎゅっと詰まる。

「頼もしいねぇ」


ひとことそう言って、テンゾウの首筋にそっと顔を埋めた。
もう少し、里に付くまでは甘えていよう。








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