in the flight





あめ玉 12








先輩が入院して、もう五日になる。

あれから毎日、病院には足を運んでいるのに
先輩のいる病室まで行く事ができなかった。

僕は・・・なんであの時キスなんか、してしまったんだろう。
我慢できなかったんだろう。

先輩に会いに行こうとすると、どうしてもその事を思い出してしまって
足が止まってしまうんだ。
嬉しかったって言った先輩の言葉の真意は全く分からない。
いや、それ以前に先輩が僕の事をどう思ってるのか知りたいと・・・強く思うようになった。

今日も修行の帰りに病院に足を運んだけれど、
やっぱり病室まで行けそうにないなと病院の入り口でぼんやり立っていたら。

「・・・テンゾウ、何してんの」

背後からカカシ先輩の声がしたから、慌てて振り向けば
ムッとした表情をしながら松葉杖で立っている先輩が、そこにいた。
その顔色は入院した時と比べると、随分と良くなっているように見える。

「・・・先輩。もう、動けるんですか」
「動けるんですか?じゃないよ。もう明後日には退院するんだから」

と、怒っているような呆れているような声で言って。それから深く溜め息を吐いた。
・・・もしかして先輩は、僕が来るのを待っていてくれたんだろうか。
だからこの表情なのか。

「・・・すみません。約束していたのに」
「はいはい。とりあえず、病室に戻ってから聞くからね。来れなかった理由」
「あ・・・。・・・はい」

と、僕が小さく答えれば先輩は松葉杖の片方を、僕に持たせる。
そして先輩は僕の肩に腕を回して、僕の顔を覗き込んで囁くように言った。

「ほんとは運んで欲しいんだけど・・・ま。病院だし、やめとく」

相変わらずな先輩に僕はぎょっとして、顔が真っ赤になってしまった。
でも同時にどこかホッとして、言ったあとに微笑んだ先輩の腰を支えてあげたら、
来てくれてありがとねって先輩が嬉しそうに笑ってくれたから
人目も気にしないで、運んであげたくなったけど。
その代わりに、僕は支えていた腰をほんの少しだけ引き寄せて
病室までゆっくりゆっくり、何も喋らないで歩いた。
先輩の、ほんの少しだけ早くなった脈の音を感じながら。


      *


病室に入れば、橙色の夕陽に真っ白の病室が鮮やかに染められていた。
先輩をベッドに座らせて、僕もその隣に並んで座った。

カカシ先輩もなんだか黙り込んでしまって、肩越しに横顔を見れば
ほんのり赤くなってるような気がするけど、夕陽のせいかもしれない。


何から話せばいいのか、僕はずっと考えていた。
会いに行きますって約束した日からずっと、ずっと。

だけど、キスをした理由なんか他に思い付かなくて。
先輩の事が好きだから、我慢できずに抑え切れずに、
言葉よりも先に、体が動いてしまったんだ。

そんな事を言って、先輩に気持ち悪がられたりしないかって
相当悩んだけど、他にやっぱり理由が思い付かなかった。
言い訳みたいなごまかしの言葉も、今更言えそうにない。

だから・・・僕は、ベッドに置かれた先輩の手を握って。
それに驚いたように顔を上げた先輩に、まっすぐ伝える。

「僕は、先輩が好きです」

先輩は目を見開く。僕を見るその青い色の目が
驚いたように、戸惑っているかのようにゆらゆらと揺れていた。







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