in the flight





あめ玉 21








「先輩っ!」
聞き慣れた声のする方向を振り返れば、窓越しに暗部服姿のテンゾウが覗いていた。


          *


俺は上忍師になって、教え子からは先生だなんて言われながら毎日を過ごすようになった。
暗部にいた時を思えば随分と時間を持て余すようになったけれど、
報告書の数が半端なくて書類ばっかり作成している毎日になってしまった。

テンゾウはもちろん暗部に在籍したまま。
俺がいた時は俺と組む事が多かったけれど、今はいろんな人と組んだりしているらしい。
とにかく忙しいらしく、もう随分まともに会話すらできていない。
前みたいに顔を合わす時間はかなり減ったし、今日だって訪ねてくるなんて知らなかった。

書いていた報告書を放り出して窓を開けた途端、両手を伸ばしてテンゾウが抱きついてきた。

「わっ・・・」
「会いたかったです」

耳元で響く声に胸が痛くなった。俺もずっと会いたかった。
久しぶりに会えて、抱きしめられて、抱きしめたいって思ったけど・・・。

「テンゾウ。場所ぐらい考えなさいよ・・・誰かに見られたらどうすんの。
 それに、その格好で来るなって何度も言ってるでしょ」

俺はそう言ってテンゾウを引き剥がした。
暗部って意外と目立つし。それにテンゾウの面って派手だし。
教え子が頻繁に訪ねて来るようになったから、
二人で会う時はなるべくテンゾウの家にしようって事に決めた。

テンゾウを見れば、まるで犬が尻尾を垂れているかのような落ち込んだ顔をして。
でもすぐにそれを取り繕うように微笑む。

「そう・・・でしたね、すみません。ついさっき戻ってきたばかりなんですけど、また呼び出されてしまって。
 ・・・だから、少しだけでも顔を見たかっただけなんです」

また呼び出されてって・・・最近ずっとそんな事言ってる気がする。
そういえば少し痩せた?ちゃんと食べてる?

「ちょっと働きすぎじゃないの」
「そんな事ないですよ。・・・じゃ、もう行きます」
「あ・・・ちょっ・・・」

もう行くって、今来た所じゃない。
話の途中なのにテンゾウはひとことそう言って、行ってしまった。
その帰り間際の表情が悲しそうで、俺はやっと傷付けてしまった事に気付いた。

任務の合間を縫ってわざわざ会いにきてくれたのに、あんな事言うべきじゃなかったかな。
なんか俺、別に会いたくなんかないって態度だったかもしれない。
本当はすごく嬉しかった。
だけど突然すぎたし会えるなんて思ってもなかったから、
何て言えばいいのか分からなかったっていうか・・・。

会う時間がぐっと減ってしまったのは、俺の家になるべく来ないように言ってからの事だ。
そうでなければ、今日みたいに任務の合間に寄ってもらえれば会う事だってできる。
このままだと休みが無ければ、ゆっくり話す事も触れ合う事もできない。
酷い事言ってしまったから、もうここには来ないかもしれない。
じゃあ、いつ会えるんだろう?

俺ひとり抜けたぐらいで、こんなに忙しくなるものなんだろうか。
報告書を出しにいくついでに火影様に尋ねてみようか。
いや・・・でも、暗部を抜けた俺が口出しする事じゃない。

任務が終わったすぐ後の任務だから長期になる事はさすがに無いだろう。
だとすると、明日の早朝にはきっと戻ってくるはず。
俺も明日は今のところ予定も無いから、テンゾウの家で待っていよう。








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