in the flight





あめ玉 23








「・・・最悪」

急いで戻ったものの、途中からザッと降り始めてしまった雨のせいで
布団はずぶ濡れになってしまっていた。
シーツは新しいのがあるけど、布団はどうしようもない。
しっとり濡れた布団を抱えたまま、これをどうしようかと悩んでしまう。
室内用の物干でもあればいいのだけど、そんな物がある訳なくて。
テンゾウがいたら木遁術ですぐに作ってくれるのになぁ。

自分もずぶ濡れになってしまったから、とりあえず自分も拭いてしまおうと
タオルで髪を拭いていると玄関の扉の開く音がした。
やっと帰ってきたかと思って振り返れば暗部姿のテンゾウと兎面がそこに立っていた。
二人とも雨に濡れたんだろう。身をすっぽり覆っているマントから水滴が滴り落ちた。

「え・・・。・・・先輩?」

テンゾウは驚いたような声で言って、面を外した。
その表情は、俺がなんでこんな所にいるのか分からないと言いたげだった。
俺だって、なんで兎面なんかと一緒に帰って来たんだって聞きたいけど
そんな事はやっぱりどうしても聞けそうになかった。だからなんでもないような顔をする。
兎面は、俺とテンゾウが付き合っている事を知っているのだろうか。

「ごめんね、いきなり上がり込んで。布団がずぶ濡れで・・・って、その前にそんな所立ってないで中入ったら?」
「・・・はい」

少し緊張しているような声で返事をして、部屋の中に入ってきた。
タオルでも持ってきてやりたいとは思うんだけど、気まずそうにしている二人を見ていると駄目だ。嫉妬で胸が痛くなる。
余計な事を言ってしまわないうちに、早く立ち去りたい。

「・・・俺、帰るから。用事があってね」
「え・・・?いや、ちょっと待って下さい・・・!」

テンゾウは慌てた様子で言って、息を呑んだ。
必死で俺を引き止めようとしてくれているのは分かるんだけど、
そんなふうに接されると余計に辛くなる。
後ろめたい事が何もないのなら、そう言えばいいだけの話なのだから。

「何?」
「・・・せっかく来てくれたのに」

何を言い出すかと思ったら。三人で仲良くお茶でもって空気じゃないでしょ・・・。
ま、その大半は俺が作り出してしまっているんだろうけど。
足を踏み出して、立ち尽くしたままの二人を横切る。

「じゃあね。もう行く」
「先輩・・・」

        *   

気が付けば俺は慰霊碑に向かっていた。
大切なひとが眠る場所。何かある度にいつもここに来ている。
もうあんな思いは二度としたくないから、人と必要以上に関わらないでおこうと思っていたのに。
それなのに、いつの間にかテンゾウといる事が心地よくて。好きになってしまって。
それでもテンゾウとは線を引いているつもりでいた。深い所まで入って来られないように。

それなのに。テンゾウが俺じゃない他の誰かと一緒にいるっていうそんな事だけで
今こんなに動揺して嫉妬している。

俺の勝手な自惚れかもしれないけど
テンゾウが俺以外の男を部屋に入れるなんて、思ってもみなかった。
食事に行ったっという事だってそうだ。
だけど、もしかしたら俺が知らないだけだったのかもしれない。
テンゾウの事を俺は何も知らなかった。

俺はこれからどうしたらいいんだろう。
いつの間にか雨はすっかり上がって空はすっきりと晴れ渡った。
雲ひとつ見当たらない夏の空。太陽は遠くて眩しくて途方に暮れてしまう。
家には帰りたくない。テンゾウにも会いたくなかった。
会いたくないなんて事、今まで一度も思った事なんてなかったのに。

付き合うようになってから俺はどんどんと欲張りになっていってしまう。
このまま一緒にいたって、テンゾウの優しさに甘えてしまうだけだ。








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