in the flight





あめ玉 24








明日からまたナルト達の修行を見てやらないといけないから早く家に帰って書類を書かないといけない。
上忍師の仕事になってからというもの、任務以外の時間はほとんど書類作成の時間になってしまった。

夕方家に帰ると、テンゾウが家に来た形跡はなく安心した。
あんなふうに避けるように出てきてしまったから、どんな顔をして会えば良いのかわからなかった。
もし今会ったとしたら、みっともない事だって言ってしまいそうな気がする。

部屋の灯りをつけて、軽くシャワーを浴びる事にした。
いつまでもテンゾウの事ばかり考えてる訳にもいかないし。

               *

シャワーを浴びている最中、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
テンゾウのような気がするけど、もしテンゾウじゃなかったら急ぎの用事かもしれない。
髪も体も洗い終えた所だから様子を伺う事にした。

バスタオルで適当に髪を拭きながら浴室から出れば、玄関の扉が開いた。
テンゾウの気配がする。顔を見なくても分かった。
「勝手に入ってすみません。・・・少しだけいいですか」
「いいよ。鍵だって渡してるんだから。服着て来るから中で待ってて」
会いたくないなんて女々しい事は言えなかった。だけどやっぱり顔を見たくなくて。

「朝食、おいしかったです。洗濯もありがとうございました」
背中でテンゾウの言葉を聞く。
朝ご飯食べてくれたんだ・・・。あいつと一緒に食べたのかな。
あれからもうかなり時間は経つし、今まで何をしていたんだろう。

「ごめんね・・・洗濯物も布団も雨に濡れて駄目になったから、余計に手間かけちゃったよね」

テンゾウが近付いて来て、俺の後ろに立っている。でも振り向けない。
どんな顔したらいいのか分からない。

「洗濯物はいいんです。でも、布団が乾かなかったんで、泊めてもらおうと思って来ました」
「泊まるって・・・明日は俺、朝から任務で」
「分かってます。でも一緒にいたいんです」
自分勝手な事ばかり言って来るテンゾウにカッとなって、つい言いたくなかった事を口走ってしまう。
「俺は一緒になんか、いたくない・・・っ」
そう言って、振り向きかけたら。テンゾウの手が後ろから伸びてきて強く抱きしめられた。
「僕のこと嫌いになったんですか・・・先輩」
耳元で苦しげな声で言われて胸が痛くなる。そうじゃない。
そうじゃないけど、言葉が出てこない。
「・・・はっきり言ってくれないと、僕も諦めが付きません」
テンゾウの体がとても熱い。いくらなんでも平熱以上の熱はある。
こんな事してる暇があったら病院に行くべきだと思ったけど、それも言えなくて。

大体、俺の事嫌いになったのはテンゾウじゃないの?
嫌われるような事をしたのは、むしろ俺の方であって。
それで愛想が尽きて、今日あいつを部屋に連れて来たんじゃないの。

「なんとか言って下さい。それとも、もう僕と話すらしたくないって感じですか」
「そうじゃないけど・・・今日は帰って。今度、ちゃんと話すから」
じゃないと、酷い事を言ってしまいそうな気がする。自分の事は棚に上げて。

しばらくテンゾウは何も言わなかったけど。
ゆっくりと腕が解かれた。ホッとしたのも束の間、肩を掴まれて無理矢理振り向かせられた。
テンゾウの目は赤く潤んでいて、顔も少し赤くなっている。
熱は大丈夫なのかと気を取られていたら、唇を塞がれた。
強く押し付けられた唇はやはりとても熱い。
キスなんていつ振りだろう。押し返したいと思っても、体が甘く痺れて言う事を聞いてくれない。
唇が離れて行く時、名残惜しいって思ってしまった。

「・・・僕は先輩が好きです。ずっと、多分これからも。でも、先輩に迷惑をかけるのなら
 もう会いに来たりしません。・・・帰ります」

まるで感情を押し殺したような声色でそう言って、背を向けて行こうとしたテンゾウの手首を
思わず掴んで引き止めてしまった。
だって、俺の事が好きって・・・。
テンゾウが驚いた顔で、俺を見つめている。

でも今更、テンゾウになんて言ったらいいのか分からない。
一緒にいたくないって言ったばかりなのに。ていうか、また酷い事を一番大事な人に言ってしまった。

「・・・熱、あるんでしょ」
「え・・・?」
「だからやっぱり、いてもいい。帰っても布団ないし。布団、駄目にしちゃったの俺のせいだし・・・」

もっと素直に言えたらいいのに。本当は一緒にいたいって。
きっとテンゾウだって困った顔してる。
掴んだ手首を離したら、優しく包み込むように抱きしめられた。

「ありがとうございます」
「・・・うん」

テンゾウの声が嬉しそう。
呆れられなくてホッとしたけれど、背中に腕を回せないまま頷いた。

「・・・でも、俺今から忙しいから。書類が溜ってる」
「はい」

そう言って、ぎゅっと腕に力が込められて胸が苦しくなる。
またテンゾウに甘えてしまった。
だけど、やっぱりテンゾウだけは失いたくないって思ってしまうんだ。







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