in the flight





あめ玉 25








背中に直接触れるテンゾウの体温を感じて、
自分が服を着ていなかった事をようやく思い出した。
すぐ後ろにある棚の上に、着ようとしていたアンダーが置いたままになっている。
しばらくこのままでいたいような気もするけど、
何よりもテンゾウの体が心配だからゆっくりとテンゾウの体を押し離した。

「薬、飲んだの。ちょっと普通じゃないよ、体温」

テンゾウの顔を見られなくて、すぐに背中を向けて目の前のアンダーを頭から被った。

「そうですか?・・・先輩を抱きしめたせいかも知れないですね」
「お前ね・・・。とにかく横になって休んでたほうがいいから。薬取ってくる」

そう言って振返り、テンゾウの腕を掴んでベッドまで引っ張るように連れていく。
どさくさに紛れて変な事言わないでほしい。俺まで熱が上がりそうだ。

「え。僕、ソファとかでいいです」
「病人をソファでなんか寝かせられる訳ないでしょ。いいから、早く」
「・・・。・・・はい」

不満そうな顔でテンゾウは頷いて、渋々ベッドに横になったけれど
すぐに首を振って体を起こす。

「でも先輩、明日は任務があるんですし、やっぱり僕がソファで寝ます」
「しつこいね。大体ベッドが使えないから泊まらせてくれって言ってきたのはテンゾウの方じゃない」

そう言って大きく溜め息を吐けば、視線を落として小さく溜め息を吐いた。

「そんなの口実に決まってるじゃないですか・・・」

小さい声でテンゾウはそう言って、とすんとベッドに体を鎮めた。
口実だって言うのなら、言い訳のひとつぐらい聞かせてくれたっていいのに。
それとも俺がテンゾウの事嫌いになったなんて本当に思っているから何も言わないのか。
何を考えているのかさっぱり分からないけれど、熱がある奴にとやかく言ったって仕方がない。
何も言わないで台所に行って薬を取り出し、コップに水を汲んでベッドまで戻った。

ベッドの端に腰を降ろして、薬と水を手渡したら体を少し起こした。
目はとろんと熱っぽく、呼吸も随分と乱れている。

「ありがとうございます・・・」

そう言って薬を水で流し込んだ。空になったコップを受けとって、
横になったテンゾウに薄い肌掛け布団をかけてやった。
どれぐらい熱があるのかと額に手を当てると、テンゾウは気持ち良さそうに目を閉じた。
自分の体温と比べるまでもなく高熱。

「氷枕作ってくる。あと欲しいもの何かあったら言って」

そう言って立ち上がろうとしたら、離しかけた手をぎゅっと握られた。

「何もいらないんで、少しだけ・・・このままいて下さい」

そんな訳にもいかないでしょ。あと他に冷やしたタオルとかもいるだろうし、
喉だって渇いているだろうし。そう頭の中で、ぐるぐる考えていたのに。
握られた手がとても心細そうで、胸がぎゅっと締め付けられる。
何も言えないでテンゾウを見れば、申し訳なさそうな顔をしながら微笑んだ。

「わがまま言ってすみません」
「・・・いいよ。体調悪い時ぐらい、わがまま言えばいい」

俺がそう言えば驚いたような顔をして。
それからほんの少しだけ嬉しそうな顔をして、小さく頷き目を閉じた。
テンゾウは俺の言う事をいつも聞いてくれるけど、テンゾウは俺にこうして欲しいとか
困らせるような事をほとんど言わない。
気を遣っているのか分からないけれど、もっと言ってくれたらいいのに。
最近感じている距離感は、このせいなのかも知れない。
俺だって全然素直じゃないけれど、だからこそもっと言ってほしいって
思ってしまうのは、やっぱり俺のわがままだと思う。
テンゾウも、もしかしたら同じような事を思っているのかな。
俺が何も言わないから、不安になったりしているのかも知れない。

「ごめん。すぐ戻る」

そう言って立ち上がると寂しそうな目でじっと俺を見る。

「大丈夫。ほんとにすぐ戻ってくるから」







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