不安気な顔のテンゾウの頭をくしゃりと撫でて、台所に行く。
棚の奥に仕舞い込んであった氷枕を引っ張り出して、氷を中に詰め込んだ。
冷蔵庫に入れてあった水を取り出して部屋に戻るとテンゾウが体を起こそうとする。
「そこまでしなくたって大丈夫です」
「俺がしたいだけだから。横になってて」
そう言いながら引き出しを開けて、タオルを数枚取り出し氷枕をぐるっと包み込んだ。
「ちょっと冷たいと思うけど、しておいた方が絶対いい」
テンゾウの頭の下に入れてやると、気持ち良さそうに目を閉じる。
「水、ここに置いておくからさ」
ベッドの脇に寄せた小さいテーブルの上にコップを置いてから、部屋の電気を消した。
「ありがとうございます。電気は大丈夫ですよ」
確かに明日の書類は残っていたけれど、今はそんな事よりも安心して寝かしつけてあげたいと思ったから。
「書類は任務の合間に書けばいい」
明日のカカシ班の任務はペット探しという平和な任務だから、いくらでも時間はある。
薄掛け布団を捲り、テンゾウの横に潜り込んだらギョッとした様子で体が跳ねた。
「な、何してるんですか」
「何って・・・なんだろな」
自分でもよく分からないけれど、テンゾウを抱きしめてやりたいって思ったというか。
普通は病人にこんな事しちゃ駄目なんだろうけど。
熱い体を抱きしめて片方の手を繋いだ。
「寝るまでこうしてるから」
「・・・先輩。余計に熱が上がりそうなんですけど」
体を強張らせながら困ったようにそう言った。
「出た方がいい・・・?」
「・・・嬉しいんですけど、風邪が移ったら良くないと思って」
「俺はお前みたいに働き過ぎてないから移ったりしない。大丈夫。
いくらなんでも、無理しすぎでしょうよ。色々言いたい事はいっぱいあるけど、今はゆっくり休んで」
そう言えば、小さく頷いて繋いだ手を握り返された。
「はい・・・ありがとうございます」
テンゾウの体から力が抜けたのが分かってホッとする。
「やっぱり先輩、体温低いですね」
「お前はめちゃくちゃ熱いよ。・・・こんな風に触れるの、久しぶりだよね」
そう思ったら、少し思い切った事をしてしまったと後悔してしまう。
だけど、こんな風にしか触れる事もできなくて。
テンゾウが寝込んでいなければ、きっとまた思ってる事も素直に言えなくて
酷い事を言ってしまっていたと思う。
「・・・心臓の音が早いですね」
そう言うテンゾウの心臓の音だって早い。
「当たり前でしょ」
「僕のこと嫌いになったんじゃ、ないんですか?」
「嫌いだったらこんな事しない」
むしろ俺に呆れてるのはテンゾウのほうじゃないの。
その一言がどうしても言えない。
「じゃあ、どうして怒ってるんですか?話したくないのは分かります。でも・・・」
「あの状況で何も思わない訳がないでしょ。・・・後も追って来ないし、今の今まで何してたのかって」
「・・・え。もしかして今日の昼の話ですか」
「そう」
「誤解です・・・!何もありませんから。ていうか、あいつは先輩の事が好きで相談に乗っていただけであって・・・」
「俺?え、嘘。俺はてっきりお前の事が好きなのかと思ってたよ・・・。で、なんでお前が相談なんかに乗るのよ」
「言えないですよ、先輩と付き合ってるなんて。だけど、もうバレましたけどね」
じゃあ何。俺が勝手に勘違いしてたって事?
余計に恥ずかしい。どうしよう、最悪かもしれない。
いたたまれなくなってテンゾウから離れようと体を起こしたら、下から両手が伸びてきて抱きしめられた。
「ごめんなさい。・・・先輩に誤解させてしまうような事してしまって。追いかけようと思いました。
でも、あの格好のままで追いかけたりしたら先輩に迷惑かけてしまうと思って。嫌われたくなかったんです。
・・・好きな人に追い払われる事ほど、辛い事は無いですから」
ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられて苦しい。
本当に熱があるのかと思うぐらいの力に驚きながらも、
やっぱり最近の自分の行動がテンゾウの事を傷つけていたのだと知った。