in the flight

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あめ玉 4








はじめて抱きしめた先輩の体。
必死で、僕は必死で。
ぎゅっと腕に、力をこめた。


「・・・うわぁ、あったかい」

と、先輩は小さく呟く。

「ごつごつした抱き枕で、ごめーんね」

軽い口調も、あまり笑えない。

「いつも、こうなんですか?」


僕の前でチャクラ切れを起こしたことは、前にもあった。
だけど、こんな姿を見たのは初めてだった。
僕が知らなかった、気付かなかっただけなのかもしれない。

「いつもじゃないけど・・・でも、いつも夜は寒くて仕方ない」

今ここにいるのが、僕じゃなかったら先輩はどうしただろう。
くの一相手でも、僕以外の男でも、抱きしめてくれと言うんだろうか。

先輩の手が、ゆっくりと僕の背中に回される。
僕は先輩に顔を向けれずに、そっぽ向けたまま。
緊張した顔を見られたくなくて。

先輩の体は冷たいはずなのに、背中に回された手もびっくりする程冷たいのに、
触れているところから僕の体はどんどん熱くなる。

「僕は少なくとも、先輩よりは体温高いんで。・・・毛布だと、思って下さい」
「ふふ。・・・毛布にしちゃ、ごつごつしすぎでしょ」
「重くないですか?」
「ううん・・・すっごく安心する。ありがとうね、テンゾウ」

先輩は小さい声で、優しい声で、ゆっくりと言って。
それから、ふっと体から力が抜けた。
そして、しばらくしてから寝息が聞こえてきた。


眠った・・・のかな。
僕は先輩を起こしてしまわないように、じっとそのまま体を動かせずにいた。
同じように動かない冷たい先輩の体とは対照的な、
火が出そうなほどに火照った僕の体。

無性にやるせなくなる。
守ってあげたいと思う人に、僕はいつも守ってもらってばかりだ。

先輩がこんな事になってしまったのは僕の責任。
だから、先輩が好きだという気持ちを抑えて。
ただ、今出来る事を。先輩の為に。



   *

 

家の外から鳥の鳴く声が聞こえはじめる。
朝露の匂いと共に、冷たい空気が流れ込んできていた。

早朝に立つつもりでいたが、先輩の状態を考えると
陽が昇り始めてからのほうが良いかも知れない。

先輩はまだ眠っているようだった。
僕は、起こしてしまわぬよう、ゆっくりゆっくり
顔を先輩のほうに向ける。

相変わらず青白い顔をした先輩は、
頬を少し僕のほうに向けていたから
その距離の近さに、心臓が跳ね上がった。

目の前に、ほんの数ミリ動かすと鼻先が触れる距離に
先輩がいる。近すぎて、よく見えない位だけど
普段は隠されている唇が、無防備に少しだけ開かれている。

あとほんの少し。 ほんの少しの距離なのに。


でも僕にはそれが、もの凄く遠い距離に感じた。
踏み出せずに、少しだけ顔を離す。
唇を重ねてしまえば、何もかも失ってしまいそうに思えたから。

溜め息をつく代わりに、僕は目を閉じた。
目を閉じると、もう開けそうにないほど瞼が重く感じた。
昨晩もよく眠っていないし、少しだけ休もう。


それに、このまま起きていたら、何かしてしまいそうで怖いから。







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