in the flight





あめ玉 5








いつのまにか僕はぐっすりと熟睡してしまっていて、
ハッと目を覚ますと、目の前に銀色が飛び込んでくる。

先輩の髪。目の前にあったはずの先輩の顔は、反対側へと向けられていた。
そのことが寂しく感じてしまったのは
先輩が僕と同じような反応をしてくれる事を期待していたんだろうか。

「よく眠れた?」

突然、先輩の声が体を伝って響いた。僕はずっと先輩を抱きしめたままだった。
肩に軽い重みを感じるのは、先輩の手の平?
心臓が跳ねる。

「すみません、つい熟睡してしまって・・・。重くなかったですか」
「ううん。あったかくて、俺もよく眠れた」

もう起きないと。とは思いながらも、もう少しこのままでいたいと思ってしまう。
先輩の手も背中に回されたままで、離れそうにはなかった。

冷えきっていた部屋の空気も変わり、ぽかぽかと、温かく感じた。
もう太陽も昇っているんだろうか。

「里に帰れるの、明日になっちゃうね」
「・・・そうですね。夜は冷え込みますから、移動できるのは昼間だけですし」
「ごめんね。俺のせいで」
「元々は僕のせいで、こうなってしまったんです。だから先輩は謝らないで下さい」

僕の体の下で、先輩の体が少し動いた。もう片方の手が下から伸びてきて、背中に回された。

「こんな抱き枕、ほしいかも」
「抱き枕ですか。僕、ゴツゴツしてますけど」
「いいの。・・・ねぇ。里に帰ったらさ、美味いものでも食いに行こう。俺が奢ってやるから」
「それは嬉しいですけど、里に着いたら速攻で入院だと思いますよ」

回された先輩の両腕がぎゅっと僕に抱きつく。
もう本当に、どうかしてしまいそうだ。
こんな事されたら嫌でも期待してしまう。

「じゃあ・・・退院したら行きましょう。僕が奢りますよ」
「本当?楽しみにしてる。・・・なんかねぇ、ほっとする。こうしてたら」

僕はホッとするというよりドキドキしすぎて、心臓がどうにかなってしまいそうで。

「でも、そろそろ出発しなきゃね」
「そうですね。・・・準備しましょうか」

僕がそう言うと、ゆっくり先輩の腕が離れていった。

起き上がって先輩を寝かせたまま、先に自分の身の支度を済ませた。
体がまだほかほかと温かい。ほんのりと、自分の体から先輩の匂いがしている。
里に早く帰って、先輩を病院に連れて行ってあげたいと思いながらも、
こうやって一緒に眠れるのなら、ゆっくり帰りたい。

「額宛てはどうします?付けますか」
「うん、一応。脚絆も悪いけど巻いてちょうだい」

そう言って先輩は体を起こそうとして、辛そうに顔を歪めた。
それを慌てて支える。

「やっぱりこのまま行きましょう」
「・・・格好悪くない?俺」
「いえ、全く。先輩はいつも、かっこいいですよ」

すると先輩は笑って、頭を僕の肩に預けた。
安心しきったかのように閉じられた瞼。思わず抱きしめたくなる。
だけど、いつまでもこうしている訳にも行かない。

「さ、行きましょうか」
「・・・うん。お願い」



     *

先輩を背負ってまた里へと歩き始めた。
僕の首に腕をきゅっと絡める先輩との距離は、いつもよりも近く感じている。
もしかしたら僕の勘違いなのかも知れないけど、
それが嬉しくて嬉しくて、我慢できずに面の下でこっそりと微笑む。

想いを伝えられなくても、こうやってずっと一緒にいられたら
それだけで、僕は幸せなのかもしれないってずっと思っていたけれど、
先輩との距離が近くなるにつれて、やっぱり好きだと
いつかは言ってしまう時が来るような気がする。

だけど、もう少しこのままで。









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