in the flight





あめ玉 7








陽が暮れる前に、川沿いに小さな二階建ての家を作った。
寒さを少しでも凌ぐために頑丈な造りにした。

真っ暗な部屋の中に先輩を運び、蝋燭に火をつける。
動けない先輩を毛布でくるんだ。

「テンゾウ、窓開けてくれる?」
「寒くないですか?」
「うん。なんかもう分かんなくなってきたし」
「・・・やっぱり今日、急いで帰ったほうが良かったですかね」
「ううん。こんな時じゃないと、ゆっくりできないしね」

先輩の為に作った窓を全部開けば、窓一面に紅葉が広がった。
陽が沈む方角に窓を作ったから、夕陽も差し込んで部屋を茜色に染めた。

「寒くなったら言って下さい」

そう言って、毛布にくるまる先輩を振り返れば
ぼんやりと外の景色をずっと眺めていた。

僕はそれ以上声をかけず、部屋の隅に荷物を降ろし
額宛てとベストを外して、さっき取ってきた胡桃を割って口の中に放り込む。

先輩を見れば、まだ外を見続けていた。
少し横になったほうがいいのかもしれないけど、
何か考え事でもしているのかも知れないから
先輩が何か言うまで黙っておこうと決めた。

そうしているうちに陽は暮れて、外も暗くなり
冷たい夜風が吹き込んで来て蝋燭の火を揺らした。
さすがにそろそろ閉めたほうがいいだろうと立ち上がると、先輩が僕を見上げた。

「まだ閉めないで。・・・テンゾウが寒い?」
「いや、僕は・・・」
「ほら。星が見える」

そう言って先輩が視線を窓の外に向けた。
つられて僕も見れば、先輩の言う通り星が沢山光っていた。
だけど別に珍しいものでもない。
暗部での任務は夜間が多いから、星の方角を目印に使う事も多い。

先輩の隣に腰を降ろす。
部屋の真ん中ではずっと火が揺れていて、
そのうち風に吹き消されてしまいそうだった。

「さっき、ありがとね。顔拭いてくれて」
「いえ。あれぐらいの事でしたら、いくらでも」
「じゃあさ。体も拭いてくれる?」
「えっ?」
「嫌だったらいいんだけど・・・明日まで我慢すればいいんだし」
「我慢して下さい。・・・さすがに風邪引いちゃいますよ」

チャクラ切れの所に風邪まで引いてしまったら、大変な事になりそうだ。
それに・・・先輩の肌に直接触れるなんて、いくらなんでも僕には無理だ。

「それだけ?」
「・・・え?」
「駄目な理由って、それだけなの?」

それはどういう意味で・・・。
そう言おうとした時に、ふっと蝋燭の火が消えた。
部屋が真っ暗になって、少しの間沈黙が流れた。

「・・・。やっぱり閉めますね」

僕は話を逸らそうと立ち上がり、窓をきっちりと閉めた。
蝋燭にもう一度火を付けて、そこに座った。
先輩の隣に戻れば僕はきっと、好きだからって言ってしまいそうだったから。

「テンゾウ、寒い」

離れた僕を呼んでいるかのように、先輩は小さくそう言った。
寒いと言われれば行かない訳にもいかない事を、先輩は分かってるんだろうか。
僕は腰を上げて、結局先輩の隣に腰を降ろして羽織っていたマントを毛布の上からかけてあげた。

「もう横になりますか?」
「・・・うん」
「じゃあ、今日はベッドを作りますね。床だと冷たいし背中も痛いでしょうから」

そう言って、まず僕は部屋の隅に木のベッドを作った。

「少し先輩はここで待ってて下さい」
「え?うん・・・わかった」

ぽかんと僕を見上げる先輩を残して、僕は家の外に出て
山の中にこんもりと積もった紅葉の落ち葉を、外に出る時に持って来た布の袋に詰めた。
そしてそれを、部屋に戻ってベッドの枠の中に入れていく。
その上に毛布を広げて完成だ。
落ちたばかりの葉は柔らかい。床の上で寝るよりかは、かなりマシだと思う。

「寝心地はあまりよくないかも知れませんが」

そう言って体を抱き上げると、先輩は嬉しそうに笑う。

「ううん。ありがとう」
「いいえ。明日までの辛抱ですよ」

ベッドの上に先輩を降ろして、もう一枚毛布を上からかける。
家を頑丈な造りにしたおかげで、昨日よりは寒さは和らいでると思うんだけど。

「でも・・・ちょっと狭くない?ベッド」
「そうですか?」
「だって、テンゾウも一緒に寝るんでしょ」
「あぁ。今日は見張りもかねて、起きてますから」
「見張りなんて、分身に任せればいいじゃない」
「・・・そうですが」
「今日は抱き枕ないんだ。残念」

先輩はわざとらしく不満げな声で言った。

「それに、やっぱりこれだけじゃ寒い。一緒に寝てほしいなぁ」
「・・・。・・・わかりました」

そこまで言われてしまったら、そう答えるしかなかった。
溜め息をひとつ吐いてベッドの中に入ろうとすると、
待ってと先輩に言われた。

「なんですか?」
「体、拭いてほしいんだけど。駄目?」
「えっ!」

思わず声が上ずってしまう。
もうその話は無くなったのかとばかり思っていたから。

「いいでしょ?テンゾウ、お願い」
「でも・・・」
「こんな事、テンゾウにしか頼めないんだよ。
 他の奴に頼んだら、何されるか分かんないから」
「何されるかって・・・?」
「あー・・・。いや、なんでもない。・・・お願い、テンゾウ」
「・・・わかりましたよ。でも、上だけですからね」
「いいよ、それで」

僕が了承した途端に、先輩は嬉しそうな顔をする。
そんなに拭いてもらいたかったんだろうか。
先輩のお願いはやっぱり断れない。

「冷たかったら言って下さい。すぐ止めますんで」
「はーい」

はぁ・・・と溜め息を吐いて、僕は水と手拭を荷物から取り出した。









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