in the flight





あめ玉 8








手拭をぎゅっと絞ってベッドの上で横になっている先輩をちらりと見れば、
ニコニコと機嫌良さそうに微笑んでいる。
本当に・・・先輩が何考えてるのか、さっぱり分からないよ。
僕以外にこんな事頼めないって言ったのは、どういうつもりなんだろうか。

とにかく、これ以上先輩に気付かれないようにしないと。
言わないって・・・決めたんだから。
それに、先輩が動けないっていうのに変な事考えたりするなんて
僕はどうかしてる、本当に。

「じゃあ先輩、始めますけど・・・本当に冷たかったら言って下さいよ」
「ごめんね〜」

よし。と意気込んで先輩のアンダーに手をかけ、一思いに脱がした。
あまり見なければいいんだ。
そう心の中で言い聞かせながら、拭き始める。
本当に冷たくないのかな?
そう思って先輩を見れば、気持ち良さそうに目を閉じていた。
僕は、先輩がして欲しい事をしてあげたいと思ってるから
喜んでくれているのなら、それでいいのだけど。


とはいえ、見なければいいと思っていても、やっぱり見てしまう。
引き締まっているけど、ゴツゴツしていない滑らかな肌は
やっぱりきれいで、顔が赤くなってしまう。
拭いている手を胸の方にずらせば、嫌でも乳首に目が行ってしまう。
寒さのせいなのか、ピンと立っているそれはびっくりする位にピンク色。
これは・・・さすがに拭けない。
うん、別に拭かなくていいだろう。わざわざ乳首を拭く事は無い。
あぁ・・・駄目だ、これ以上見てられない。

「先輩、背中を拭きます」

僕がそう言えば、よいしょと体を捻りうつ伏せになった。
僕はさっき見てしまった先輩の乳首が頭から離れなくて、
頭をブンブンと横に振った。それなのに。

「んん・・・俺ねぇ、背中。弱いの」
「・・・え?」
「気持ちいいんだよねぇ・・・」
「・・・あの、先輩」
「ん・・・なーに」
「・・・僕、そんなつもりじゃ・・・」

下心が無い訳じゃないけれど冗談でもやめてほしい。心臓に悪すぎる。
僕の気持ちを知ってて言っている訳でも無さそうだし。
だって、それにしては暢気すぎるっていうか。

「あぁ、ごめんごめん。俺もそんなつもりじゃないんだけど・・・つい、ね」
「はい。・・・びっくりするんで、変な事言わないで下さい」

とりあえずリアクションに困るっていうか。
はぁ・・・と溜め息を吐いたら、先輩が体をまた捻って仰向けになった。
もういいのか。まだそんなに、拭いてないんだけどな・・・やっぱり冷たかったのかな。

「もういいよ、ありがとう」
「いえいえ。服、着替えますか」
「あー・・・このままでいいよ」
「ええ?着たほうがいいですよ。寒いんですから・・・熱出たらどうするんです」

そう言って毛布をかけ直してあげようとすれば、先輩の手が僕の腕を掴んだ。

「だって、テンゾウが一緒に寝てくれるんだったら寒くないでしょ」
「い、一緒に寝るなら余計に服を着て下さい・・・!服、取ってきます!」

ちょっと、さすがにそのお願いは無理だと思いながら
自分の巻物から新しいアンダーを取り出した。
・・・先輩は平気でも、僕は駄目なんだ。
ベッドに戻って先輩に服を着せると、どっと疲れが押し寄せてきた。
気疲れだ、これは。
だけど・・・これも、今夜で終わりなのかもしれない。
先輩がこんなにも僕に甘える事なんて、もうないかもしれないし。
そう思ったら、少し寂しいような残念な気持ちになったけど、やっぱりそれは欲張りな気がする。

「テンゾウ早く中に入って」
「・・・はい」

まだ寝るには早いけれど、先輩を休ませてあげる為にと
自分が作ったベッドの中に入った。
さっき先輩が言った通り、二人で寝るには少し狭いベッドだけど
昨晩みたいに抱きしめあって寝るのなら、これぐらいがちょうど良かったのかな。

「もみじのベッド、寝心地いいよ」
「喜んでもらえたなら、良かったです」

そう言って、先輩の体をそっと抱きしめた。
昨晩からずっと先輩の近くにいたし触れていたから、昨日ほど緊張する事は無かった。
先輩の腕が背中に回されるのも、平気だった。
だけど、その手が服の中に潜り込んできたものだから、さすがにびっくりしてしまった。
背中に触れている手が冷たくて、身震いする。

「先輩、また何を・・・」
「直に触れたほうが暖かいって、テンゾウも知ってるでしょ?」
「・・・知ってますけど」
「だからさっき、服は着なくていいって言ったの。・・・嫌?」
「嫌っていうか・・・じゃあ、先輩は嫌じゃないんですか?」
「うん。嫌だったら言わないでしょ」

そりゃそうだけど。・・・って、気付けば先輩の手が僕の服を捲りあげている。

「先輩!」
「もう、いいでしょ。ほら早く」

結局、また押し切られてしまって。
半裸で抱き合っているんだけど、先輩の肌が気持ちよすぎて
本当にどうにかしてしまいそうだ。
ちょっとでも気を緩めたら、元気な僕の息子が・・・

「あったかいね、やっぱり」
「・・・そうですね」

先輩はどう思っているんだろう。
僕の脈がものすごく早くなってる事くらい気付いているだろうに。

「テンゾウって優しいよね」
「そうですか?」
「だってさ、こんなベッドまで作ってくれるんだもん。
 いつもそうなの?・・・女の子と一緒の時も、してあげてるの?
 運んであげたり、ベッド用意してあげたり」
「何度かはありますけど、いつもじゃないですよ」

怪我をしている時とか、そんな時ぐらいだ。
でも、別に下心がある訳でも無いし・・・。

「・・・こんな事されたら、惚れちゃうだろうなぁ」
「何言ってるんですか。そんな事無いですよ」
「そう?・・・さっきも言ったけど触れ方だってすごく優しいし、その気になっちゃうよ。
 紅葉が見たいって言ったら、ちゃんと窓とか付けてくれるし・・・紅葉のベッドだし。
 大体の子だったら、落とせるでしょ」
「でも、好きな人に振り向いてもらえないんだったら意味ないんですよ」
「・・・好きな子いるんだ」
「あ・・・、はい。一応・・・」

しまった、と思った。突っ込まれて聞かれたら、しどろもどろになってしまうかも知れない。
でも、そんな僕の不安をよそに、先輩はふーんって言っただけで、
それ以上はその事について何も言わなかった。

聞かれなくて良かったと思いながらも、ふーん。の意味は何だろうって考えたら
気が気じゃなかった。
大して興味が無いのか、僕の気持ちに気付いてるからそれ以上は聞かないのか、
そのどちらかのような気がしてしまって・・・。








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