in the flight





あめ玉 9








明け方に家の外から鳥の鳴き声がして目が覚めた。
テンゾウの体が俺の上に被さったまま。
重みはまったく感じないけれど、テンゾウの体はとても温かかった。

静かに寝息を立てるテンゾウの横顔を見つめる。
俺の事好きなのかなって思ったりもしたんだけど、
やっぱり勘違いだったのかな。
なにより昨晩、好きな人がいるって聞いて動揺してしまった。
だって・・・好きな人がもし俺なんだったらさ、
言ってくれたっていい状況だった訳で。
こういうの、なんていうか・・・自意識過剰ってやつだ。

テンゾウがあまりにも必死に、何だってしてくれるから
体が動かないのをいいことにワガママ言い過ぎちゃったかもしれない。
だって、俺は特別だなんて事を言われたらさ。期待してしまうでしょ。
ほんと、何考えてるのか全然わかんないよ。お前。

すやすやと気持ち良さそうに眠るテンゾウに顔を寄せて、額にそっと唇を合わせた。
ほんとは唇にキスしたいけど、これ以上贅沢は言えない。

それから気付かれないようにそっと唇を離して、もう一度目を閉じた。



         *



「カカシ先輩」

名前を呼ばれて目を覚ますと、テンゾウは俺を抱きしめたままだった。
テンゾウの心音が早い。やっぱり緊張してるんだろうか。
・・・もし俺の事が好きだったら、こんなに冷静でいられないと思うんだけど
本当の所はどうなんだろう?
緊張してるのは、俺がいきなりこんな事させたから、びっくりしてるだけなのかも知れない。

「おはよ。よく寝てたね」
「先輩も。今日は早く里に帰って、病院に行きましょう」
「入院したら見舞いに来てよ」
「ええ、もちろん。しばらくは任務も無いと思うので」

そう言って、テンゾウが起き上がった。
俺はテンゾウが離れていくのが嫌で、思わず引き止めるように
テンゾウの手を掴んだら驚いたような顔をして俺を見る。
その顔は、ほんのりと赤いような気がした。

「急いで帰らなきゃいけないって分かってるんだけど・・・。
 あと少しだけでいいから、抱きしめててほしい」

そう言えば、テンゾウは困ったように顔をしかめる。
その表情はとても辛そうに見えた。
でも俺は、テンゾウに抱きしめてほしかった。
無茶苦茶な事言ってるって分かってる。

「駄目?」

するとテンゾウは溜め息を吐いて、上から俺に覆い被さり
包み込むように優しく抱きしめてくれた。
もうテンゾウが好きだって言っちゃっても大丈夫のような気がするんだけど
体が動かない時に言うのが嫌なんだよな・・・。
もし俺の勘違いだった場合、つまりフラれた場合でも
里まではテンゾウに運んでもらわなきゃいけない訳だから
せめて里に帰ってから。

「・・・先輩」
「んー?」
「どうして僕に、こんな事・・・」

耳元で聞こえてくるテンゾウの声は少し震えていた。
好きだからって・・・言いたいんだけどなぁ。

「だって・・・まだ早いんじゃないの?出るには」
「・・・そうですか?」
「うん。寒いし・・・テンゾウ、あったかいもん」
「・・・はあ」

適当に言葉を濁す。テンゾウは納得のいかないような返事をしながらも、
それ以上は何も言わなかった。

「まあでも、早く帰りたいっていうんだったら、もういいけど・・・名残惜しいなって思っただけだから」

俺がそう言えば、テンゾウがいきなり体を起こして俺の顔を覗き込んだ。
その黒目がちな目が切なそうに潤んで、それに見入ってしまっていると
次の瞬間に唇を塞がれた。

「・・・っ」

その乱暴な唇を押し付けるだけのキスの意味がわからなくて、
でも抵抗しようにも体は動かないから、じっと唇が離れるのを待ってたら
ゆっくりと唇が離れていって。テンゾウも俺から離れて、ベッドの端に座った。
背中を向けられているから、表情が分からないし何も言わない。

「・・・テンゾウ。今のって・・・何?」

キスされて嬉しいとか、喜べる状況でもなくて。
体が動かせないのがもどかしい。

「・・・すみません」
「そうじゃなくて、何でキスなんか・・・」

そう言うと、テンゾウが振り返って俺を見る。その顔は泣きそうなのに、笑ってて。

「すみません、忘れて下さい。・・・さ、もう帰りましょう」

そんな顔をされたら、もうこれ以上何も言えなくて。
忘れられる訳がない。だけど、俺だって今すごく頭の中が混乱してて。
里に帰って、体が元通りになったら全部テンゾウに話そう。
そのほうがいいと思った。
だから、今は黙って頷く事しか出来なかった。








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