in the flight




ivory (1)



オンリー限定で出したアイボリーのホワイトデーのお話です。







あれから数週間後。あっという間にその日が来てしまった。
テンゾウへのホワイトデーのプレゼントは何を用意したらいいか分からなくて随分悩んだ。
あの時ハート型の恥ずかしいチョコレートを貰ったから、同じような物を返して恥ずかしい思いを
させてやろうかと思ったけど、それを買う勇気は俺にはさすがに無いから。
結局通りかかった店でホワイトデー用に山積みされていたクッキーを買って、テンゾウの家に行くことにした。


つきあい始めて一ヶ月。俺からはまだ好きだと言っていない。
ホワイトデーのお返しは何がいいかと聞いたら、
好きだと言ってほしいって言われたせいで
あれから何度もうっかり言ってしまうそうになって大変だった。

今日は久しぶりに俺だけ任務でテンゾウは休みだから、家で食事を用意してくれているらしい。
一旦家に帰ってシャワーを浴びてから行こうかと思ったけれど、
早く会いたい気持ちのほうが勝ってしまった。

玄関の扉を開けたらテンゾウがすぐそこにいたから驚いた。

「お疲れさまです。もうそろそろかなって思って」
「待ってたの?ここで?」

テンゾウの言葉に更に驚いて言えば、罰が悪そうに笑う。

「はい、待ちきれなくて。・・・外まで出る所でした」

待ちきれないという言葉だけでドキドキしてしまう。
俺だって同じ気持ちだったけれど、それを平気で言われてしまったら心臓に悪い。
最初は遠慮していたんだと思うんだけど、前は俺が言ってた台詞なんだと思ったら
余計に恥ずかしくなってしまって、何も言えなかった。
とりあえず手に持っていた、さっき買ったばかりのクッキーの詰め合わせが入った袋をテンゾウに渡す。

「これ、お返し」
「ありがとうございます」

あっ、とテンゾウの表情が一層晴れやかになって。にっこりと本当に嬉しそうに笑ってくれた。
照れくさいから適当に買ってしまったなんてさすがに言えないけれど、喜んでもらえるとやっぱり嬉しい。

「まぁそれはオマケみたいなもんでしょ」
「あ・・・先輩、ちゃんと覚えていてくれたんですね」
「当たり前でしょ。あんな恥ずかしい事言われて、忘れる訳がない」

そう言ったら、不意に抱きしめられてしまった。
それでなくてもドキドキしていたのに、テンゾウのあったかい体温と
鼻を掠める匂いに胸が痺れるように熱くなる。

「クッキー食べていいですか」
「うん。いいけど、もう夕飯でしょ」
「でも、少しだけ」

子供みたいにテンゾウは言って、俺の背中の後ろで袋の包みを開けた。

「わ・・・」
「ん?」

驚いたように硬直したテンゾウを不思議に思って、
体を離して顔を覗き込んでみると耳まで真っ赤になっていた。
そんなに驚かすようなものを買った覚えはないんだけど・・・。

「先輩、わざとですか」

何を言っているんだろうと思って、テンゾウの持っていた包みの中を見てみたら
小さいハート型のクッキーが沢山詰まっていた。
そういえば俺、中身を見ないで買ったんだっけ・・・。

「いや、そういうつもりじゃ。全く」
「嬉しいです」
「いやだから違うって」

すぐに否定はしたけれど、俺の話を聞くつもりは無さそうで。
こんなのもらったら俺は恥ずかしくて堪らないけど。
こんなに嬉しそうにされると俺まで嬉しくなってしまう。
俺を抱きしめている腕にぎゅっと力がこめられて、心臓が更に早くなった。
もう少しこうしていたいけれど、風呂に入っていない事を思い出して慌ててテンゾウに伝える。

「テンゾウ。先に風呂入ってきてもいい?任務終わってすぐに来たから・・・」
「あ、そうかと思って用意しておきました。ゆっくり入ってて下さい」

テンゾウもまだ風呂には入っていないみたいだから、久しぶりに一緒に入りたいかもしれない。
俺の家の風呂は狭いけど、テンゾウの家の風呂は広いからゆっくりできるし。

「一緒に入ろ。時間はまだいっぱいあるし、夕飯はその後でいいでしょ」
「いいんですか?嬉しいです」
「じゃあ決まり。先に入ってるからタオルとか出しておいてね」
「先輩は相変わらず人使いが荒いですね・・・」

はぁと溜め息を吐くテンゾウを置いて、先に浴室に入った。
俺がこんなに人使いが荒いのはテンゾウだからなんだけどね。
その事にテンゾウは気が付いているのか、いないのか。

シャワーを頭から被って、ざっと埃を洗い流していると
テンゾウが入ってきてくるなり俺を抱きしめた。
直接触れ合う肌を体中で感じて、一気に体が熱くなってしまう。
まさかいきなり抱きしめられるなんて思っていなかったけれど、
真っ直ぐに俺のことを求めてくれる事が嬉しかった。

「体、洗ってあげますね」

俺から少し離れてテンゾウはそう言って、楽しそうにタオルでせっけんを泡立て始める。

「自分で洗うからいいって」
「たまにはいいじゃないですか」

悪巧みをしているのは明らかだったからそう言ったけれど、テンゾウはお構いなしのようだ。
泡立てたタオルを持って、勝手に背中を洗い始めた。
ごしごしと力を込めて洗われるとマッサージしてもらっているみたいで気持ちがよくて、目を閉じる。

「先輩の背中きれいですよね。猫背なのは気になりますけど」

テンゾウはそう言って、指先で俺の背中をなぞる。
無防備に気を抜いていたせいもあって、思わず身震いをした。
収まりかけた熱もすぐに元に戻ってしまい、心臓がうるさい。

「・・・っ」
「背中も弱いんですね」
「ふ、普通に洗って・・・!」

いつの間にか立場が逆になってしまっている気がする。
テンゾウは、はい。と嬉しそうに言って、手を前に滑らせてきた。
焦らすように何度も手の平で撫でられると体がゾクゾクして溜め息が漏れる。

後ろから抱きしめられると尻にテンゾウのものが当たった。
俺の体に触れているだけなのに、こんなにも硬くなってるのかと思ったら体の奥が痺れるように熱くなった。
一方的に攻められている気がして、ゆっくり後ろを振り返り背中に腕を回した。
俺だってテンゾウを抱きしめたいしキスがしたかったから。

「先輩・・・」

テンゾウの熱っぽい黒目がちな目を見ると胸が甘く疼いた。
吸い込まれるように顔を寄せて唇を軽く何度も合わせる。
その度に愛おしい気持ちが募り、どうしようもなくなってしまう。

「・・・好き」

思わず言葉が零れてしまって、ハッと気付く。
後でちゃんと言おうと思っていたのに。
テンゾウの顔がゆっくり離れて俺の顔を見つめる。

「やっぱり先輩には敵わないです」

そう言って嬉しそうに笑う。
俺だって、わざと言ったんじゃないんだけどね・・・。
妙に照れくさくなって視線を逸らすと、そっと唇を押し当てられた。

「僕も好きです」

その言葉に小さく頷くと、また唇が重ねられた。
そろりと唇を舐められて体が震えてしまい、溜め息が漏れた。