in the flight





くまさんのきもち 6








 先日と同じように長い間飲みながら話をしていたのだけど、今日は眠くならないのか楽しそうにニコニコとしっぱなし。特に何を話すという訳でもないけれど、俺もテンゾウといるのはやっぱり好きだと思った。こんなにリラックスして話が出来る人なんてアスマやガイ位しか居ない。だけど、あいつらとはまた少し違う感じっていうか・・・・・・。
 だから気付けばもう明け方になろうとしている時間で、さすがにそろそろ寝た方が良いかもしれないとテンゾウに告げる。
「昼間ずっと寝て過ごす訳にもいかないしね、せっかくの休みなのに。そういえば風呂は?」
「昨日、仕事終わってすぐに入りました。カカシさんは?」
「さっとシャワーだけ浴びてこようかな。先に寝てていいよ、二階の部屋分かるよね」
「はい」
「朝は好きな時間に適当に起きてきて。俺、朝弱いしテンゾウの方が早いかもしれないけど」
「さすがに僕も今日は起きるの遅いと思いますよ。あまりにも遅かったら起こして下さいね」
 そしてテンゾウを階段の下で見送り、俺はそのままシャワーを浴びに行った。
 酒も飲んだし、もう明け方だし、すぐに出ようと思っていたんだけど頭からシャワーを浴びながらぼんやりしていると無意識に脳裏にテンゾウの事が浮かんでくる。初めて会った日にテンゾウの事を良いなと思ったのは確かだけど、素直で優しくて、純粋に俺の事を慕ってくれているテンゾウをそういう目で見たくなかったんだ。
 良いなっていう気持ちだけで済みそうにない。なんとなく好きっていう気持ちならいいけど、本気になってしまうのが恐い。今はそれだけなんだ。

 シャワーを浴びて服を着替え居間に戻ると、消した筈の灯りが付いていた。そしてもうとっくに二階で寝ていると思っていたテンゾウがソファでスヤスヤ眠っている。
 明日片付けようと思っていた洗い物は全部きれいに片付けてくれたようだ。だけど、どうしてこんな所で寝ているんだろう。ベッド、埃っぽかったのかな・・・・・・。でも掃除もしてるし、シーツだって新しく変えたばかり。
 どうしたものかと思ったけれど、せっかく寝る所があるのにソファで寝かせる訳にはいかない。寝たら起こすって言ってあるし、起きてちゃんとベッドで寝てもらおう。
「テンゾウ、起きて」
 何度か声をかけてみたけど返事はなく、ただ気持ちよさそうな寝息だけが聞こえてくる。肩を叩いても起きてくれないし、頬を軽く叩いて呼びかけてみてようやく目を覚ましてくれた。
「・・・・・・ん」
 うっすら開かれた目は真正面にいる俺と目が合うと驚いたように大きく開かれた。
「あれっ、僕いつの間に」
「一人で眠れなかった?」
 少しからかうように言うと、顔を赤くして必死に否定する。
「まさか、そんなんじゃ無いです」
「掃除はしてたつもりだったんだけど埃っぽかったかな。あんまり使ってないから」
 言いながら立ってるついでに冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取って、一つをテンゾウに渡した。
「いえ、そうじゃなくて。僕、友達が本当に居ないんで友達の家に泊まった事が無いんです。だから一緒に並んで寝ながら話とかしてみたいなって思って・・・・・・」
「一緒のベッドで?」
 驚いて思わずそう聞き返してしまったけれど、普通に考えたらそうじゃないだろうと気付いて恥ずかしくなる。
「僕がベッドの下で寝かせてもらって。さすがに僕と一緒じゃ狭いですもんね」
 テンゾウはそう言って笑うけど、狭いとかそういう問題じゃないよね。
「でも布団を干してないからなぁ。床に寝かせる訳にいかないし」
「二階のベッドなら一緒に寝ても余裕ありそうでしたよ」
「だから・・・・・・なんで男同士で一緒のベッドで寝なきゃいけないのよ」
 するとテンゾウは成る程と、ようやく気付いたような表情をする。
「カカシさんといると、つい忘れてしまうんですよね。そういう事」
「そこ忘れる所じゃないでしょ」
 一応突っ込んでおいたけれど、ドキリとさせるような事を言わないでほしい。けど天然だから無理だろうな。
「・・・・・・じゃあ仕方ないですね。今日は諦めて一人で寝ます」
 しゅんと落ち込んだ顔をしてペコリと頭を下げた。なんか悪い事してしまったような気分になりながら部屋を出ていくテンゾウを見送る。

 テンゾウ、わざわざ起きて片付けまでして待ってくれていたんだよなぁ。
 まだ濡れている髪をバスタオルで拭きながら、溜め息を吐く。テンゾウの言った通り二階のベッドは大きめだし、離れて眠れば意識する事もないだろう。大体そんな事を考えてるのは俺だけなんだし。
 居間の灯りを消し、大きく深呼吸をした。
 階段を上がりテンゾウがいる寝室の扉をノックすると、少し驚いたような声で返事があった。
「入るよ」
 中に入ってみると暗い部屋のベッドの上でテンゾウは起き上がり、俺の方をじっと見つめた。一度は断ってしまったものだから、なんて言ったらいいか分からないままベッドの前まで行く。
「カカシさん?」
「奥、詰めてくれる?」
 なんとなく照れくさいまま小さい声で言ったら嬉しそうに頷いて、ごろんとスペースを空けてくれた。
 ベッドに入るとテンゾウが横になっていた所があたたかい。
「髪の毛乾かさないんですか?」
「すぐ乾くし面倒でしょ」
 横からテンゾウの視線を感じてはいるんだけど、さすがに同じベッドの中で目を合わせながら話す事はできなくて上を向いたまま答えた。
「そういえばカカシさん、あれから体の調子はどうですか?」
「すごくいいよ。夜も前より眠れるようになったし」
「来週はどうしますか。もし良ければ時間作りますけど」
「いや、電話で予約するよ」
「来週はもう一杯なんです。なので都合良い時教えて貰えると・・・」
 一人で無理しないペースって言ってるけれど、本当は忙しいんじゃないのかな。
「無理してない?」
「無理してたら言いません」
「だったら俺こんな仕事だし、テンゾウが決めてくれた時に行くよ」
 それなら文句は無いだろう。
「分かりました。じゃあまた連絡しますね」
「うん。お願いする」

 しばらく緊張したまま天井を見つめていたのだけど、話している内に緊張も解けてきたからチラッとテンゾウを見てみると目が合ってしまった。
 慌てて目を逸らそうとしたのだけど、ふっとテンゾウの目が優しくなったから目が離せなくなる。
「ありがとうございます。付き合ってくれて」
「いや、最初断ってごめんね。でも案外平気みたい」
 緊張しない事はないけど、なんとなく心地良く感じる。
「ひとつ変な事聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「どうしてベッドが二つもあるんですか?」
 確かに自分でもそう思う。あきらかにどちらも客用って訳じゃないし、不思議に思って当然だろう。
「本当はこの部屋を寝室にしたかったの。でも一階で作業するから一階にもベッドが欲しくて。無かったら多分そのままソファとかで寝るだろうなって思ったから」
「そうでしたか・・・・・・。このベッド、一人で寝るには大きいので恋人が来た時の為のものなのかなって思って」
 テンゾウの言葉に思わず苦笑いをする。
「だからそんな人いないって」
「でもカカシさん素敵だからモテそうだし」
「何、俺が遊んでるって言いたい訳」
 昔の自分はそう思われてても仕方ないかもしれないけれど、今はそういう事はない。
「まさか。だけど、こっちでもすぐに恋人が出来そうですよね」
「多分できないよ。俺もう自分から好きになった人以外とは付き合わないって決めたの」
「僕はそういう経験が無いですからよく分からないですけど・・・・・・でもきっと、その方が幸せになれますよね」
「難しいけどね。俺、基本的に他人にあまり興味無いし」
 テンゾウは別だけどって、うっかり言ってしまいそうになって慌てて口をつぐむ。
「そんな感じはしませんけどね」
 そう言ったあと小さくあくびをしたから、寝てもいいよって言ったのに首を横に振った。
「もう一つ聞いてもいいですか」
「いいよ」
「カカシさんって男の人と付き合った事とかありますか」
 いきなり何を言うのかと思ったけれどテンゾウはいたって真剣に聞いてるみたいで、本当の事を言うべきかどうか悩んでしまう。
「そういう風に見える?」
「いえ。でもなんとなく、どっちにもモテそうだなって思ったので」
「聞いても引かない?」
「もちろんです」
 俺はテンゾウから視線を外して息を吐いた。
「あるといえばあるけど、付き合ってたかって言ったら違うな。まぁ・・・・・・昔の話だけどね」
「そうですか・・・・・・」
 引かないって言ったのにテンゾウはそう言ったきり黙り込んでしまった。テンゾウなら話しても大丈夫かなと思ったんだけど、言わなければ良かったかもしれない。
「心配しなくても襲ったりしないから」
 冗談半分でそう言って横目で見ると、大きな目を更に真ん丸にして固まった。
「僕なんか襲ったって何も楽しくなんてないです」
「そ?楽しいかもしれないよ?」
「そりゃ僕がカカシさんみたいなら楽しいかもしれませんが・・・・・・」
 テンゾウの言葉にドキッとしてしまった。自分で話を広げておきながら変な流れになってきてしまったと心配になってしまう。
 「お前ね・・・・・・眠くて何言ってるか解ってないでしょ。もう寝るよ・・・・・・」
「・・・・・・そうですね。おやすみなさい」
「ん、おやすみ」

 しばらくしてテンゾウの寝息が聞こえてきた。本当に眠かったんだろう、普段のテンゾウの生活ならこんな時間まで起きてる事なんてほとんど無いだろうし。
 酒も結構飲んでるし明日になったら今の話は忘れてくれていると良いんだけどな。小さく溜め息を吐いて、俺も眠りについた。







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