in the flight





あめ玉 29








夕方、夕飯の買い物をしてから家に帰ることにした。
テンゾウの熱は朝にはもう治まっていたけれど、あっさりしたものが良いだろうな。
すぐに作れるうどんに、ネギと卵を入れて煮込んだものにしよう。
もしかしたら今日も泊まっていくかもしれないから、朝食の干物も二枚買って。
あきらかに二人分の食材を買うのは照れくさかった。
テンゾウが大人しく待ってくれてたらいいけど、じっとはしていないだろうな。
早く帰ってやろうと、急いで家に向かった。

「ただいま」
家の扉を開けてそう言えば、何やら美味そうな匂いがしてきた。
あれだけ寝て待っておくように言ったのに。
「おかえりなさい」
奥の台所からテンゾウが顔を出したかと思えば俺の所までやってきて、
ぎゅうっと俺を抱きしめる。俺はびっくりして思わず引き離しかけたのだけど
そんな事をしたらまたテンゾウを悲しませてしまう。
だからそのままテンゾウの頭に顔を寄せた。

「寝ておくように言ったのに」
「もうすっかり良くなったんで、夕食作りました」

テンゾウは俺の首もとに顔を埋めて、多分嬉しそうな顔をしている。
布越しに伝わってくるあたたかい体温を感じているうちに、くすぐったいような気持ちになった。

「せっかく俺が作ってやろうと思ったのに。明日は帰ってくるの早いの?」
「はい。先輩は?」
「明日も今日と同じくらいかな・・・」

俺がそう言えば体を起こして顔を覗き込んでくる。
その顔が、いつになく真剣だったから思わず、何?と聞いたらテンゾウは困ったように笑った。

「いえ・・・明日も会えるのかなって思って」

テンゾウの言っている意味がよく分からないでいると、目の下に唇を押し当てられた。
そういえば家を出る時も同じ場所にキスされたっけと気付いたら、一気に顔が熱くなった。

「ご飯食べましょうか」

にっこり笑ってそう言って食材が詰まった袋を俺の手から取り、台所に行ってしまった。
明日も会えるのかって、俺はそのつもりでいたけれどテンゾウはそう思っていなかったのか。
確かに今まで俺の態度は酷かったし、テンゾウがそう思うのも仕方がないかもしれない。
自分から距離を取っておいてなんだけど、テンゾウに対して素直になれない。
そのせいで、余計な心配もさせてしまっているのは分かったけど・・・。

「良かったら先に風呂に入ってきて下さい。用意しておきますから」

ぼんやり立ったままの俺に、テンゾウが台所から顔を覗かせて言った。

「いや、俺も手伝うよ」

そう言って台所に行ったけれど、もうほとんど片付けられていて手伝う事も無さそうだった。
鍋からは煮魚の匂いがしている。テンゾウの料理なんて、いつ振りなのか全然思い出せない。
それだけ会ってなかったって事なんだ。

「皿に盛るだけですから、いいですよ」

言いながら俺が買ってきた食材を片付けているテンゾウを見ていたら、胸が痛くなった。
「あのさ。昨日も言ったけど俺はお前に会いたくないなんて思った事、一回もない」
面と向かって言えないから、そっぽ向いたままそう言うとテンゾウの動きが止まった。
「本当は前みたいに、毎日会えたらいいなとか・・・思ってるんだけど」

話してる途中でテンゾウに見られている事に気付いて照れくさくなり、頭を掻いて台所から出ようとしたら
後ろから引き止めるように抱きしめられた。

「先輩、ずるいです」
「ずるいってどういう・・・」
「かわいい」

俺のどこを見てそんな事を思うのか未だによく分からないけれど、
そんな事を言われたら恥ずかしくて何も言えなくなってしまう。
そのまま振り向かされて口布を取られ、すぐに唇を塞がれた。
強引に割り込んできた舌に口内を掻き回されると、すぐに頭が甘く蕩ける。

「・・・っ」

唇を開いて舌を絡ませ擦り合うと、水音が響く。
朝抱き合ったばかりなのに体はどんどん熱くなってしまう。
何度も唇を重ねるごとに、会えなかった寂しさがこみ上げてきて
息苦しくなってきたけれど離したくはなかった。
貪り合うように、長い時間キスをした。
やっぱり俺は、テンゾウにいつも一緒にいてほしい。

どちらからともなく、唇を離して見つめあう。
でも頭がぼんやりして何も考えられないから、テンゾウの背中に腕を回したら優しく抱きしめてくれた。
腰にお互いの硬くなったものが当たっている。

「先輩。夕食は後でいいですか」
「・・・うん」

俺が頷いたら、そのままベッドに連れていかれて押し倒される。
テンゾウの顔を見上げたら余裕のない表情で俺を見つめていて、心臓が跳ね上がった。








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