in the flight





あめ玉 31








「先輩、そろそろ起きませんか?」

近くで心地のいいテンゾウの声が聞こえて目を覚ます。
でもほかほかと暖かい布団とテンゾウの声が気持ち良くて、まだ起きたくないって思ってしまう。

「んー・・・もうちょっと、寝かせて」
「もうちょっとって先輩、さっきから何回言ってるか分かってますか」

と、呆れたようなような声で言って溜め息を吐いた。
というより、何回も言ったの?俺。全然覚えていないって事は、寝ぼけてたって事なのか。
どうせまだ時間はあるんだよ。ギリギリだったら、テンゾウも慌てている筈だしね。

「先輩〜・・・いつになったら起きてくれるんですか。全く・・・仕方ないですね」

子供に言うみたいにテンゾウは言ったかと思ったらふわりとテンゾウの匂いがして。
深く唇を重ねられたから思わず目を見開いてしまう。
少し開いていた唇の合間から舌が入り込んできたものだから、そりゃ目も一気に覚める。
おはようのキスにしては刺激が強すぎて心臓に悪いと思ったけれど、気持ち良くて俺も拙いながら目を閉じて舌を絡ませる。

「・・・っ・・・ん」

すっかりテンゾウとのキスに浸っていたら、チュッと音を立てて唇が離れていく。
名残惜しくてゆっくりと目を開くとテンゾウがニッコリ笑っていた。

「おはようございます、先輩。やっと起きてくれた。そんな物足りないって顔しないで下さいよ」
「物足りないって、俺はそんな・・・」
「僕ももっとしていたいですけど、ね。支度しないと」

一体どんな顔してたんだろう、俺は。赤くなった顔を両手で擦り、渋々起き上がると
チュッと音を立てて唇にキスをされた。
朝からこんなにキスばかりされてしまったら、任務に行きたくなくなってしまう。
今日の夜も家に来るって言っていたから明日もきっと、こんな感じなのかと思ったら恥ずかしくて堪らなくなる。
だけどテンゾウは毎日、俺の所に来るつもりでいるのかな。
暗部の任務は今の俺の任務内容とは比べものにならない位きつい筈。
俺がテンゾウの家に行ってやったほうが良いと思うし、それよりも、やっぱりテンゾウの負担になってしまうんじゃないかと思ってしまう。

「朝ご飯出来ていますよ。昨日食べてないからお腹空いてるでしょう。用意するので、顔洗ってきてください」
「ありがとう」

だけど、そんな事テンゾウに言ったって言いくるめられてしまいそうな気がする。
悶々としながらベッドから出て顔を洗いに行った。
冷たい水で顔を洗い終えて鏡を見上げたら、首に赤い痕がいくつも付いていた。
いつ付けられたのか全く覚えいない・・・。
みるみる内に顔が赤くなって、もう一度顔をバシャバシャと洗い直して部屋に戻った。

いくら隠れるからといったって、こんな所に付けるなんてと文句でも言おうかと思ったけれど。
机の上にズラリと並んだ朝食を見て、言うのを躊躇ってしまった。

「こんなに作ってくれなくても良かったのに」
「早く目が覚めてしまって。一人だと作る気しないのに先輩がいるとあれもこれもって、つい」
「嬉しいけど、あんまり無理しないでちょうだい。お前の方が任務きついんだし、ゆっくり寝てたらいい」

それなら俺がテンゾウよりも早く起きれば良いのだろうけど。
情けない事に昨日散々抱き合ったせいで、今日の朝は体が重くてなかなか起きられなかった。

「僕なら全然平気です。さ、食べましょう」
「うん。いただきます」
「いただきます」

テンゾウだって疲れているのに、早く起きて用意をしてくれた事に感謝しながら両手を合わせる。
こうやってテンゾウと一緒に食べるご飯は、とても美味しくて。
当たり前のように目の前にテンゾウがいる事が、何よりも嬉しい。

「明日の朝は俺が作るから、テンゾウはゆっくり寝てていいからね」
「本当ですか?」
「でも毎日、俺の所に来てて大丈夫なの。用意とかもあるだろうし、俺に会いたいって言ってくれるのは嬉しいけど。
今の所は俺の方が時間に余裕があるから、俺が行くようにする」
「・・・一緒に暮らせたら一番良いんですけどね。分かりました。じゃあお願いします」

そう言ってテンゾウは本当に嬉しそうに微笑んだ。

「でも今日はここに帰ってきますね。急いで帰ってくるので昨日食べれなかった夕飯、一緒に食べましょう」
「ん・・・でも、無理しないように。暗部の任務はいつ何が起こるか分からないんだし、気を抜かないようにしてちょうだいよ」








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