in the flight

あめ玉 33












木ノ葉病院の一番奥に暗部用の受付がある。
暗部を抜けた俺が連れて行くべきでは無いけれど
昔はしょっちゅう世話になっていただけあって顔見知りの医療忍ばかりだから何とかなるだろう。
受付ですぐにテンゾウの処置をしてもらうように頼み、処置室の前まで一緒に行く。
結局傷の具合は詳しく分からなかったけれど、血の滲み具合からして相当深い傷なのは確か。
テンゾウがここまでの深手を負うのは珍しい。

任務帰りのテンゾウが俺と一緒に病院に来た事は、やっぱり不自然だった。
どうしてすぐ病院に来なかったのかとテンゾウが怒られる。
俺もその通りだと思ったけれど、帰りを待っている俺に心配をかけたくなかったとか、理由はそんな所だろう。
理由は言わずに謝って頭を下げた頭を軽く叩く。

「しばらく入院でもして体を休めたほうがいい。・・・また明日」
「はい。ありがとうございました」

俺もいい加減少し頭を冷やそう。
こんな関係はお互いの為にならない事ぐらい分かっているのに。

病院を後にして家に着いた時にはすっかり日付が変わっていた。
明日こそテンゾウとゆっくり話ができたら良いのだけど、
今のテンゾウは俺の言う事なんか聞いてくれそうにない。
今日だってあんな怪我して帰ってきたのに、病院に行かずに俺に会いに来たりなんかして。
早く会いたいなんて思ってしまう俺も俺だけど。

     *

次の日。任務の帰りにそのまま病院に寄った。
怪我の具合も気になってはいたけれど、早く話がしたかった。
テンゾウの事が大切だからこそ、ちゃんと伝えないといけない。

病室の近くまで行くと、聞き慣れた話し声が聞こえてきた。
楽しそうに笑うテンゾウの声。
誰が来ているんだろう。テンゾウがこんなに気を許して話す相手はそんなに居ないはず。
ふと足を止めて部屋の中に入るのを躊躇ってしまった。
せっかく誰かが見舞いに来ているのなら邪魔はしたくない。
手ぶらで来てしまったし花でも買いに行こうかと思い引き返そうとすると、病室の扉が開いた。
「入らないのですか?」
そう言って出て来たのは兎面の男だった。
テンゾウの部屋で会った時以来だけど、今でもテンゾウと仲がいいのは知らなかった。

「また後で来る。ちょっと用事を思い出したから」
「僕の事ならお構いなく。今日はもう帰りますので」

丁寧な言葉遣いではあるけれど、その言葉の端々に何か引っかかるものがあった。
俺が何も言わないでいると軽く会釈だけして帰っていってしまった。
テンゾウは、あいつは俺の事が好きだったと言っていたけれど本当にそうなのかって思う。
今の態度もそうだけど、本当はテンゾウの事が好きなんじゃないのかって。

引き返そうかと思ったけれど部屋の扉は開いたままだし気を遣わなくてよくなったから病室に入ると、
ベッドに横たわったままのテンゾウが俺を見て微笑んだ。

「ハクトに会いませんでした?」
「誰?」
「あぁ、名前知らないですよね。今出ていった兎面の」
「・・・邪魔したみたいで、悪かったな」

思わず本音を零してしまうとテンゾウはキョトンとした顔をする。
「いや、帰ろうとしていた所だったんですよ。邪魔だなんてそんな」
テンゾウは自分の事に関しては鈍感すぎる。
せっかく見舞いに来たのに、いきなり他の男の名前を嬉しそうに言われたら気分はあまり良くない。

「・・・それより怪我の具合はどうなの」
「思ったより酷くて、しばらく安静ですね」

そう言って溜め息を吐いた。テンゾウは早く任務に出たいんだろう。

「そっか。早く退院できるといいな」
「はい。そしたら先輩と一緒にいられる」
「その事なんだけどさ・・・」
「・・・え?」

やっぱり少し距離を置いたほうが良いと思う。
そう言おうと思っていたのに、目の前のテンゾウを見ていたら言えなくなってしまった。
不思議そうな顔で見つめられて思わず目を逸らした。

「いや、また今度にする」
「・・・はい」

あまり納得していなさそうな声色で返事をしたテンゾウの頭をくしゃっと掻き回す。
今日はもう帰ろう。
言いたい事も言えそうになくて、何を話したらいいのか分からなくなってしまった。

「また明日来るから」
「もう帰るんですか?」
「ん・・・ちょっと用事があってね。なるべく早く来るようにする」
「分かりました。待ってます」

そう言ったテンゾウの唇に軽く自分の唇を重ねると、
予想していなかったのかテンゾウの顔がみるみる内に赤くなる。
それがかわいくてもう一度唇を重ねたら後頭部を抱え込まれ、唇を熱い舌で舐められて体が震えた。
こんなキスをしたら帰りたくなくなってしまう。

「退院したら続きしましょうね」

甘い声で囁かれ、俺の方が顔が真っ赤になってしまって。
悔しいけれど素直に頷いて、病院を後にした。









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