in the flight





あめ玉 34








次の日。
昨日は手ぶらで行ってしまったから病院に行く途中できれいな花を買った。
見舞いに花なんてらしくなかったかなと思いながらも、たまにはいいかと思い直して木ノ葉病院の門をくぐった。

今日もあの男がいる気がするから本当は来たくなかったけれど、
テンゾウと約束したし、そもそも俺があいつに気を遣う理由なんてどこにも無いはずだ。
病室の前。思っていた通り今日もハクトの気配がするけれど、構い無くドアを開けたら
目の前に信じられない光景が広がっていた。

「あ、先輩・・・」

そう言ったテンゾウは上半身裸で、ハクトに体を拭いてもらっている所だった。
あんまりな光景に唖然として立ち尽くしてしまう。俺もなんて言ったらいいか分からない。
どうしようかと思っていると、ハクトが口を開いた。

「すみません。少し後にしてもらっていいですか?」
「いや、先輩は構わないよ」

ハクトの言葉にテンゾウは困った顔をしてそう言ったけれど、それ以上何も言わなかった。
いくら仲の良い後輩だからって普通そんな事やらせるか?
テンゾウと話をしようと思って来たけれど、今日もそんな気分になれなかった。
ここで帰ったら、あいつの思うツボなんだろうけど我慢出来なかった。

「今日は帰るね。時間かかりそうだし」
「え?先輩、待って下さい・・・!」

少し慌てた様子でテンゾウは言ったけれど、そのまま返事はせずに病室をすぐに出た。
帰って溜まりに溜まった仕事を片付けよう。
テンゾウの事ばかり考えていたら何も出来なくなるのは、テンゾウのせいでは無く自分の問題だ。
俺がちゃんとしていたら距離なんか取らなくても上手くやって行けるのだろうけど・・・。

帰宅して結局渡せなかった花束をテーブルに置いて、そのまますぐ机に向かった。
目の前の書類の山から提出期限の近いものから片付けていく。
最初のうちは没頭して筆を走らせていたけれど、一度テンゾウの事を思いだしてしまったら手が止まってしまう。

・・・あんな帰り方しちゃったから、テンゾウの奴また怒ってなきゃいいけど。
いや、悪いと思ってるかもしれない。
だけどあの状況で、さすがの俺も冷静では居られなかった。
思いだしたらまたムカムカしてしまい、溜め息を吐いた。



書類は、ある程度片付いたからもう良いだろうと、台所から酒を持ってきて一人で飲む事にした。
テンゾウに話しをしようとずっと思っていたけれど、言っても分かってくれないだろうな。
暗部を抜けてからほとんど会えなかったのが、やっと前みたいに戻れるかもしれない。
そんな時に、距離を置きたいなんて言っても納得する筈がない。
俺だってそんなの一方的に言われたら理解できないって言うと思う。
だけどやっぱり俺もテンゾウも、忍として今は大事な時期なんだと思うから。
どうしたら良いのか分からないけれど、今の俺には距離を置くという事しか考えつかない。



いつの間にかウトウトと眠ってしまっていたらしい。
ふと人の気配を感じ飛び起きるとテンゾウの顔が目の前にあったから、更にまた驚いた。

「・・・テンゾウ?」

どうしてここに、と続けると罰が悪そうな顔をする。

「先輩に謝りたくて・・・今日はせっかく来て下さったのに、あんな所を見せてしまって。・・・ごめんなさい」
「・・・ホント。ありえない」

半分冗談だけど怒ってるのは本当だからそう言って睨むと、テンゾウは俯いたまま何も言わなくなった。

「俺があんな事されてたらお前だって怒るだろ。大体お前は自分の事になると鈍すぎるの。あいつが好きなのってお前でしょ」
「いつから気付いてたんです?」
「最初からおかしいと思ってたよ、俺は」

俺がそう答えると、驚いた顔をしてから苦笑いをした。

「僕は全然気付きませんでした。今日先輩が帰った後に言われて・・・もちろん断りましたよ。でもすぐに先輩に嫌な思いさせてたって分かったら、いても立っても居られなくなって抜け出してきました」
「・・・分かってるんなら、もういいよ。その事は」

テンゾウがあいつの本心を知ったのなら、もう妬いたりする事は無いだろう。
それよりも、テンゾウに話さないと。今なら言えると口を開きかけた時、突然視界が真っ暗になった。
あたたかい体温とテンゾウの匂いに包みこまれていた。

「・・・よかった。もう会ってくれないかも知れないって思ったから」

ぎゅうと抱きしめられ、熱い声でそんな事を言われると胸が痛くなる。
今から俺はテンゾウを傷付けるような事を言おうとしているのに、決意が揺らいでしまう。

「その事なんだけど、ね。やっぱり距離を置きたい」
「どうして?!まだ怒ってるんですか?すぐに許して貰えるとは思ってませんけど、いくらなんでも・・・」








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