in the flight





あめ玉 35








テンゾウは体を引き離して俺の顔を真っ直ぐに見つめる。
その強い眼差しに引き込まれそうになって視線を逸らした。

「それって、別れたいって事ですか」
「・・・お前がそう思うなら」
「そんな事いきなり言われて、はいそうですかって言える訳ないじゃないですか。・・・いきなりどうしたんです、先輩」
「別れたい訳じゃない。でも、どうしたら良いか分からないんだ。・・・七班のあいつらの事を、もっと見てやらないといけないのに
 気付いたらお前の事ばかり考えてしまう。俺が何言っても任務で無理したりするし・・・心配なんだよ」

情けないけど、でもだからこそハッキリさせておかないと。
別れたい訳じゃないし、嫌いになった訳でもない。寧ろその逆だ。

「先輩・・・」
「お前の事になると・・・どうしても、ね」

冷静でいられなくなってしまう。
テンゾウの手が俺の頬に触れ、撫で下ろされる。
ふと視線を上げると、さっきと変わらずに真剣な目で俺を見つめていた。

「・・・ここで暮らしても良いですか?」
「・・・ん?」

いきなりどうしてそんな事を言ってるのか分からなくて首を傾げる。

「もう任務を増やしたり、無茶したりしません。先輩を傷付けるような事もしないって約束します。だから・・・」
「ダメだ。・・・前にも言ったけど、あいつらが突然訪ねてくる事もあるから、一緒に暮らす事はできない」

一緒に暮らせれば良いって俺だって何度も考えたんだ。
いつ帰ってくるか分からない暗部のテンゾウを待つのは辛いけれど、
それでも一緒に暮らしたら会える時間はずっと増える訳で。

そうですよね、と溜め息を吐いたテンゾウが俺をもう一度抱きしめた。
やっぱりこうやって会って話していると、あれだけ固めていた決意がぐらぐらと揺らぐ。
一緒に暮らすのが無理なら、せめて近くに越して来てくれたら良いのだけど。と思って、あっと気付いた。

「・・・隣の部屋、空いてるかも。そういえば」
「隣って、ここの隣?」
「うん、今は誰も住んでない。隣なら問題ないと思うんだけど・・・それじゃあダメ?」

俺がそう言えば、ぎゅっと俺を強く抱きしめている腕に力を込める。苦しい。

「明日すぐに手続きします!」
「明日って・・・お前入院中でしょ。本当に越してくる?」
「はい。隣だったら、一緒に住むのと変わりないですし」

テンゾウの事だから物騒な入り方してきそうだ。
この建物って木造だから、きっと壁は木遁術ですり抜けられるだろうし。

「・・・分かった。明日、俺が話しておくよ」
「お願いします。・・・良かった、本当に。フラれたと思いました」
「フラれても仕方無いと思うよ」

冗談半分で言えば、がっくりと肩を落とした。
でも、無理しないって約束が出来たから、少しは俺も心配の種が減って安心できそうだ。

「分かったら、そろそろ病院に戻れ」
「・・・えっ」

いくらなんでも暗部専用の病室から抜け出すのは関心できない。
気付かれたら大目玉だろう。

「さっき無理しないって言ったばっかでしょ。あ、無理なんかしてないって言うのはナシね」
「・・・もう少しだけダメですか?先輩と一緒に居たいんです」

耳元に甘い声で囁かれると背筋がぞくりとして、うっかり頷いてしまいそうになる。

「・・・別の男に拭いてもらった体で抱きしめられながら言われても、ねえ」

すると慌てた様子で謝って、ぱっと俺からすぐに離れた。

「あいつベタベタ触ってたよね。拭いてもらったのって上だけ?下も拭いてもらったりしてない?」
「そ、そんな事させる訳ないじゃないですか・・・っ」

真っ赤な顔を横にブンブン振って否定するけど、ちょっと反応しすぎじゃないの。

「本当に?」
「本当です・・・!先輩が帰ってすぐに止めてもらいましたから。それより先輩、シャワー借ります」

突然少しムキになったような顔をして立ち上がる。
でもシャワーなんて、まだ無理でしょ。

「は?お前ケガして・・・」
「大丈夫です。医療忍術で傷口は塞がってるので、シャワー位なら」

そう言って得意気にアンダーを捲り、傷口を俺に見せた。
確かに傷口は塞がってはいるけれど、あれだけザックリ切れてたんだから中は完治していないはずだ。
あまり動かさないほうが良いに決まってる。じゃなきゃ入院なんてする必要が無い訳で。

「・・・じゃあ手伝ってやる」
「先輩にそんな事」
「まだそんな事言ってんの?付き合ってんでしょ、俺と。それともアイツなら良い訳?」

相変わらず理解出来ない事を言うテンゾウにイラッとして睨んだら、しゅんと大人しくなった。

「お願いします・・・」







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