in the flight




あめ玉 36






テンゾウの服を脱がすのを手伝い、俺は自分の服が濡れないように袖とズボンの裾を捲る。

「先輩は入らないんですか?」
「俺は後でゆっくり入るよ。お前は、さっと洗うだけね」
「そうですか・・・。先輩と一緒にお風呂なんて久しぶりだから期待してたのですが」

そう言って気落ちしたような顔をするテンゾウの腕を引っ張って浴室の中に連れ込んだのだけど、
引っ張った拍子に傷口に響いたらしく思い切り顔を顰めた。

「っ、・・・先輩、もうちょっと優しく・・・」
「煩いね。文句があるなら帰ったらいいでしょ。・・・風呂なら退院してから、いつでも入ればいい」

減るもんじゃあるまいし、と言えばパッと表情を輝かせた。

「ハイ!すぐに退院しますから待ってて下さいね」

退院できるかどうかなんてお前が決める事じゃないし。
・・・なんて、シャワーの湯加減を調整しながら思った。

「痛くなったらすぐに言う事」
「わかりました。お願いします」

とは言ったものの、テンゾウが痛いなんて言う筈もなく。
頭と体を洗い終えてバスタオルで体を拭いてやった。
テンゾウと付き合って何年も経つのに、こんな風にマジマジと体を見たのは初めてで。
拭いている途中からドキドキしてしまって、顔が熱い。

「着替え取ってくる・・・」

顔を見られたくなくて俯いたままテンゾウに告げ、背を向けた瞬間。
後ろから腕が伸びてきてぎゅっと抱きしめられてしまった。
シャワーを浴びたばかりのテンゾウの体はいつも以上に熱く、良い匂いがする。
いつも通りなら俺も抱きしめたい所だけど、今はそういう気分に流されたらダメだ。

「な、何。・・・早く服着ないと風邪引く」
「これ位で風邪なんか引きません。・・・ずっと我慢してたんです、でも僕もう」
「駄目だって言ってるでしょ、絶対に傷口開く。だからしないって何度も・・・」

するとテンゾウは俺の体をぐいっと振り返らせ、唇を塞いだ。
驚いて開いた口にテンゾウの舌が強引に押し込まれ、俺の舌を絡め取る。
慌てて引き離そうとしても離れようとしないから、悪いとは思ったけど傷口を殴る。

「・・・っう」

激痛に腹を抱え込んだテンゾウを見て、ちょっとやり過ぎたかなと思ったけど、
こうでもしないと言う事を聞かないと思ったから。

「俺だって我慢してんの。・・・でもお前に早く退院して欲しいから」

テンゾウに乱されてしまった息を整えながらそう言うと何か言いたげな顔をしたけれど、
それから諦めたように小さく溜め息を吐いて、しょんぼり頭を下げた。

「服、着せてやるから」
「ありがとうございます」

そう答えたテンゾウが両手を上げて着せてもらうのを待っているのだけど、
いくら体を洗ったとはいえあいつがテンゾウの体に触れた事を思い出すと、またムカムカしてしまう。
手に持っていたアンダーをテンゾウの頭にすっぽり被せ、胸元に唇を押し当てた。

「先輩?」
「手はそのままね」

そう言ってから、押し当てたままの唇でテンゾウの胸に痕を付けていく。
こんな事するなんて自分でも信じられないけど、何かしないと気が済まなかった。
好きだから俺だって心配したりするって事を、口で言った所で信じてないだろうし。

「ちょ、先輩・・・!それは不味いですって」
「お前は黙ってて。手は上げたままって言ってるでしょ」
「だって、診察の時に見られたらどうするんですか」
「別に付けたのが俺だってバレなきゃ良いよ」

最後は首筋にも残し、アンダーを降ろしてやると不服そうな顔をしていた。

「これでチャラにしてあげるから、ま。機嫌直してよ」
「そうじゃなくて」
「?」

テンゾウはムスっとした顔のまま、もう一度俺を抱きしめて大きく溜め息を吐いた。
そうじゃないって何なの?

「先輩にこんな事されたら、また・・・」

テンゾウはそう言ってから、もう一度大きく溜め息を吐く。
俺が拒む事を分かっているからなんだろう。そんなテンゾウを少し不憫に思いつつも、可愛く思えてしまって。
耳元で小さく囁く。

「退院したら好きにしていーよ。隣に住むんだし・・・いつでも会える。でしょ?」
「・・・はい!」

苦しい位に強く抱きしめられたと思ったら、すぐにテンゾウは瞬身の術で消えてしまった。
我慢の限界ってやつかと思い可笑しくて少し笑ったけれど、俺も今日はなかなか寝付けそうにないなと溜め息を吐いた。






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