in the flight

in the flight



 家に帰り真っ先にクーラーを付けて、暑苦しかったネクタイをシュッとほどき、先輩がスーツの下にまでアンダー着込んでた事を思い出す。
 あのネクタイをほどき、シャツのボタンをひとつづつ外し・・・いや、乱暴に一気にボタンを引きちぎるのもいい。そしてアンダーをめくり上げて、きっと程よく筋肉のついた肌に口付けたい。
 そんな、叶いそうにもないような事を頭の中で一通り巡らせた後、そんな自分がどこまでも馬鹿で情けない男だと一人笑った。
 もうあんな風に、先輩に誘ってもらえる事なんて無いんだろうな・・・。


 その夜。眠れずにベッドの上で横になっていると、静かに玄関の扉が開いた。咄嗟に意識を集中させると、それは僕はよく知っている気配だった。
 でもどうしてここに。そんな事を思いながら僕は動けずにベッドの上で横になったまま、その気配に意識を集中させた。

 その気配は、僕のベッドの傍まで来て立ち止まり、そしてベッドの中に入り込んできた。
 心臓が止まる思いがした。一体何のつもりなのか理解できずに息を呑む。
 しばらくしてその人の手が僕の頬に添えられる。冷たく、繊細そうな指先だ。その指先に力が入り、その人の方に顔を傾けられる。
 この人が誰なのかは気付いていたけれど、どうしてこんな事を。酔っているのかと思ったが、酒の匂いは全くしない。
 ゆっくりと視線を合わせると、その人は泣きそうな顔をして笑った・・・ような気がした。

「カカシせ・・・」  僕が名前を口に出そうとすると、唇を重ねられて言葉は遮られた。先輩の舌が遠慮なく僕の口内へと滑り込み、僕の舌に吸い付くように深く口付けられ、ようやく僕は先輩がここに来た理由を知った。

 それならばと僕は先輩を組み敷き、夢中でその口内を貪り続けながらアンダーの裾に手をかけ、ゆっくりとその冷たい肌を味わうように上へとずらした。
 手のひらで、驚くほど滑らかな先輩の肌を感じ取る。胸の頂に触れたら、熱い溜め息が塞いでいる唇から漏れた。
 その頂を指先で撫でながら唇を離し、アンダーをすっぽりと脱がした。暗い部屋のなかでも、その白い肌は目に焼き付いた。
 首筋に唇を落とし、舌を這わし、その肌に僕は夢中になった。先輩の指が僕の髪の中に潜り込み、ぎゅっと力がこもる。
 そして、もぞもぞと僕の下で先輩は腰をくねらせて、その膨らんだモノを僕の腰に擦り付けている。
 早く触れてほしいと言わんばかりの行動は無意識なのか、誘ってるのか。
 どちらにせよ僕に余裕を無くさせるのには充分だった。

 僕は先に自分の服を脱ぎ捨て、先輩のズボンを下着ごと一気に引き摺り降ろした。
 華奢な体の中心に、そそり立った肉棒が何とも卑猥で美しく、僕は思わず見とれてしまった。
 その後、いやらしく濡れた肉棒の先端に口付け、根元まで呑み込んだ。
「っ・・・あ・・・」
 それまでずっと声を出さなかった先輩が、小さく声を上げた。舌の先で先端をこねるように這わせながら、唾液をたっぷりと絡ませてから頭を上下に動かすと、ぐちゅりと卑猥な音が響く。
「あっ・・・ああっ」
 先輩を見ると僕の枕に片側の頬を埋め、ぎゅっとその枕の端を握りしめて声を上げていた。先輩の表情は長い前髪で隠れて見えなかった。
 僕の唾液と先輩の先走りが混じったものがシーツにシミを作る。僕の唇と先輩の肉棒から溢れ続けるその体液を指に絡ませて、後ろの穴へと這わせた。僕の濡れた指先が入り口に触れると、先輩の体が一瞬だけ緊張したかのように固まった。
「くっ・・・」
 指の腹を押し当て中に埋めると入口はきつく、指一本入るのかどうか疑うほどだった。まるで初めてのような・・・でも、まさかと思った。
 ゆっくり傷つけないように指を押し込んでみても、押し返されてしまいそうなほど締めつけられる。
 先輩は、痛みを逃がすように深く息を吐いている。我慢してまで、どうして?
 僕は続けていいのか戸惑ってしまった。でもきっと先輩は、それを望まないんだろう。

 僕は口に含んでいた先輩のモノを口から離し、ゆっくりと指を抜いた。
 相変わらず大きく息を吐いている先輩は、黙って僕を見上げた。その表情は少し苦しそうだった。
「先輩、力抜いて下さい。こんなこと、初めてじゃないんでしょう?」
「・・・」
 僕がそう言うと、先輩は僕から目を逸らす。
・・・どうして先輩は何も言わないんだ。
「・・・黙って抱いてろって言いたげですね」
 先輩の体を横に起こし、その両太腿の間に頭を入れた。
 首元にさっきまで僕の口に含まれていた濡れた肉棒が当たり、その硬さを感じて更に自分の腰に熱が集まる。目の前にある先輩の尻を割り開き、その中心部に唇を押し当てた。
「は、あぁ・・・」
 突然にこんな事になって、僕がいつまで平静を保っていられるか分からない。
唇を押し当てたまま、舌を中に潜りこませた。未だきつい入り口を、ゆっくりと押し開きながら押し込んでいく。
「・・・っ、ぁ・・・」
 次第に気持ちよくなってきたのか、消え入るような吐息まじりの声を上げはじめた。
 僕は自分の薬指を口に含み、たっぷり濡らしてからそっと差し込んでみた。さっきよりも容易に侵入する事ができた。舌を抜き取り、指をもう一本増やして、圧迫してくる熱い肉壁を丁寧に指の腹で押し広げた。

 指の出入りが容易に出来るようになった頃には、先輩の体の力はすっかり抜けて、僕の行為に時折声を上げ、先輩は僕にその体を委ねてくれているようだった。
 熱い溜め息と、先輩が枕を掴む時に出る布の音と、指を抜き差しする時に出る水音が更に自分自身を固くさせた。そして僕はただ、早く先輩の中に挿れたいとしか考えられなかった。

 差し込んだ指をぐっと折り曲げ、先輩が気持ちいい所を捜す。少し硬い部分を見つけ、その部分を指の腹でぐっと押すと先輩の体がびくりと反応した。何度もそこを刺激する度、先輩は体を捩らせて、次第に声が大きくなっていく。
「あっ・・・やっ、ああぁ・・・っ」
 先輩は悲鳴のような声を上げて達した。僕の鎖骨に密着していた肉棒から、熱い液体が広がった。僕はまだ痙攣している先輩の太腿から頭を抜き取り、胸に飛び散っている先輩の精液を手で拭い、自分自身に塗りたくった。
「ふっ・・・う・・・」
 先輩はまだ放心状態で、息も乱れている。普段の姿からは想像も付かない姿だ。
 だけど、直接触れているのに、目の前にいる人がとても遠くにいるような気がした。
 僕は先輩の体をうつ伏せにし、その上から体を重ね、一気に自分の肉棒を先輩の中に埋め込んだ。
「っ・・・!」
 先輩が小さく悲鳴を上げる。でも僕は、更に先輩の奥へと根元まで差し込み、腰を押し付けた。入り口はよく絞まっていて中は驚くほど熱く、僕は目眩がした。
 苦しそうな息を吐く先輩の腰を持ち上げて、更に奥へと突き進んだ。
「ぅっ・・・っ」
「痛いんですか?・・・まるで、初めてみたいですよ」
「う、る・・・さい・・・」
 ゆっくりと味わうように腰を動かす。きつく締めつける入り口の輪は、うっかりすると射精してしまいそうな位の気持ちの良さで、意識をそこから離す為に先輩を上から抱きしめて、さきほど達したばかりの肉棒に触れると、もうすでに硬く、反り返っていた。・・・厭らしい人だ。初めてみたいな反応を見せておいて、でもしっかり感じているんだから。
 僕は腰を揺さぶりながら、先輩のものを扱く。目の前で銀色の髪が揺れているのを、ただ無関心に眺めていた。
 こんな風に乱れた姿を、他の誰に見せているんだろうとか。好きでもない男の部屋に、勝手に上がり込んできて足を開くような、そんな人だとは思っていなかった。少なくとも僕は。
 噂はあったけど、そんな事は嘘だと。相手にしてもらえなかった奴らが、妬みで言い触らしたでっち上げの話だろうと、そう信じていたのに。だから目の前のこの人は本当にカカシ先輩なのかと、疑いたくなるけれど、僕はほんの一部分の、それも表面上の姿しか知らないという事に気付く。
 それでも僕は、そんな先輩を好きだと思えるのか・・・分からない。

 苦しげに吐かれていた息が熱っぽくなり、やがて艶のある切ない声が溢れるように漏れ出す。
 手は反り返った肉棒を扱いたままで体を起こし、夢中で腰を打ち付けた。
「あっあぁっ・・・んっ・・・、っ・・・」
「・・・っ」
 切なげな声を上げて達した先輩につられて、僕も射精した。中には出さなかった。勢い良く飛び出した僕の精液は先輩の尻を濡らし、どろりと太腿へ流れる。
 先輩ははぁはぁと肩で息をしながら、ベッドに突っ伏している。その背中は痛々しく、泣いているように見えた。
 二人分の精液にまみれた先輩の体を、脱ぎ捨ててあった自分の服で拭いてあげてから僕もその隣に体を沈め、先輩が顔を上げてくれるのを待っていた。
 それなのに先輩は一向に顔を上げず、そしてフラフラと起き上がってベッドの下に脱ぎ散らかしてあった衣類を拾い上げ、それを身につけて行く。

 それを僕はただ見届けるしかできなかった。
 先輩は僕と特別な関係になりたい訳じゃない。ただ体を満たしてくれる相手がいればよかっただけで、それが今日はたまたま僕だっただけなのだと、必死に自分に言い聞かせた。先輩が額当てまでを装着した後、僕は先輩に背を向けた。こんな泣きそうな顔を、見られたりしたくない。

 ふと先輩の指先が、僕の髪を撫でる。恐る恐るといった感じに、遠慮がちに触れるその手を、僕は振り払った。顔を見られるのが嫌だったし、何かを言われるのが怖かったのかもしれない。言葉を交わすのも嫌だと思った。

 先輩は何かを考えてる様子だったけど、しばらくして僕から離れ、何も言わずに部屋を出て行った。体中がずしりと重い。何も考えずに眠ってしまいたい。そう思いながら重たい瞼を閉じると、半分夢の中の出来事だったような気がして、いっそ、そうだったらどんなにいいかと思ったりしたけど、あらゆる所に先輩の匂いや感触が残って、現実なんだと知らされた。




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