in the flight

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 四

 どれくらい先輩の部屋の前で立っていたのかわからない。足音がして顔を上げると、そこに先輩が立っていた。驚いたように目を見開いて立ち尽くしている。こんな時間までどこに行っていたんだろう。
 僕にしたように僕の知らない誰かに抱かれて帰ってきた所なんだろうか。そう思うと腸が煮えくり返る思いがした。僕以外にあんな事をするなんて、僕は・・・我慢ができない。

 よろっともたれていた壁から背中を起き上がらせると、脳が揺れた。まだ酒が残っているらしく、視界もぶれている。もう僕は先輩に嫌われていい。先輩を抱きたい。今だけでいいから自分のものにしたい。目の前で立ち尽くしたままの先輩の手首を掴み、引き寄せて強く抱きしめた。
「・・・わっ」
「どこに行ってたんですか」
「どこって・・・どこでもいいでしょ」 
 答えてくれるとは思ってなかったけど、他人扱いするような先輩の物言いが癇に障った。僕の事なんてどうでもいいと思ってるんだ、この人は。どちらにせよ、正直に話してくれたとしても、それはそれできっと腹が立つのだけど。
「やっぱり言えませんか」
 僕はわざとらしく溜め息を吐いて抱きしめている手を先輩の喉元へ持って行き、ぐっと掴み上げた。ぐっと苦しそうな息を吐き僕を睨み上げる先輩に、無理矢理キスをした。抵抗しようと僕の腕にかけられた先輩の手の力は本気ではなく、深く舌を侵入させて絡ませると、みるみる体の力が抜けていく。
「はっ・・・ん・・・」
 唇から漏れ出す息は甘く、恋人でもない相手にこんな乱暴にされても感じるのかと思うと、僕は頭がおかしくなりそうだった。
 腰を引き寄せている手をズボンの中に潜り込ませ、腰から尻の中心部へと指を伸ばすと先輩は唇を引き離し、非難の目を僕に向けた。その目はさっきの艶色の欠片もなく、冷ややかなものだった。
「っ、やめろ・・・!こんな所で何考えてるんだよ」
「じゃあ、部屋に上げてもらえますか?」
 さあ、先輩は何て答える?
 紅潮した頬と熱っぽい目で僕を睨む先輩を見つめていると、ふと俯き小さく頷いた。
「・・・終わったら帰ってよ」
 そう言って先輩は玄関の扉を開いた。
 先輩に続いて後から部屋の中に入る。部屋は僕の部屋と大して変わらない広さで、ベッドと机と本棚がある程度。外よりもひんやりと感じた。
 先輩は灯りを付けようとスイッチに手を伸ばそうとしている。灯りなんていらない。先輩の顔を見たらきっと僕は、優しくしてしまうだろうから、その腕を掴み上げて強引に先輩を抱きしめた。先輩は抵抗もしない。
「抱いてもいいですか」
「今更聞くなよ。最初からそのつもりだったんでしょ。・・・俺の事、もう抱かないって言った癖に」
「気が変わりました」
 もうこれで本当の最後にしよう。無理矢理抱いてしまえば、きっと僕の事も嫌いになって、会いに来る事もなくなるだろう。
 先輩の服を全部取っ払う。何度見ても見とれてしまう体を、さっきまで誰かに見せていたのか。僕はツンと立っている桃色の乳首を捻り上げ、さっき触れようとして拒まれた後ろの入り口に無理矢理指を捩じ込ませた。
「いっ・・・!テ、ンゾウ・・・!やめ・・・」
「痛くなんかないでしょう。・・・さっきまで、誰かに可愛がっててもらってたんでしょう?」
「っ、・・・な、んの・・・こと・・・」
「先輩が一番、よく分かってるんじゃないんですか」
 思いのほか先輩は痛がっている。それが僕には、本当だとは思えなかった。今の僕は、誰かに優しく抱かれている先輩の事で頭がいっぱいだった。この感情を、嫉妬と呼ぶのだろうか。
 無理矢理に捩じ込んだ指が中に入っていかず、押し戻される。先輩が拒否してるからだろうか?さっきまで抱かれていたのであれば、指ぐらいは簡単に挿れられるはずなのに。
僕は指を抜き取り、先輩を僕の目の前に跪かせた。
「先輩。もう挿れてもいいですか」
「むっ・・・ムリ!」
 僕の言葉を聞いて唖然とした顔で固まり、慌てて首を横に振った。でも、本当に嫌なら逃げる事なんて簡単なはず。それなのに先輩は痛がりながらも、抵抗すらしない。僕は先輩を抱きたいという気持ちの反面、抵抗してほしかった。そして、嫌いだと言って欲しかった。そうしたら僕は、先輩を忘れられるかもしれないのに。
「その前に僕のを濡らしてもらいましょうか。その方が先輩もイイでしょう?」
「待っ・・・、ぐっ・・・」
 暗闇の中でも輝いて見える銀髪を掴み、その口の中に自分のモノを根元まで押し込んだ。先輩は目を見開いて僕を見、苦しそうに顔をしかめる。僕はその頭を掴んだまま、喉奥めがけて何度も腰を打ち付ける。先輩は苦しそうな声を上げて、見ると涙を流していた。僕のモノに歯が当たらないようにしている。自分は辛いくせに。嫌なら噛み切ればいいのに、どうしてこの人は・・・。
「うっ・・・、っ・・・」
 そんな先輩を見ていられず、先輩の口内から肉棒をずるりと引き抜いた。先輩はよろりと前に崩れ、喉を押さえて苦しそうに息を吐いている。
「うっ・・・はぁ・・・ぁ・・・」
「嫌なら逃げても構わないんですよ、先輩」

 僕は膝を床に付き、先輩を後ろに押し倒した。力なく倒れる先輩の目からは、まだ涙が溢れている。お願いだから抵抗して、先輩。そう願いながら、慣らしていない先輩の入り口に自分のモノを当てがい、一気に貫いた。
「・・・くっ」
「あ、あぁっ・・・っ」
 先輩は結合部分からの痛みに顔を歪め、その瞳からは更に涙が零れ落ちた。それほどに先輩の中はキツく、もしかして誰かに抱かれてきたというのは僕の勘違いなのではと思った。今まで何度か先輩を抱いたけれど、ここまでキツかった事は一度も無かった。
「先輩・・・そんなに、痛い?」
「・・・いいよ。好きに・・・していいから。早く終わらせてちょうだい・・・」
 好きにしていい?何故?
 深く息を吐いて痛みを堪えてる先輩の僕を見る目は切なげで、何かを言いたそうだった。僕は先輩の両手を握りしめて、体を重ねる。目を閉じた先輩の頬を伝う涙を唇で拭い、やっぱり全部、僕の勘違いだったと思った。見当違いの嫉妬心から先輩を傷つけた。
「もうこれで最後にしますから許して下さい。・・・でも、先輩が悪いんです」
「・・・っ・・・ぁ・・・」
「どうして僕を選んだんですか・・・先輩」
 先輩が僕の体を求めたからいけなかったんだ。僕だったら後腐れも無いと、思ったのかもしれない。でも僕はずっと、先輩が好きだったから。僕なんかを選んだ、先輩が悪いんだ。だけど、一番自分勝手なのは僕。自分の気持ちを伝える事もせず、こんな事しかできなかった僕は本当に最低だ。
 ゆっくりと腰を動かし始めると、先輩は辛そうに声を上げた。先輩のこんな辛そうな姿を、僕は見たかったんじゃないのに。
「うっ・・・ああ・・・」
「・・・先輩・・・カカシ先輩」
 苦しそうに喘ぐ唇に優しく唇を合わせる。何度も唇を合わせるうちに少し開いた唇に舌を潜り込ませると、大きく口を開いて僕の舌を受け入れる。角度を変えて、深く潜り込ませると、先輩の甘い舌が絡んでくる。握りしめた手に力を込めると、それに答えるように先輩の手が僕の手を握り返してくれた。何度も深く舌を絡ませて、夢中で貪るようにキスを繰り返しているうちに先輩の体の力が抜けていく。キスの合間から漏れ出す息は甘ったるく、熱い。
 繋いでいる手を外し、熱を持ち始めた先輩のモノを手で包み込むと、甘い声が溢れ出した。
「ふっ・・・は、んっ・・・」
 僕の手の中で膨れ上がったそれは、もうはち切れそうなほどで、傷つけないようにゆっくりと扱きながら腰を動かした。先輩の中はとても熱く、もう痛みも感じていないようだった。
 唇を離して先輩を見つめると、ぎゅっと目を瞑り、切なげな声を上げている。さっき放した手が下から伸びて来て、僕の頭を引き寄せる。先輩が何か僕に言いたそうだ。耳を先輩に傾ける。
「テンゾ・・・抱きしめて。も、イキそ・・・」
「・・・!」
 目の前が真っ白になった。
 僕は先輩を強く抱きしめて、何度も腰を打ち付ける。もう僕も限界だったのに、先輩にそんな事を言われたら理性なんて吹っ飛んでしまう。
「あぁ、あっ・・・出る・・・!」
「っ、僕も・・・」
 先輩が達した瞬間になんども締め付けられ、その刺激で僕も先輩の中に欲を吐き出した。出る瞬間外に出そうと思って腰を引こうとしたら、先輩に強く抱きしめられて中に出してしまった。

 ・・・頭がぐらぐらする。急に睡魔が襲ってきたようだ。僕の下で先輩も同じように荒い息を吐いている。先輩は僕に抱きついたままだった。まるで離れたくないと言ってるように。
 体を起こして先輩の顔を覗き込むと、潤んだ目が僕を見つめていた。それに吸い込まれるように僕は先輩にキスをして、もう一度きつく抱きしめた。
「テンゾウ。俺さぁ・・・お前に聞きたい事があるんだけど」
「・・・僕もです。・・・でも、ちょっともう限界・・・」
 そして僕は先輩を抱きしめたまま、重い瞼を閉じて意識を手放した。先輩が僕の頭を優しく撫でるのを感じながら。




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