in the flight





かけら








テンゾウ

 梅雨の前の、爽やかな風が吹き抜ける季節。
 暗部である僕とカカシ先輩は一ヶ月近くもの長期任務で里を離れていて、ようやく里に帰って報告を終えた所だった。
 僕はカカシ先輩に、恋をしていた。最初は憧れていただけだと思っていた。
 だけど、先輩と一緒に過ごしたり話をしたり、たまに体に触れる事があったりする度に胸の奥がズキズキと傷んだ。
 先輩が他の誰かと任務以外で親しくしていると、心配で、その相手に嫉妬したりしている自分に気が付いて、僕は先輩の事が好きなんだと最近ようやく気が付いたのだ。

 片想いをしている人とツーマンセルで一ヶ月も二人きりでいれる事は嬉しい事でもあるけれど、気付かれないようにしなくちゃいけないから色々と大変で、そういう意味でも僕にはクタクタの一ヶ月だった。
 好きだと言える訳がない。
 僕は男で、後輩で、今の関係が壊れる位ならずっとこのまま先輩の傍にいられたらいいと思っているのだから。
 とはいえ、カカシ先輩はしばらくすれば暗部から離れるだろう。先輩が四代目の子供の面倒を見る事は、もう決まっている事なのだから。

 そもそも僕がカカシ先輩とツーマンセルになる事が多いのだって三代目の意向だ。今でこそある程度は使いこなせるようになった木遁忍術だけど、それでも僕を育ててくれた三代目は心配なのだろう。
 僕と割と歳が近く、そして僕と同じように生まれ持ったものではない力を持つカカシ先輩に面倒を見させようと思ったに違いない。

 火影室を後にして廊下を並んで歩く。ここを出れば、先輩とは別れて家へと帰る。
 ・・・もう少し一緒にいたかったなぁと、散々一緒に過ごしたくせにそんな事を考えてしまう。
 いや、長いこと一緒にいたから、余計にそう感じるのかもしれない。そんな事を考えていたら先輩が、んん・・・と背伸びをしながら僕に言った。
 「テーンゾ。今日、家に行ってもいい?」
 「えっ・・・」
 「このあと暇でしょ? なんか食わせてよ」
 まさか先輩からそんな事を言ってくるなんて思いもしなかったから、心底驚いた。
 親しくしてもらってる方だとは思うけれど、お互いの家に行き来するような仲ではもちろん無かったから、余計に。
 「なんか食わせてって・・・僕が今から作るんですか?」
 「お前以外に誰がいるって言うのよ。最近、外食続きでねぇ・・・栄養偏ってるような気がするのよね」
 と、先輩はあたり前のようにそう言って、付けていた暗部の面を上に上げた。
 銀色の髪が揺れて、その整った顔を見せられたら嫌だなんて言えるはずもなくて、はぁと溜め息を吐いた。
 本当は嬉しすぎて飛び跳ねたい気分なのだけど、気付かれたくないからわざと仕方ないといったように答える。
 「わかりましたけど、僕も疲れてるので簡単な物しか作りませんよ。それでよければ」
 「ほんと?じゃあ、今から買い出しに行こっか」
 そう言ってにっこり笑われたら、僕もつられて笑顔になってしまう。
 「そうですね。報告も済んだ事だし、行きましょうか」

 そして、先輩と二人並んで夕飯の買い出しに出かける事になった。
 先輩と二人で食事に行く事は何度もあったけど、こうやって肩を並べて買い物をするなんて初めての事で、少し緊張してしまう。
 行き慣れた八百屋で野菜を買い、魚屋で魚を買って。「煮付けが食べたい」「えー、面倒じゃないですか。先輩、作って下さいよ」なんて言い合うのはとても新鮮で恋人同士みたいでもあって、なんだか不思議な気持ちになってしまった。
 「あ、酒買ってってもいい?」
 「・・・酒、ですか」
 「うん。別に付き合わなくていいから。明日、休みだし飲みたいんだけど」
 実は僕は酒が飲めない。一滴も。
 何度か飲まされた事があったんだけど、すぐに酔っぱらってしまって記憶が飛んでしまうから、もう飲まない事にしている。
 もちろん先輩も、その事は知っている。だから僕に酒を勧めたりすることはなかったから、先輩が一人で飲むというのなら問題はない。
 「僕は飲めませんけど、いいですよ。せっかくの休みなんですから」
 「じゃあ、ゆっくりしてってもいいの? 明日予定は?」
 「何もありませんよ。強いていうなら部屋の掃除をしたいぐらいで・・・先輩はいいんですか?」
 先輩が泊まっていくかもしれない。
 そう思うと変にそわそわしてしまって、気持ちが落ち着かない。
 「ん〜? 何が?」
 「せっかくの休みなのに、僕なんかと一緒にいて」
 今までずっと一緒だったのに。それでも僕と一緒に食事したいって言ってくれるのは、僕にとったら凄く嬉しい事なんだけど。
 「家に帰っても一人だし、それだったらお前と飯でも食ってたほうが全然楽しいもん。テンゾウも帰りを待ってるような人、いないんでしょ?」
 「僕にそんな人いる訳ないじゃないですか」
 「ま、いいじゃないの。男二人寂しく飯を食べるの、悪くないでしょ」
 と、先輩は笑う。
 男二人寂しくと言った割には嬉しそうに笑った先輩に、そうですねと僕も笑い返して、いつの間にか暗くなった道を先輩と一緒に歩いて家に帰った。





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