in the flight












カカシ

 目の前からテンゾウがいなくなって、緊張の糸が解ける。
 大きく溜め息を吐いて、ベッドの縁にもたれかかった。体が重い・・・こんなに飲んだのは久しぶりなのに、まだ潰れないなんて。酔いたい時に限って酔えないんだよなぁ。
 しばらくして、台所のほうから少しクセのある包丁の音が聞こえてきた。
 懐かしいな・・・ほんと、こんなふうにいたら昔のまんまなのに。その音に聞き入っているうちに、段々と瞼が重くなってきて目を閉じる。今なんかちょっと幸せかも・・・なんて思ったりしていると、しばらくしてテンゾウの足音が近付いてきた。
 でも体も瞼も重くて起きれそうにない。もうこのまま寝てしまおう。

 コトンとテーブルに物を置く音がした。
 「先輩? 寝てます? 」
 そっと気遣うような小さな声が、とても優しい。
 「・・・せんぱ〜い」
 その声がどんどんと近付いてきて。今はテンゾウが俺のすぐ傍にいるのが分かる。介抱してくれるのかな・・・。
 「寝るならベッドで寝て下さい。・・・あれ、本当に寝てます? 」
 耳のそばで優しい声で言われたら嬉しくて、思わず頬の筋肉が緩んでしまう。
 「先輩・・・。風邪でも引いたら良くないんで、ちょっとすみません」
 そう言ったかと思えば不意に体を持ち上げられ、思わず目を開いてしまった。
 「やっぱりまだ起きてましたか。でも、もう眠いんでしょう。ゆっくり休んでください」
 「・・・ん」
 両腕で抱き上げられているからテンゾウの顔がすぐ傍にあって。その上、こんな事されて優しいこと言われたらドキドキしてしまって。何も言えなくなる。
 体中でテンゾウを感じてしまって、ベッドの上に降ろされてからもドキドキするのが止まらなかった。
 そんな俺に布団をかけてくれて、ふわりと俺の髪を撫でてから何か言いたげな表情をしたけれど、テンゾウは一瞬躊躇ったあと微笑んだ。
 「・・・。おやすみなさい」
 「おやすみ」
 今、何を言いかけたんだろう?
 すごく気になるけど、今はただ眠たくて、そのままふわふわとした幸せな気持ちのまま眠ってしまった。

 目が覚めたら、人がいないはずの自分の部屋に他人の気配を感じて飛び起きてしまった。・・・けどすぐに昨晩の事を思い出し、一人呟いて納得する。
 「・・・あ、そっか」
 昨日はテンゾウと飲んでたんだった。ベッドの縁にもたれかかったまま寝息を立てているテンゾウが、それに気付いた様子で起きてしまった。
 帰ると思ってたんだけどな・・・。
 「んん・・・、おはようございます」
 「ごめん、起こしちゃった」
 だけど、おはようと言うのもまだ随分と早いみたいで時計を見れば三時を過ぎた頃だった。寝ぼけているのかな。
 「・・・寒くない?」
 「寒い、と言ったらベッドに入れてくれるんですか? 」
 「・・・え」
 「寒いです、先輩」
 突然そう言って、俺の返事を待たずにテンゾウがベッドに潜り込んできた。
 「わっ・・・ちょ、何! 酔ってる? それとも寝ぼけてるんでしょ・・・! 」
 思わぬ事態に目が覚めて、俺はベッドの隅に逃げ込んだ。だって一緒に寝るとか、さすがの俺もちょっと色々と無理だと思う。
 「ん〜・・・あったかいです。もうちょっと寝ててもいいですか? 」
 ふにゃふにゃの締まりのない、かわいい顔で言われたら出てけとも言えなくなってしまう。
 やっぱり酔っぱらってるのではと思い、テーブルの上を見てみれば二本目の一升瓶が半分近くも減っていた。
 あれから一人で飲んでたって事? いくらなんでも飲み過ぎでしょ・・・ったく。
 「いいけど。あんま、こっちに来ないでよ」
 そう言って、テンゾウに背を向ける。これでもかなり精一杯なんだから。
 「・・・僕、布団からはみ出ちゃってるんですけど」
 「じゃあやる・・・っ、布団! 」
 そう言って被っていた布団を持ち上げて、テンゾウにすっぽりと覆い被せてやった。
 ドキドキしすぎて体が熱いから、布団なんかなくったって平気だし・・・と思っていたら、いきなりテンゾウが上から布団ごと覆い被さってきた。
 反射的に押し退けようとしたら、上から押さえつけられていてびくともしない。
 「テ、ンゾウ・・・っ! 」
 真っ暗の視界の中でよく分からなかったけれど、すぐ目の前にテンゾウの顔があった。
 やばいかも。心臓がうるさい。
 「このほうが、二人ともあったかいでしょう? 」
 「そういう問題じゃ・・・」
 「もしかして先輩、僕にドキドキしてくれてたりします? 」
 いきなり的を突かれてしまい、声が上擦ってしまう。
 「そ、そんな訳ないでしょ」
 「・・・先輩って誰と飲んでも、こんなふうに酔いつぶれたりするんですか」
 「食事に行って少し飲む事はあるけど、家で他人と飲むような事ってしないから・・・」
 「じゃあ、どうして僕と飲む気になったんですか? 」
 「それは・・・誰かと家でご飯食べるのが久しぶりだったから」
 どうしてこんなに質問攻めに遭ってるんだろ、俺。しかも口調が少し強くて、なんとなく押されて答えてしまっているけど。これは答えになっているのだろうか。
 本当の所は言える訳ないんだから、仕方ないけど。

 「っていうか、そんな事聞いてどうすんの」
 「分かりませんか? 」
 意味深な口調で言って、ぐっと顔を近づけてきたテンゾウの顔は真剣で、酔っぱらってない・・・? なんて、疑問に思ってしまう。
 「分かんないから聞いてるの」
 あと少し顔を近づけたら鼻先が触れるぐらいの距離で、耐え切れずに視線を逸らしてしまった。
 「・・・好きです」
 「はい?」
 好き? 俺の事が・・・?
 「先輩のことが好きです。だから、先輩の事が知りたいんです」
 嘘・・・。
 思わぬ言葉に体が硬直してしまった。だって、どうして? 俺が好きって、意味が分からない・・・。
 「・・・先輩は、僕の事どう思ってますか」
 テンゾウの声はどこまでも甘く切なくて、胸に突き刺さる。
 「な・・・んで? って、お前、付き合ってる人いるん・・・っ、んん・・・」

 噛み付くようなキスをされて、言葉を遮られてしまった。
 乱暴だけど、どこまでも甘いキスに体がジリジリと痺れる。酔っぱらった勢いでされているのか、それとも今言った事が本当だからされているのか、どちらか分からないけどテンゾウにキスをされているという事が、理由なんてどうでも良いと思える位に嬉しくて、いつのまにか俺も夢中で唇を何度も重ねた。

 テンゾウのあたたかい大きな手が、服の裾から入り込んでくる。
 ゆっくりと服を上へと捲りながら、大事なものに触れるように優しくその手の平が這い回る。
 首元まで捲られた所でテンゾウが唇を離して、服を簡単に抜き取られてしまった。

 「・・・付き合ってる人は、います」
 熱い欲情した目でまっすぐに俺を見つめながら、そんな事を言った。
 「なっ・・・」
 「でも付き合ってると思ってるのは僕だけなんです」
 「・・・それって付き合ってるって言わないんじゃないの」
 ていうか。俺にこんな事をしておいて、なんでわざわざそんな事を言うのかサッパリ理解ができなかった。
 せっかく甘い気分だったのに、冷や水を浴びせられた気分になる。もしかして、俺を身代わりにしようとか思ってるんじゃ・・・。
 そう考えれば、この状況は納得できる。
 「やっぱりそうですよね・・・でも、それも仕方ないんです。僕が全部、悪いんです」
 「・・・何したの? 浮気?」
 「まさか! そんな事、する訳ないです。・・・先輩、覚えてますか? 先輩がまだ暗部にいた頃に僕が記憶喪失になったこと」
 「あ・・・あぁ。覚えてる」
 テンゾウは一体、何の話をするつもりなんだろう。
 あの頃の俺とテンゾウは、まだ恋人同士だった。でも、記憶は戻ってないんだよね?
 「・・・あのとき僕は、敵に幻術をかけられて記憶喪失になったって事になってると思うんですが、実は三代目に頼んで術をかけてもらったんです。僕は、好きな人の邪魔になるような事だけはしたくないって思ってました。でもその時、その人は僕のせいで悩んでる事があって・・・それに、三代目からも距離を置くように言われていました。だけど、僕もその人と距離を置くような事なんて簡単にはできそうになくて、それで・・・」
 「ちょ・・・ちょっと待って。・・・何の話、してるの・・・? 」
 テンゾウの話からすれば、その人っていうのは俺って事になると思うんだけど、混乱しすぎて話の内容がよく理解できない。
 自分から記憶喪失になった・・・?
 「術のせいでしばらく本当に、その人と付き合っていた事は忘れていました。・・・でも、三代目が亡くなってしまった時に術が解けて全部思い出したんです。それなのに僕は、その人に会いに行かなかった。もう何年も経っていたから僕の事なんか忘れてると思っていたし、自分がやるべき事がまだできていない状況では、まだ会いにいけないと思ったんです」
 「やるべき事・・・?」
 「・・・あなたの力になる事ですよ、先輩」
 「俺・・・の?」
 ずっと苦しそうな表情をしていたテンゾウの目が、ふと優しく揺れた。
 「はい。・・・九尾の力を抑えることは、木遁術が使える僕にしかできません。ナルトの師になった先輩と、また一緒の任務をする事になるのは分かっていました。だから必死になって術を習得したんです。なんとか間に合いましたが、久しぶりに会った先輩は僕に他人行儀で・・・もう僕のことは忘れたんだと思っていました。・・・ついさっきまでは」
 え・・・? 俺、テンゾウに何か言ったっけ。確かに酔いはしたけど、全部覚えてる。
 思ってもみなかった話を聞かされて混乱していた頭が、更に混乱してしまう。

 「これです」
 「・・・あ」
 俺の首にぶら下がっていた二枚のプレートを持ち上げて、俺に見せた。
 「いつ見たのよ・・・」
 「先輩をベッドに運んだ時です。首元にチェーンが見えたんで、まさかと思って先輩が眠った後にこっそり見ちゃいました」
 そう言って、さっきまでの深刻な顔はどこに行ったんだか。ニコニコと笑ってそう言った。
 「人が寝てる時に、勝手に見るなんて・・・!」
 「でもこれ、ひとつは僕のですよね? それに、僕がいるのに無防備に眠ったりする先輩も悪いです」
 なんかこいつ・・・いつの間にか図々しくなってる気がする。
 「っていうか! 俺はお前の事、許してないっていうか・・・! 自分から記憶喪失になったって何よ。ちょっと訳が分からないんだけど。俺にひとこと位、言ってくれたってよかったのに。俺がどれだけ心配したと思ってるんだよ。お前は俺の事忘れてたんだから良いけど、俺はずっと・・・」
 「ずっと?」

                                                                                                  

 ずっと好きだった・・・って言いたいのに、胸がいっぱいになってしまって言葉が続かない。
 そんな俺の様子を見て、テンゾウはふと優しい顔をする。
 「好きです。僕は、先輩のことが忘れられません」
 その言葉に、泣きそうになってしまった。どうしてテンゾウは俺がなかなか言えない事を、いとも簡単に言えるんだろう。
 「先輩は僕のこと、まだ好きでいてくれていますか」
 「・・・」
 俺がなかなか言わないものだから聞いたんだろうけど、それでも言えなくて。
 代わりに小さく頷いたら嬉しそうに笑って、そのあと強く抱きしめられた。

 テンゾウの手が俺の髪を何度も撫でるのが心地よくて、俺も同じようにテンゾウの髪を撫でてみると体を少し起こして、俺を見つめてくる。
 透き通っていて吸い込まれそうになる黒い目は、昔と全然変わっていない。
 顔が近付いてくるからキスされると思って目を瞑れば、唇じゃなくて閉じた瞼にキスをされた。
 「・・・っ」
 触れた瞬間に体が震えてしまったら、テンゾウにからかわれるように笑われてしまった。
 「やっぱり先輩、かわいいですね」
 「・・・お前はかわいくなくなった」
 俺をからかうのが楽しいんだろうか。なんか馬鹿にされてばかりのような気がする。
 「すみません。先輩の反応がかわいすぎて、つい」
 「だから、俺にかわいいとか言うなって何度も言ってるでしょ」
 「はい。気をつけるようにします」
 軽く流されたような気がするけど、その後すぐに不意を突かれて唇に触れるだけのキスをされた。
 俺より体温が高いせいか唇が熱い事も、そういえば忘れていた。いや、熱いのは唇だけじゃなくて・・・と、色々と思い出してしまい体中が熱くなってしまう。
 「先輩、顔が赤い」
 「え・・・っ?」
 「やっぱり、かわいい」
 そう言って幸せそうに微笑まれたら、文句も言えなくなってしまった。
 重ねられた唇は、やっぱり熱くて。深く舌を捩じ込まれると、頭がぼうっとしてそんな事はすぐに忘れてしまう。
 「っ・・・ぅ・・・」
 それでも一方的にされるのが悔しくて、必死に舌を絡ませた。舌が擦れ合うざらざらとした感触に、体の奥が熱くなって夢中になってしまう。 

 テンゾウの手が体中を撫で回してから、胸の先を摘んだ。
 「ぁっ・・・ふ・・・」
 きゅっと捻られて、その後捏ねるように撫でられればジンと甘い快感が体中に走る。
 息が苦しくてもがいていると、唇を離された。
 「・・・かわいい声、いっぱい聞かせてください」
 「バカ・・・っ」
 だいたい俺はもう三十路になるのに。そんな俺に向かってかわいいなんて言うのは、本当にやめてほしい。そう思っていても、声はどうしたって溢れ出してしまう。
 テンゾウの顔が、首筋に降りてきて舌を這わす。
 耳の後ろを舌の先端で何度も舐められると、ゾクゾクするほど気持ちがよくて、体を仰け反らせた。
 「ぁっ・・・ん・・・」
 耳たぶを甘噛みされ、熱い息を吹きかけられると腰が浮いてしまい、早く触れて欲しいと膨れ上がっている場所をテンゾウの腰に押し付けているような形になってしまった。
 それに気付いたテンゾウが、胸を弄っていた手を降ろしてズボンを下着ごと脱がした。
 「もう凄い事になってますね」
 テンゾウはそう言って体を移動させて、ツンと舌先で先端をつついた。
 そんな簡単な刺激だけで、体が熱くなってしまう。
 「や・・・っ、ぁ・・・」
 それから躊躇いもせず、その先端部分を口に含む。
 熱い舌で焦らすように舐められれば、もっとちゃんと触って欲しいともどかしくて堪らなくなってしまい、テンゾウの髪をぎゅっと掴んだ。
 「ん、・・・っ、焦らさ・・・ないで・・・っ」
 それでなくても、ずっと何年も想い続けていたんだから。年甲斐もなくがっついて、とも思うけどそんな事を考えてる余裕なんか今はない。
 早くひとつになりたくて仕方がない。
 「わかりました」
 顔を上げてそう言ったかと思ったら、今度は喉の奥まで呑み込まれてしまう。
 唇でぎゅっと締め付けられて上下に動かされただけで、もうイってしまいそうだった。
 「あぁっ・・・あ、いや・・・っ、待っ・・・て」
 一人でイきたくないのに。
 それなのに、テンゾウはやめてくれなくて。先端が喉の奥に当たっている。
 苦しくないんだろうかと思いながらも、気持ちよすぎて何も考えられなくなってしまう。
 「やっ・・・出る・・・っ・・・!」
 一瞬目の前が真っ白になった。
 ドクドクと体中が脈打って、乱れた息がなかなか戻らない。ぼんやりした頭のまま、テンゾウを見れば俺が吐き出した精液を呑み込んで唇を拭っているところだった。
 その光景がたまらなく恥ずかしくて。
 「の、飲むことないでしょ・・・っ」
 「前は飲んでも怒らなかったですよ? それに、久しぶりなんです。味わせてくれたって・・・ぐっ」
 更に恥ずかしい事を言ったテンゾウの腹にパンチを入れると、不意を突かれた様子でその場にうずくまってしまった。
 「だ・・・大丈夫?」
 それでも顔を上げないから心配になって覗き込んでみれば、突然腕を掴まれて強く引っ張られ、そのままテンゾウの胸の中に飛び込んでしまう。
 「お前・・・っ」
 「すみません。先輩があんまりにもかわいかったんで、つい」
 また、からかっているのかと思い顔を上げて反論しようとすれば、やさしい顔で微笑まれて何も言えなくなってしまい、俯いたその視線の先に、テンゾウの下半身があって。
窮屈そうに、ズボンを押し上げて膨れ上がっていた。
 「・・・俺もする」
 「・・・はい?」
 多分、言葉の意味が分かっていないテンゾウの事は気にせず、ぐっと体重をかけてテンゾウを押し倒した。
 「え・・・先輩・・・? 」
 「いいから、大人しくしてて」
 そう言って、テンゾウの服を脱がしていく。
 だけど、思った以上に緊張しているのか中々上手くいかない。ズボンと下着をやっとのことで抜き取ってみれば、テンゾウのものがブルンと揺れて飛び出してくる。
 その大きさに息を呑みながら、恐る恐る舌を伸ばせばテンゾウが俺の頭をそっと掴んだ。
 「・・・本気ですか? 」
 目を真っ黒にして、信じられないといった様子で俺を見ている。
 「俺がしたいの。・・・俺だって、お前に気持ちよくなってもらいたいから」
 そう言ってから、一思いに先端を口に含んだ。
 張りのあるツルツルした部分に下を這わせながら窪みから溢れ出る蜜を吸い取り、握り込んだ竿の部分をゆっくりと扱く。
 「・・・ぅっ、・・・」
 扱けば扱くほど強く脈打つそれを、喉の奥まで呑み込んだ。
 テンゾウがしてくれたように、唇でぎゅっと締め付けて何度も上下に出し入れを繰り返せばテンゾウの吐く呼吸が早くなってくる。
 「く・・・、ぁ・・・っ、せん・・・ぱぃ・・・っ」
 俺の頭を掴む力がぐっと強くなったから絶頂が近いのかと思っていたら、引き離されそうになった。
 「も、いいです・・・っ」
 俺に飲ませたくないとかどうせ思ってるんだろうけど、俺のを飲んだのだからそんな事は言わせない。
 俺も意地になってその手を振り払い、行為を続ければ根元がビクンと強く波打って喉の奥にテンゾウの精液が吐き出された。
 「は・・・ぁ・・・、先輩・・・」
 「・・・苦ぁ」
 テンゾウがしたように呑み下せば、濃い液が喉に絡み付いて咽せてしまった。
 俺がケホケホとしている間に水を取ってきてくれて、苦笑いをしながら手渡してくれた。
 ひとくち飲めば収まって、ふぅと一息つく。
 「大丈夫ですか? だから、いいって言ったのに・・・」
 「だってお前が飲むから・・・! でも、テンゾウはなんで平気なのよ」
 「さあ、なんででしょうね。先輩のだから、ですか」
 サラッと恥ずかしい事を言うのは、そういえば昔からだったような気がする・・・。
 でも、やっぱり馴れそうにない。
 「気持ち良かった? ・・・久しぶりすぎて、下手だったかも」
 「先輩にしてもらって、気持ちよくない訳がありません」
 ニコニコと笑いながら言われて、恥ずかしくて何も言えなくなってしまった。
 改まってお互い向き直って見つめ合う。
 さっきまでまだ信じられなかったけど、こうやって見つめられていたら現実味を帯びてくる。ずっと言いたかった事も言えそうな気がした。
 「・・・俺、どんなに忙しくしててもお前の事、忘れられなかった。記憶喪失になった時、本当はずっと付いてたかったけど、一緒にいるのが辛かったんだ。会いに来なかったお前もお前だけど、結局離れたのは俺なんだよね。ごめん」
 「先輩は悪くなんかありません。あんな事しなくても、ちゃんと話し合えばよかったんです。本当にすみませんでした」
 「ま・・・でも、こうやってまた元に戻れたから」
 あの時からずっとずっと辛かったし寂しかったけど、その分だけ喜びは大きくて。
 「・・・はい」
 「好きです、先輩」
 「・・・俺も」

 どちらからともなく唇を重ねて、角度を変えてくちづけを深くする。
 テンゾウの舌が口内を舐める度に甘い痺れがして、体がまた熱くなりはじめた。
 「ん・・・ふ・・・っ」
 甘ったるいくちづけに、頭がクラクラする。舌をテンゾウの口内へと差し込めば、きゅっと強く吸い付かれて体から力がどんどん抜けていく。
 「は・・・ぁ・・・」
 テンゾウの手が俺の背中を撫でているのが、すごく心地よくてうっとりしていると、その両手に腰を掴まれて持ち上げられた。
 「っ・・・?」
 そのままテンゾウの上を跨ぐように、足の上に乗せられる。
 いつのまにかまた大きくなってしまった自身が、同じように硬く立ち上がっているテンゾウのものと重なり合った。
 思わず唇を離すと、テンゾウの指が唇に押し当てられた。
 「・・・慣らすものなんて、ないですよね?」
 「あ・・・いや、ある・・・かも」
 「そんなものが何であるんですか」
 「いや・・・使用期限が切れてるかもしれない」
 「そういう問題じゃなくて・・・! なんで持ってるんですか、先輩」
 ぼんやりした頭で答えていたのだけど、深刻な表情になってしまったテンゾウを見てアタフタする。
 「や、だからお前が置いてったやつが何本か・・・」
 でも、数年前のものだから駄目になってるかも。そう言ったら、ホッとしたような顔になったから安心する。
 「びっくりさせないで下さいよ・・・どこですか? 取ってきます」
 「そこの引き出しの奥」
 と、ベッド脇の引き出しを指差せばテンゾウが取りに行ってくれた。
 開けてない新しい瓶を見てみれば案の定、使用期限は過ぎてしまっていた。でもこういうのって、意外と大丈夫なんじゃないの?
 「開けてないんだし、大丈夫でしょ」
 「いやでも・・・」
 うーんと首を捻るテンゾウをよそに蓋を開けて匂いを嗅いでみても、変な匂いもなくて。
 「ほら。大丈夫っぽい」
 「でも、荒れたり痒くなったりしたらどうするんですか」
 ・・・確かに、あんな所がそんな事になってしまったら大変かもしれない。
 「それは嫌かも」
 「やっぱりやめましょう。また用意しておきます」
 そう言って、テンゾウがさっきみたいに俺の唇に指を押し当てた。
 「・・・ん」
 唇を少し開ければ、そっと指の先が入り込んでくる。その先端を唇で咥えて舐める。すこしづつ中に押し入ってくる指に唾液を絡ませているうちに、変な気持ちになってくるのが分かった。
この指が自分の中に、これから入ってくるんだと思ったら興奮してしまわずにはいられない。
 「んん・・・ふっ・・・」
 「先輩・・・」
 ふいに呼ばれて視線をあげると、顔を赤くしたテンゾウが俺をじっと見ていて一気に恥ずかしくなってしまった。
 「その顔、反則です」
 そう言ったかと思えば、俺を押し倒して両足を持ち上げられた。
 一番見られたくないような所が丸見えで恥ずかしくて堪らないのに、テンゾウは更に恥ずかしい事を要求してくる。
 「足、支えてて下さい」
 「・・・うん」
 言われた通りに自分で足を支えると、さっきまで咥えていた指が後ろの蕾に押し当てられた。
 ゆっくりとなぞるように触れた後、ツプンと押し込められた。
 「や、ぁ・・・あ・・・」
 そして指を差し込んだまま、テンゾウがそこに顔を埋める。・・・もしかして舐めようとかって思ってる? 無理・・・! 
 「待っ・・・」
 風呂にでも入った後ならまだしも。それなのに、お構いもせず舌を這わせた。
 「あ・・・んん・・・っ」
 くにくにと押し開くように指を動かしながら、入り口を解すように舌先で回りをなぞられると何とも言い難い快感が押し寄せ、体の力が抜けた所を見計らっていたかのように、指を奥に押し進められた。
 生温い唾液も一緒に入ってきて、指を出し入れされる度に水音が聞こえてくる。
 「ぁ・・・ん・・・っ・・・んん・・・」
 指の根元まで押し込められて、入り口を這い回るばかりだった熱い舌までもが押し込められた。
 中でくねくねと動く感触が何とも言い難く、びくびくと体が震えてしまう。
 「や・・・っ、あぁ・・・」
 体の中を舐められているという事が堪らなく羞恥を誘う。
 そして内壁を広げるように動かされていた指が、ある部分を刺激しはじめた。探す事もなく、その場所を覚えてくれていた事がどうしようもなく嬉しい。
 「テンゾ・・・っ」
 「ここですよね? 先輩のいいとこ」
 そう言って顔を上げて、何度も押し潰すようにして触れてくる。
 「あっ・・・あ、・・・そこ、やだ・・・っ」
 そこに触れられると、訳が分からなくなる位に気持ちよくなってしまう。気持ちよすぎて意識が飛んでしまう事も何度かあったから、触れられるのは嫌ではないけど、自分が自分じゃなくなってしまいそうで怖くなるんだ。
 目の前が真っ白になって、ぎゅっと強く目を瞑る。
 「も・・・、あっ・・・あ、あ・・・イク・・・っ」
 体中の血が逆流して、体の震えが止まらない。
 ずっと足を支えていた手が力なく落ち、乱れた息を吐き続けていたら体を起こされて抱きしめられた。
 テンゾウに体を預けると軽々と俺の体を持ち上げて、後ろの蕾に肉棒の先端を押し当てられた。
 「・・・先輩。いいですか」
 もう限界といった感じの掠れた声で言われて、こくんと頷けばそのまま俺の腰を支えていた手の力を抜かれ、根元まで突き刺さるようにテンゾウの欲望を呑み込んだ。
 「ああ・・・っ・・・!」
 仰け反った反動で後ろに倒れそうになる体を、テンゾウの大きな手が支えてくれる。
 俺の中で熱い塊がドクドクと脈を打っているのがわかって、今さっき達したばかりだというのにすぐにまた勃ち上がり始めてしまう。
 「痛くはないですか・・・?」
 「・・・分かんない」
 訳がわからない位に気持ちよくさせられた後だから、もし痛みがあったとしても感じないだろうし、それにテンゾウとやっとひとつになれた事が嬉しくて堪らなかった。
 「・・・んん・・・」
 それよりも動かされずにいる事のほうが辛くて無意識に腰を動かしてしまう。
 「・・・誘ってくれてるんですか」
 「早く・・・」
 小さく頷いてそう答えると、背中を支えていた手が腰を強く掴んだ。
 「しっかり掴まっててください」
 そう言われて、降ろしたままだった両腕をテンゾウの首に回したら、腰を上下に持ち上げられて下からも突上げてくる。
 「あっ、あ・・・っ、あぁ・・・」
 振り落とされないように強くしがみついて、テンゾウに体を委ねる。
 激しい律動に意識を飛ばしそうになりながら、もしかして俺が前にこの体位が好きだって言った事を覚えてるのかな、なんて事を考えた。
 いつのまにか俺もテンゾウも汗ばんでいて、触れ合う肌がしっとりと吸いつく。
 「先輩。そのまま、掴まったままでいてください」
 言われた通りにしていると、繋がったまま後ろにそのまま押し倒される。
 両足が上へと持ち上がったせいで、更に奥へと押し進められた。
 「体勢がきつかったら、すみません」
 その両足を肩にかけて、俺の体を折り畳むようにして覆い被さってくる。
 覗き込むテンゾウの目は欲情の色をしていて、切なげな表情で見つめられたら胸がズキズキと甘く痺れた。
 「・・・きれいです、先輩」
 張りのある艶っぽい声で言われたら、心臓が飛び跳ねそうになってしまう。
 「テンゾウ・・・」
 「なんですか」
 「・・・、き」
 聞こえない位の小さな声で言ったのに、ちゃんと聞こえていたようでテンゾウの目が一瞬大きく見開いた。
 「・・・僕もです」
 そう言って優しく微笑んでくれて。
 でも、その言葉がテンゾウを煽ってしまったらしく、一段と腰の動きが激しくなった。
 内蔵を抉るように何度も内壁に熱い塊を打ち付けられると、気持ちよすぎてただ声を上げることしか出来なくなってしまう。
 「ああっ・・・あ、あ、はぁ・・・っ、ん・・・」
 そして、さっき何度も刺激されて敏感になっている部分を強く擦られて、ビクンと大きく体が波打つ。
 「っ・・・あ、あ・・・も・・・そこ・・・っ」
 「・・・っ、ここ、ですよね」
 そう言って同じ所ばかり責められ、訳が分からなくなってしまう。
 「あ・・・っ、やっ・・・、・・・くっ」
 「そんなに、締め付けないでください。もたなくなる・・・っ」
 「あぁ・・・、ぁっ、もう出る・・・っ、・・・」
 「僕も、もう限界・・・っ」
 テンゾウの余裕のない声を聞いて、俺なんかの事を本当にまだ好きでいてくれているんだと実感して胸がいっぱいになった。
 意識が飛んでしまいそうな強い快感の後、体の中の塊が強く脈を打って、熱い液体が広がっていくのを感じた。

 肩にかけられたままだった両足を降ろして、体が動かせずにいる俺を抱きしめた。
 密着した体から俺よりも早い心臓の音が伝わってきて、思いもよらず涙が零れてしまう。
 自分でも驚いて唖然としていると、テンゾウが顔を上げて俺の顔を覗き込んだ。
 「・・・先輩?」
 俺が泣いている事に驚いた様子で、目を丸くさせた。
 「なんでもない・・・っ」
 見られた事が恥ずかしくて思わず顔を背ける。泣いてる所なんて、見られたくない。
 「すみません・・・久しぶりなのに、無理しすぎてしまいましたよね」
 そんなんじゃない。痛かったとか、辛かったとか、そういうのでは無くて・・・。
 どうして涙が止まらないのか俺にも分からないけど、多分嬉しすぎて泣いてるんだと思う。
 だから余計にテンゾウには知られたくない。
 「・・・そうじゃない」
 「でも・・・」
 心配そうな声。
 テンゾウを不安にさせたい訳じゃないのに、どうしたらいいんだろう。
 「別に・・・悲しくて泣いてる訳じゃないから。気にしないで」
 そう言えば、暖かい手が俺の頬に触れた。
 「顔を見せて下さい」
 「・・・やだ」
 「やっと元通りに戻れたのに、顔ぐらい見せてくださいよ。ね、先輩。お願いします」
 優しく甘い声で言われたら余計に涙が溢れてきてしまって、どうしようもなくなって。
 テンゾウにだったら見せてもいいかなと思い、ゆっくり顔を上げると眩しい位の笑顔がそこにあった。
 頬に触れていた指が涙を拭い、顔が近づいて来るから目を閉じれば目尻に唇が押し当てられた。
 ちゅっと涙を吸って、ニッコリ笑う。
 「好きです、先輩」
 そんな事を言われてしまえば、胸が更にいっぱいになってしまって言葉が出て来ない。
 今までずっと我慢していた色々なものが、一気に溢れ出してしまっているのだろうか。
 俺が何も言わなくても、テンゾウは優しく微笑んで。
 キスを強請るように目を閉じたら、蕩けそうな位に甘いキスをしてくれた。





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