in the flight












       テンゾウ

 僕はもしかして、大変な事をしてしまったんじゃないか。先輩は明らかに嘘を付いている。表情や声ですぐに分かってしまった。
 それなのに、どうして何も言わないんだろう。もしかして僕に気を使って、何も無かった事にしてくれているんだろうか・・・先輩は優しいから。それとも、僕に何かされた事を忘れてしまいたいって思っているのかもしれない。
 こんな男の、しかも後輩に何かされたなんて・・・でも、先輩は僕の事を気遣って、今も無理に笑顔を作ったりしている。

 お前なんか嫌いだ。間違いなく、先輩は僕にそう言った。
 夢なんかじゃない、ハッキリ覚えている。その言葉で一気に酔いが覚めたんだ。そのあと気を失うように眠ってしまった先輩を抱きしめているうちに、眠ってしまった。

 あの時の様子を思い出せば思い出すほど、その前に何があったかすぐに予想はつく。それなのに、先輩は無かった事にしようとしている。それじゃ、駄目だ。一番大切な人に、一番したくなかった事をしてしまった。だから、許してもらえるなんて思わないけど謝りたい。
 先輩の目を見て、ちゃんと聞こう。そう思って顔を上げたら、遮るように先輩が先に言葉を発した。
 「風呂でも入ってきたら? 少しはすっきりするんじゃない」
 先輩の表情が、少しだけ引き攣っている。やっぱりこれ以上、気を使ってほしくない。
 「先輩。本当のこと、教えてください」
 「いや、だからね」
 「先輩・・・!」
 言葉を濁し続けるから、僕は思わず大きい声を上げてしまった。
 普段、言い返すような事はしないから、先輩は驚いた顔をして僕を見る。・・・どうして僕は、こんなに不器用なんだ。ただ本当の事を聞きたいだけなのに。

 「どうして隠すんですか?・・・僕に気を使ってくれてるのなら、そんな事しなくていいです。先輩に嫌われるような事をした僕に、こんな事言う筋合い無いの分かってますけど、このまま気まずくなったりするのは嫌なんです」
 「・・・言った所で、気まずくなるのは一緒でしょ」
 僕の言葉に視線を落とした。
 確かに先輩の言う通りかもしれないけど、それでも言いたい事を言わないままでいるのとは違う。
 「でも、僕は・・・」
 「大体ね、言える訳ないでしょ。何されたかなんて、本人に言うなんて恥ずかし過ぎるにもほどがあるっていうか・・・お前にとったら何でもない事かもしれないけど、俺はね・・・」
 「何でもないことって・・・?」
 それはちょっと聞き捨てならない。
 「前にもあったんでしょ? こんな事・・・だから」
 「無いです。こんな事、一度も。だから僕も、どうしたらいいか分からないんです」
 いくら酔っぱらったとしても、先輩以外の人にそんな気持ちになったりはしない。好きな気持ちが溢れ過ぎて、押さえていた理性が酒のせいで飛んでしまったとしか。
 「・・・うそ」
 「こんな時に嘘なんかつきません」
 先輩は戸惑った様子で僕を伺うように視線を上げる。
 「でも、すごい慣れてた」
 「慣れてなんか。記憶が無いので、どこまでしてしまったのか分かりませんが・・・先輩、怒ってないんですか?」
 何かあった事は認めてくれたようだけど、僕に対して非難の言葉は全く無い。それどころか、僕の事ばかり聞いてる。
 ・・・仲のいい後輩が、道を踏み間違えないよう心配してくれているのだろうか。
 「怒ってるに決まってるでしょ・・・!」
 ハッと、思い出したように表情を変える。その顔は真っ赤だ。
 「・・・すみませんでした。謝って済む事じゃないのは分かってます。でも、先輩を傷付けてしまいました」
 「怒ってるけど・・・! ・・・けど、あんな事したの初めてだって言うなら・・・」
 「・・・言うなら?」
 「・・・その、俺も悪い・・・し」
 と、罰が悪そうに俯く。そんな仕草を見ていると、酷い事をしたのは僕なのに、抱きしめてあげたくなってしまうけど我慢して、言葉の続きを待つ。
 「・・・煽るような事、言ったし・・・そもそも、酒飲ましたのだって俺だし・・・」
 煽るような事? そんなこと先輩が言ったなんて、残念な事に僕は全く覚えていない。
 「何て言ったんですか?」
 「そんな事、今さら言えるわけないでしょ・・・」
 と、先輩は更に顔を真っ赤にして背を向けてしまった。
 ・・・反則だと思う。かわいすぎる。今すぐ抱きしめたいと思った。でも、そんな事したら本当に怒らせてしまうだろうから我慢しないと。
 「すみません。あの・・・それで、僕は先輩にどこまで・・・」
 「あぁもうっ・・・この話、お仕舞い!」
 「あっ・・・待って下さい!」
 限界だと言ったふうに先輩は立ち上がろうとしたから、慌てて僕は引き止めようと後ろから強く抱きしめた。抱きしめた反動で後ろのソファにそのままトスンと、座るような形になった。
引き止めるというのは口実で、僕は先輩を抱きしめたくて仕方なかったから。項に顔を埋めると、先輩の匂いが微かにして体が熱くなった。一度、こんな風に抱きしめてしまえば好きだという想いが抑え切れず、唇から零れた。
 「好きです」
 「・・・え?」
 「先輩が好きです。嫌いだと言われてしまったから、もう言う事はないと思ったばかりだったんですけど、やっぱりどうしても言いたくなりました。もう今までみたいに一緒にいられないのなら、伝えておきたいと思ったんです。好きです。・・・僕は今、昨日の自分に嫉妬しています。先輩を僕のものにしたいって思ってるんです・・・」
 じっと黙って僕の言葉を聞いていた先輩が、抱きしめている僕の腕をぎゅっと掴んだ。あぁ・・・怒られる、今度こそ。そう覚悟を決めて、先輩の言葉をじっと待っていたら。
 「・・・もうお前のものになってるでしょ」
 なんて事を、聞こえない位に小さい声で言った。僕のものになってる・・・って、どういう事・・・?
 「あの・・・それはどういう意味なんでしょう」
 「こんなにいっぱいマーキングしてくれちゃって。・・・恥ずかしくて、任務中着替えもできないでしょ」
 「・・・先輩、それって・・・!」
 「俺が嫌だったら、酔ってても絶対に触らせない。・・・そういうこと」
 これは・・・どうしよう。訳が分からない位に嬉しい。そんな事言われたら、抱きしめているだけじゃ物足りなくなってしまう。
 「じゃあ、触っても怒らないんですね?」
 「えっ・・・わ、ちょ・・・っ!」
 肌に触れたくて、抱きしめている腕を解き服の中に手を潜り込ませる。心臓の音が早い・・・僕が触れているから、ドキドキしてくれているんだと思ったら止められなくなった。
 パジャマをまくり上げて胸の先に触れると、先輩の体がびくりと震えた。
 「キスしてもいいですか?」
 「順番が、逆でしょ・・・っ・・・ん、んぅ・・・」
 我慢ができなくて、僕はその唇を塞いでしまった。はじめは強張っていた体も、くちづけを深くすれば甘い溜め息と共に力が抜けて、くたりと僕に体を預けるようにもたれかかった。
 昨日、僕がどんなふうに触れたかは分からないけれど。酔った勢いでしてしまったのだから、乱暴にしてしまったかもしれない。だからその分、先輩に気持ちよくなってもらいたい。

 触れただけで硬くなった胸の先を優しく摘み、指の腹で撫で回すと先輩の体が小刻みに震えた。先輩が感じているんだと思うと、なんとも言えない気持ちになってしまう。もっとしてあげたい。
 潜り込ませた舌を更に深く舌の付け根まで擦り合わせると、どちらのものか分からない唾液がクチュクチュと水音を立てた。
 「ぅっ・・・ん・・・っ」
 口腔をなぞるように舐め回せばびくびくと体を震わせて、だらんと伸ばされていた手で僕の腕をぎゅっと掴んだ。それは、やめて欲しいという訳では無さそうだ。
 少しだけ強く胸の先を摘めば、ビクリと体を震わせて。僕の腕を掴んでいた手が後頭部に伸びていき、強く髪ごと掴まれる。そんな、僕を煽るようなかわいい反応をしてくれるから頭がクラクラしそうになってしまう。
 「っ・・・んん・・・ん・・・」
 気付けばもぞもぞと、腰をもどかしそうに揺らしている。視線をそこに落とせば、はち切れそうなほどに膨らんでいた。
 「っは・・・ぁ・・・」
 「こっちも、触っていいですか?」
 後ろから抱きしめたまま、そこに手を伸ばすと先輩は小さく頷いた。息継ぎができない位に深いキスをしていたせいか。先輩の吐きだす息は荒くて熱っぽくて。たまらない気持ちになってしまった。

 唇を首元に落とし、そっと押し当てて何度も啄むようにキスをする。体中こんな風にキスをしてしまいたい気分だ。空いている片方の手で、パジャマのボタンを外していく。さっきまでは布が邪魔でよく見えなかった先輩の乳首が赤くなって勃っているのが見える。
 「唇、くすぐったい・・・」
 「嫌ですか・・・?」
 「嫌じゃない・・・けど・・・ぁっ、や・・・っ!」
 唇を離した代わりに、苦しそうに布を押し上げていた先輩のものを、下から形を確かめるようにゆっくり手の平で撫で上げたら、先輩は上擦った声をあげた。
 先輩の体に触れているだけなのに、自分のものが強く脈打つ。

 先端部分を布越しに指の腹で撫でれば、じわりと濡れてグレーのパジャマにシミが出来た。それがとても卑猥だと感じて、僕は思わずごくりと生唾を飲み込んだ。
 「テンゾ・・・」
 「はい」
 「焦らさないで、ちゃんと触って」
 「・・・はい」
 思わず声が掠れてしまった。切なげな息を吐きながら恥ずかしそうにしながらも、こんなふうに苦しそうに言われたら心臓が破裂してしまいそうだ。

 後ろから抱きしめたまま、精一杯腕を伸ばしてパジャマのズボンを下着ごとずらせば、硬くそそり立った先輩の肉棒が勢いよく飛び出した。
 そっと包み込むように握り込めば、僕と同じように強く脈打っているのが分かった。
 「っ・・・ぁ・・・はぁ・・・ぁ」
 握り込んだ手をそのまま上下に動かして扱けば、先端からとろとろと蜜が溢れ零れ落ちて僕の手を濡らし、動かす度にぐちゅぐちゅと卑猥な音が響く。
 「んっ・・・は・・・ぁっ・・・」
 小さく溢れ出る先輩の声を聞いていると、僕まで気持ちよくなってしまう。先輩の胸に触れていた手を髪に潜り込ませ、後ろを振り向かせてもう一度唇を重ねる。
 扱いていた手の速度を上げればドクンと強く脈を打ち、ビクビクと震わせながら欲を吐き出した。
 「はぁ、ぁ・・・ぁ・・・」
 「・・・先輩」
 僕の手で先輩が感じてイったという事が、どうしようもなく嬉しい。
 くたりと僕に体を預けて大きく息を吐く先輩を、ぎゅっと抱きしめた。先輩の早い心臓の音が伝わってきて、胸が熱くなる。
 「・・・ベッドに行きますか?」
 移動するのも煩わしいと思ってしまったけど、先輩に負担をかけたくないから、そう言えば。言いにくそうに、ぽつぽつと先輩が言った。
 「あの・・・さ。昨日、ここまで・・・だったの・・・。だから、なんていうか・・・俺、こういう事したことないし・・・お、お前はした事あるかも知れないけど・・・っ」
 ここまでっていう事は・・・じゃあ、最後までしなかったってことか。
 「良かった・・・」
 思った事がそのまま口をついて出てしまう。いや、ここまでしてしまった事だって、とんでもない事だとは思うけれど、本当に良かったと。
 「僕も初めてですが、大丈夫です」
 「だ、大丈夫って何!」
 「知識は一応あります。・・・最初は痛いかも知れませんけど、そうならないように無茶はしません。だから・・・」
 「・・・だから何よ」
 「・・・抱きたいです。先輩を、僕のものにしたいんです。でも、先輩が嫌なら・・・」
 嫌なら、どうにかして我慢する。
 そう自分に言い聞かせていると腕の中で先輩が体を動かして、僕に向き直った。恥ずかしそうに顔も耳も赤くさせて見上げる目はうるうると潤んでいて、理性が飛んでしまいそうだ。
 「さっき言ったでしょ・・・もうお前のものだからって」
 俯きながらそう言われたら、頭のネジが何本か吹き飛んでしまった。
 遠回しに言う所がたまらなく可愛くて、思わず先輩を抱き上げた。
 「わっ・・・! ちょっ、何・・・っ」
 「ベッドに行きましょう」
 突然の僕の行動に、心底驚いた様子の先輩にお構いなくそう言って、先輩をベッドまで運んでそっと降ろした。恥ずかしそうな顔をしながら、僕を見上げる先輩の着ていた衣類を全部脱ぎ取って。体を重ねるようにして覆い被さり、唇を重ねた。

 深く抉るように舌を潜り込ませながら、先輩の肉棒を濡らしている精液を指に絡めとる。
 閉じていた足を開き、太腿でもう片方の足を持ち上げるように開かせた。そしてその手を、まだ誰も触れた事のない秘部へと伸ばしていく。
 絡めとった精液を塗り込むように、そっとそっと蕾をなぞれば、ビクリと先輩の体が緊張で硬くなる。
 「・・・ぁっ」
 「っ・・・、力抜いて下さい」
 唇を離して言った声は、やっぱり緊張で掠れてしまう。触れている僕がこんなに緊張しているのだから、先輩はそれ以上かもしれない。・・・こんな固く閉ざした場所で繋がるのだから、いくら先輩とはいえ緊張しないはずはないと思う。
 「はぁ・・・ぁ・・・んん・・・」
 ゆっくり撫でていると、きゅっと蕾が引き攣るように絞まるのが分かる。
 「気持ち悪くないですか・・・?」
 本当に気持ちいいのだろうかと少し不安になってしまい、思わず聞いてしまう。
 「う・・・ん・・・でも、変・・・」
 「少しずつ挿れていきます・・・嫌だったら言って下さい。すぐやめますから」
 先輩が小さく頷いたのを確認してから、中指を折り曲げて少しずつ挿入していく。
 「ぁっ・・・や・・・」
 僕の指を拒むように、ぎゅうぎゅうと肉壁が圧迫してくる。無理に押し進めないように、少しずつ、少しずつ。そして、すっぽりと中指が埋まった頃には幾分か先輩も慣れたようで、熱っぽく荒い息を吐いている。
 「・・・動かしてみますね」
 「えっ・・・ぁっ・・・あ、あ・・・っ」
 すっと挿しこんでいた指をギリギリまで引いて、また埋め込む。何度も繰り返しているうちに、少し解れてきたようでクチュと動かす度に卑猥な音が聞こえてくる。
 「指、増やしてみます」
 「ぁ・・・あぁ・・・待っ・・・」
 「待ちますか?」
 人差し指の第一関節まで挿入した所で、待てと言われて。そのまま挿入するのを止めて、どうするか聞いてみればぎゅっと苦しそうに目を瞑り首を横に振った。
 「ちが・・・、じゃなくて・・・焦らし、すぎ・・・っ、もっと・・・」
 「・・・そんな事言われたら、理性が全部飛んでってしまうじゃないですか。これでも、我慢してるんです」
 こんなかわいい先輩を見ていて、理性を保てている自分に関心している位なのだから。
 でも、慎重にしすぎて辛くさせてしまっているんじゃ、意味は無いから。先輩が望む通りにしてあげたい。
 だから僕は、ぐっとそのまま二本の指を深く根元まで押し進めた。
 「ああっ・・・はぁっ・・・んん・・・」
 ベッドの上に無造作に投げ出されていた腕が、僕の背中に強くしがみつくように回された。熱く圧迫してくる肉壁を、押し開くようにしながら指の腹で擦りあげる。先輩の気持ちいい所を確かめるように、くまなく。
 「やっ・・・! あ・・・っ、そ、こ・・・だめ・・・っ」
 指を折り曲げた所に小さなしこりを見つけて、そこを強く押し付けるように擦り上げれば、今までにないような反応を先輩が見せる。
 「ここ・・・ですね」
 「あぁっ・・・やめ・・・イキそ・・・だ、から・・・!」
 いつのまにか先輩のそこは勃ちあがって、先端から溢れる蜜が僕の腰を濡らしていた。イキそうだからやめてくれと言っているのに、無意識なんだろう。硬くなったそれを、僕の腰に擦り付けるように動かしていた。 
 「イキそうなのに、やめちゃうんですか?」
 僕も我慢の限界が近い事を知る。
 早く先輩の中に挿れたい。その欲望を抑え切れず、先輩を更に追い立てる。腰の位置をずらして自分の硬く膨れ上がったものを先輩のそれに当てがい、腰を揺すった。
 「ぁっ・・・、あ・・・あっああ・・・っ」
 僕に強くしがみつく先輩の体はとても熱く、僕のものと擦れ合う先輩の肉棒は更に熱くて火傷してしまいそうだった。一度も触れていなかった自分のものが、先輩のものによって刺激されている。そう思ったら、余裕なんてなくなってしまう。
 「先輩・・・っ」
 「は、ぁ・・・テンゾ、出る・・・っ」
 切なげな声で先輩は言って、僕にしがみついたまま欲を吐き出した。挿れたままの指を引き抜く瞬間、まるで引き止めるかのように強く締め付けられる。
 吐き出された温かな精液を自分の肉棒に絡ませて、まだイったあとでぼんやりしている先輩の顔を覗き込んだ。その目には、うっすらと涙が滲んでいる。
 僕はもう今すぐにでも先輩とひとつになりたくて仕方ない状況な訳なのだけど、もしかして先輩は辛かったのだろうかと、心配になってしまう。
 「・・・今日はもうやめますか?」
 僕を見上げる先輩の表情は弱々しく、どうしてもいたたまれない気持ちになってしまう。僕はまた傷付けてしまったんだろうか。
 「お前って、変なところ真面目すぎるっていうか・・・鈍感っていうか。いちいち言うの、恥ずかしいんだよ」
 乱れた息を整えようとしながら、先輩が不満気に言った。
 「そうですか? ・・・僕は先輩に優しくしたいんです。だから、嫌がる事はしたくないんですけど、先輩の考えている事が分からなくて・・・」
 だから聞く事しかできないのだけど。して欲しい事を言ってくれれば、僕は多分何でもしてしまうと思う。
 だけどこういう場合、先輩は恥ずかしい・・・なら、僕はどうしたらいいんだろうと、真剣に考えてみる。

 「俺はお前のものなんでしょ? だから、いちいちもう俺の事は気にしなくていいの・・・!さっきから俺の事ばっかりだし、俺はお前にも気持ちよくなってもらいたいって思ってるんだから・・・それなのに、してもらってばっかりで」
 と、もう投げやりになったような口調で言った。・・・先輩がそんな事考えてくれていたなんて。どうしよう・・・嬉し過ぎる。
 「今日は何もしなくていいです。・・・だから、挿れてもいいですか」
 「・・・うん」
 呟くように先輩は言って、そっぽを向いた。その頬を手の平で包み込んで自分の方に向けて、チュッと音を立てて触れるだけのキスをする。
 「好きです」
 体中から沸き続ける想いを伝えれば、僕を見上げていた先輩の目が揺れて。俺も。と、小さく言って視線を逸らした先輩に、もう一度キスをする。
 そして体を起こして、先輩の両足を軽く持ち上げ白濁の精液で濡れている自身を蕾に当てがうと、びくりと先輩の体が強張った。
 「力抜いてて下さい・・・」
 緊張している様子の先輩にそう言って、ぐっと押し進める。熱い肉壁がぎゅうぎゅうと拒むように押し戻そうとして、やっとの事で入ったのは先端部分だけだった。
 「・・・っ、ごめんなさい。痛いですよね」
 「大丈夫・・・だから」
 「一度抜きましょうか」
 「っ、いいから・・・! もっと、奥まで・・・」
 そう強請るように言われたら止める事など出来る訳もなくて、僕はぎゅっと目を瞑って更に奥へと突き進めた。
 「あっ・・・・っ・・・・」
 「熱い・・・」
 先輩の中は火傷しそうなほど熱くて、腰を無理に動かしてしまいたくなるのを必死で我慢する。
 「全部、入りましたね」
 「・・・テンゾウ、抱きしめて」
 先輩は潤んだ目でそう言って、下から両腕を伸ばしてくる。
 「はい」
 繋がったまま覆い被さるように上から抱きしめると、苦しい位に強く抱きしめられた。
 「・・・先輩? やっぱり、辛いですか」
 心配になって聞けば、小さく首を横に振る。
 「そんなんじゃ、なくて・・・」
 「どうしたんですか? 」  「・・・お前の、熱くて・・・溶けてしまいそ
・・・」
 と、本当に熱で溶けてしまっているかのような、甘くて熱い声で言われたら、僕もそうだって気が付いた。繋がっているだけなのに、こんなにも気持ちよくて頭が変になりそうだ。
 「僕もです。先輩の中、気持ちよすぎて、どうにかなってしまいそうです」
 「・・・じゃあ、早く・・・俺、もう・・・っ」
 気が付けば、さっき達したばかりの先輩のものが再び熱を持って、とろとろと蜜を溢れ出していた。もどかしそうに言った先輩を、強く抱きしめ返してゆっくりと腰を動かし始めた。ゆっくりと何度か動かしているうちに、慣れてきたのか入り口が解れて、それでも引き抜こうとする時は強く締め付けられる。
 「ああっ、やっ・・・んん・・・」
 いつのまにか先輩はうっすらと汗を浮かべて、白い肌はほんのりと赤らんでいる。横に背けられた顔を覗き込んで、顔中にキスを落とせばくすぐったそうに頭を振った。
 「先輩、かわいいです」
 「何っ・・・言って、お前のほうが・・・っ」
 「え? 僕がですか」
 「んん・・・っ、そう、ずっと・・・かわいいって、思ってた」
 「僕なんかより先輩のほうが、ずっとかわいいですよ」
 僕なんかがかわいいなんて、先輩どうかしてる。こんなにもかわいい人を、僕は他に知らない。だから先輩が僕に初めて見せてくれる、乱れた姿に夢中になってしまう。
 「・・・先輩」
 「んん?」  「・・・僕、あんまり持ちそうにありません・・・」
 ずっと我慢していたけれど、そろそろ限界が近くなってきた。体中がバクバクと脈打っていて、抑える事ができない。
 「我慢なんか・・・っ、しなくていい・・・」
 先輩のその言葉に、僕は体を起こして先輩の両足を肩にかけて、そのまま先輩の上に伸しかかるように覆い被さると、繋がりが一層深くなった。
 「あぁっ・・・ん・・・っ・・・っ」  「先輩・・・先輩・・・っ」
 うわ言のように僕は何度も先輩の名前を呼びながら、先輩の気持ちいい所をめがけて何度も腰を打ち付けた。
 「や、あ・・・っ、そこ、・・・駄目・・・」
 切なげに声をあげ、腕で顔を覆ってしまったせいでかわいい顔が見れなくなり、僕は体を支えていた手でその腕を掴んで引き剥がす。
 「顔、ちゃんと見せてください」
 「恥ずかし・・・あ、や・・・あぁ、あっんん」
 「僕もう・・・先輩・・・、っ」
 僕のものを呑み込もうとするように張り付いてくる肉壁に抑制が利かず、堪らず中に欲を吐き出した。
 「はぁっ・・・あ、あ・・・」
 そして先輩もその後すぐに達して、僕はそのまま倒れ込むように先輩を抱きしめた。
 「・・・まだ、ドクドクしてる」
 先輩が照れくさそうにポツリと言って、僕に抱きつく。まだ繋がっていたくて、引き抜けずにいた。だけど、先輩だって名残惜しそうにまだ僕を締め付けている。
 「痛くなかったですか?」
 「最初はちょっとね・・・でも大丈夫だから。お前、心配しすぎ」
 「そりゃ心配しますよ。初めてだから、加減が分からないんですし」
 そう言えば、フッと先輩が小さく笑った。
 「・・・? どうかしましたか?」
 「ううん。自分がバカだなぁって思って」
 言葉の意味が分からずに黙っていたら、もう一度先輩は笑う。
 「酔っぱらったら、いつもこんな事してるんじゃないかって思ってた事。よく考えたら、お前がそんな事するような奴じゃないのにね」
 「じゃあ・・・昨日、嫌いだって言ったのって」
 「好きな奴にそんな事されたら、そんな事も言いたくなるでしょ。って、お前、覚えてんじゃないの」
 「いえ・・・。その事だけ覚えてるんです。多分、相当ショックで酔いが覚めたんじゃないかと」
 今でも思い出すと、落ち込んでしまうのだから。
 「本当にすみませんでした」
 「酒、飲めるようになったら? ・・・今後、俺も心配だし」
 「大丈夫です。いくら酔って記憶が飛んでも、先輩以外の人にこんな事しません」
 それだけは自信があるから。そう言えば、恥ずかしそうに視線を宙に逸らして。
 「いや・・・そういう意味じゃ」
 「でも、先輩と普通にお酒も飲みたいですしね。努力します」
 そう言ってにっこり笑えば、先輩も微笑んでくれた。
 優しく微笑んでくれるその表情を見ていて、僕はまだ酔っぱらっていて幻覚でも見ているんじゃないかと思ってしまう。
 先輩が僕の事を好きだなんて。本当に嘘みたいだ。
 「・・・好きです、先輩」
 だから確かめるように、僕は先輩に言う。
 「俺も、好きだよ」
 照れくさそうに答えてくれる先輩に、何度も好きだと言い、照れたように困ったように笑った先輩に、僕はその後何度もキスをした。





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