in the flight












  テンゾウ

 机の上に食事の用意を済ませて、先輩が買ってきていた酒をカップに注ぐ。徳利でもあれば良かったのだけど。そして、自分にはお茶の用意をして一息付いた所で先輩が風呂から出て来た。
 パジャマの胸元から覗く肌が桃色に染まっていて、それは直視できないほど色っぽかった。
 「風呂、ありがとう。テンゾウもゆっくり入っておいで」
 「わかりました。あ、先に飲んじゃってて構いませんよ。簡単な肴も作っておきましたんで」
 そう言って、僕はすぐに浴室に向かった。
 ・・・心臓が飛び出るかと思った。先輩のパジャマ姿を見るのも初めてだし、濡れた髪といい、あの色気はほんと、どうにかならないのかといつも思う。目のやり場に困ってしまうから。
 風呂から上がって、先輩の隣に座る。僕と色違いのパジャマを着た先輩が、僕を見上げてにっこり笑う。
 「早く食べよう。お腹すいた」
 「そうですね」
 「煮付けも作ってくれたんだ、すごい美味そう。料理得意? これで一緒に酒が呑めたら、俺テンゾウの家に通いつめるんだけどなぁ」
 なんて、心臓に悪い事をさらっとたまに言うんだ、先輩は。
 僕の事をそういう風に思っていない証拠なんだろうけど、それならどうにかしてでも呑めるようになりたいと、やっぱり思ってしまう。
 「って、ご飯が食べたいだけじゃないですか。でも、毎度付き合い悪くてすみません」
 「ほんと。飲めるようになったらいいのにねぇ」
 しみじみといった感じで先輩は言って、お酒をぐいっと飲んだ。
 一緒に飲みたいとは思うんだけど、本当にお酒が駄目なんだ。いい感じに酔ったりするぐらいならいいんだけど、人に言わせると僕は酒癖が悪い・・・らしい。

 先輩も僕も任務の後だというのに上機嫌で、一ヶ月近くもずっと一緒にいたっていうのに色んな話をした。だけど、恋愛の話は一切しなかった。そのことで僕が知ってるのは、先輩には恋人がいないっていう事ぐらいで、それ以上は聞いた事が無かった。
 「先輩、飲み過ぎじゃないですか?」
 先輩が買ってきた一升瓶がもう半分も空いている。僕はひとくちも飲んでいない訳だから、もちろん先輩が一人で全部飲んだって事。
 「そんな事ないよ。明日は休みなんだから堅い事言わないの」
 「・・・はあ」
 さすがの先輩も、少し酔いが回っているのか。目が伏し目がちになって、口調も呂律があまり回っていない。
 でもまぁ酔いつぶれて寝てしまっても、明日は休みなのだからゆっくりして行けばいい。
 「机の上、ちょっと片付けますね」
 食べ終わった食器を、台所に運ぶ。
 先輩はソファに身を沈めながらも、まだ酒を飲み続けていた。外ではこんなに飲まないんだけどな、先輩。家だといつもこんなに飲んでいるのだろうか。
 そんな事を考えながら、洗い物を明日に残すのが嫌で全部洗い終えて先輩の所に戻る。これで僕も、少しゆっくりできるかな。
 そう思いながらお茶を一口飲むと、酒の味がした。
 「うわっ・・・せ、先輩!」
 「あは。ごめん、間違って入れちゃった」
 間違って入れるわけないだろうと思いながらも、イタズラする子供みたいに楽しそうに笑う先輩がかわいく思えた。
 でも、僕は本当に酒に弱い。視界が揺れて目の前の先輩が、二重に見えてきた。
 「あ〜・・・僕、本当に駄目なんです・・・」
 「今日ぐらい、いいでしょ。俺が一緒なんだから大丈夫」
 「僕、酔ったら何するか分かんないですよ」
 「いいよ。テンゾウになら何されても」

 そう答えた先輩を、僕は思わず押し倒してしまった・・・らしい。





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